【2026年最新】電気主任技術者(電験三種)「人手不足」の裏にある4つの構造的歪み
「電験三種が足りない」と言われ、国も試験の年2回化(CBT導入)や要件緩和を進めていますが、現場の採用難や人手不足感は解消されていません。
その本質は、単なる「資格者数の不足」ではなく、より根深い構造的な歪みにあります。公式データや制度の現状に基づき、【1. 需要】【2. 供給】【3. 需給のミスマッチ】【4. 法制度の問題】という4つの視点から、その実態を客観的に解き明かします。
1. 【需要】国策と産業構造の変化がもたらす「高圧受電設備」の増加
電気主任技術者を必要とする「高圧以上の受電設備」の需要は、脱炭素化(グリーン化)とデジタル化の流れの中で着実に増加しています。
■ 省エネ法改正による「屋根置き太陽光の導入方針・目標策定」の義務化
2026年(令和8年)4月より、省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)の省令が改正されました。
これにより、全国約1万2,000社の特定事業者(年間エネルギー使用量1,500kl以上の工場、物流倉庫、商業施設など)に対し、「建屋屋根への太陽光発電設備の導入方針や目標の策定・報告」が義務化されました。実際の設備設置そのものが強制されるわけではありませんが、各企業が導入検討を本格化させることで、自家消費型太陽光(高圧設備)の新規設計や改修に関わる相談・需要が底上げされています。
■ EV充電インフラの国家目標にともなう高出力化
経済産業省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、2030年までにEV充電インフラを総数30万口(うち公共用急速充電器3万口)に拡充する目標を掲げています。
近年は90kW〜150kW超の超高出力器を複数台並べるマルチチャージスポットの整備が進められており、総出力が50kWを超えるスポットは「高圧受電設備(キュービクル)」となるため、電験の管理対象となる現場が新たに生まれる要因となっています。
■ データセンターや大型ビジネスビルの増加
生成AIの普及に伴う電力大消費型データセンターの新設や、都市再開発による高層ビジネスビルの増加が、大容量の高圧・特別高圧受電設備の需要をさらに押し上げています。
2. 【供給】学校・学生の減少と、資格者の「実効供給力」の課題
一方で、現場を動かす「実質的な供給力」は、教育現場の縮小や資格保有者の年齢構成の偏りによって厳しい状況が続いています。
■ 工業高校・大学等の電気関連学科の減少
全国的な少子化に伴い、地方を中心に工業高校や大学の「電気工学科」の統廃合や定員割れが進んでいます。ベースとなる電気を学ぶ若者の絶対数が減っていることは、中長期的な人材供給における大きな課題です。
■ 試験制度変更による「合格者数」の実態
CBT方式の導入と試験の年2回化により、年間の試験合格者数自体は増加傾向にあります。しかし、この増加分には他業界のスキルアップ受験者や学生などのペーパーライセンス層も多く含まれており、そのすべてが現場へ就職・転職するわけではないため、「即戦力として動ける現役の供給力」へそのまま直結しているとは言えません。
■ 有資格者の「高齢化」と大量退職
現在の電気主任技術者の年齢構成は50代以上が6割以上を占めており、特に外部委託の現場においては、60代・70代のシニア層の再雇用や尽力によってかろうじて維持されているのが実態です。彼らが完全にリタイアを迎えるタイムリミットが確実に迫っています。
■ 現場のOJT(技術承継)機能の低下
ベテランの引退が進む中、現場では日々の業務を回すだけで手一杯になりがちです。実務未経験の入職者に同行し、トラブルの予兆を見極めるような「現場の職人技」をじっくり教える時間的・精神的余裕が失われつつあり、技術が引き継がれにくいという供給側の弱点となっています。
3. 【需給のミスマッチ】「場所・人材・お金」の3つの歪み
労働市場における構造的なミスマッチが、有資格者の現場への定着を阻んでいます。
■ 場所のミスマッチ(地域偏在)
太陽光発電や系統用蓄電所といった再エネ設備は地方や郊外の広大な土地に多く新設されますが、動ける有資格者や若者は都市部に集中しがちです。この地理的なミスマッチが地方の現場不足を深刻化させています。
■ 人材のミスマッチ(入職率の低さ)
経済産業省の産業構造審議会(電気保安部会)の資料によると、電気主任技術者の最大の供給源であるはずの電気系養成施設(工業高校・専門学校など)を卒業した生徒のうち、電気保安業界(ビルメン・保安法人)への入職率はわずか15%程度にとどまっています。多くは大手製造業のインフラ部門やIT、鉄道など他業界へ流出しています。
■ お金のミスマッチ(処遇とコスト構造)
電気保安やビルメンテナンスの委託料は、長年のデフレ経済下でコスト削減の対象として買い叩かれてきた歴史があります。万が一の事故発生時に重い責任を負うリスクや、夜間・休日対応という激務に対して給与水準や処遇が改善されにくいため、入職した若手の離職率の高さに繋がっています。
4. 【法制度の問題】緩和策の建前と、現場が負う「責任」のギャップ
国は人手不足を補うために様々な法制度の緩和や見直しを打ち出していますが、それが現場に新たな歪みを生むリスクも指摘されています。
■ スマート保安推進による「点検頻度」の緩和と負担
国はAIや遠隔監視システム(スマート保安)を導入することを条件に、法定点検の頻度を「隔月」や「3ヶ月に1回」へ延伸することを法的に認めています。これにより技術者1人が担当できる物件数の上限を引き上げて人員不足を補おうとしていますが、これは現役技術者1人あたりの負担や巡回効率の限界に依存している側面があります。
■ 外部委託の「実務経験年数」の短縮措置
外部委託承認に必要な実務経験年数について、講習の受講等を条件とした短縮措置が導入・検討されています。しかし、これにより「書類上の要件は満たしているが、重大な高圧トラブルに1人で対応する経験が不足している」技術者が現場に出ざるを得ない懸念も現場からは上がっています。
■ 変わらない「最終的な法的責任」の重さ
スマート保安の導入や要件緩和によって、現場での直接的な目視点検の機会が減る方向にある一方で、万が一、火災や波及事故が発生した際の電気事業法上の民事・刑事責任の重さは一切変わっていません。「責任だけは重く、現場の管理は薄くなる」という法制度のギャップが、技術者が現場を敬遠する潜在的な心理的ハードルとなっています。
まとめ:これからの時代に本当に価値がある人材とは?
現在の「電験三種不足」の正体は、単なる免状取得者数の不足ではなく、【需要・供給・需給のミスマッチ・法制度】が絡み合って起きた構造的なバグです。
国がIT緩和や制度見直しで「数字合わせ」をしようとも、社会インフラが高度化するリアルな現場では、突発的なトラブルを解決できる人間が圧倒的に足りていません。
だからこそ、「確かな実務経験(電気工事や施工管理などの知見)を伴い、現場を泥臭く動かせる有資格者」の市場価値は、今後さらに高まっていくことは間違いありません。
出典・根拠資料一覧
・経済産業省:改正省エネ法(2026年4月施行省令)に関する各種案内
・経済産業省:「充電インフラ整備促進に向けた指針」
・経済産業省 産業構造審議会 保安部会(電気保安部会):「電気保安人材の確保に向けた課題と対応策」各回配布資料
・一般財団法人 電気技術者試験センター:電気主任技術者試験 統計資料
