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クリストファー・ノーラン映画が映し出すもの―『オデュッセイア』公開前に考えてみたこと【映画テーマの一覧付き】

 映画監督Christopher Nolan (クリストファー・ノーラン) の新作映画『The Odyssey』(オデュッセイア)は、北米では2026年7月、日本では9月11日に公開予定です。
 ところが、公開のかなり前から、海外ではIMAX 70mm上映のチケットに予約が殺到。サイトにつながりにくくなるほどの騒ぎとなり、転売価格も数百ドルから、場合によっては数千ドルとも言われています『オッペンハイマー』に続き、またしても映画そのものが一つの社会現象になっているように感じます。
 日本ではそこまでの騒ぎにはならなさそうですが、公開までの時間を楽しみにしながら、私にとってのノーラン映画の魅力を、少しずつまとめてみたくなりました。


 ノーラン映画、半分冗談ですが、人生に大きな悩みがある時ほど、最初の作品から最新作まで見返してみると、何かしらのヒントが見えてくるように思います。それは、悩みの答えを与えてくれるというよりも、「自分は何に悩んでいるのか」を映し出してくれるのようなものなのかもしれません。
 特定の世界観そのものを描くよりも、根底には深層心理や倫理的葛藤へのまなざしがあり、多くの作品に心理スリラー的な緊張感があります。それぞれのジャンルは、「人間の内側」を見るための舞台になっているようにも感じます。そのため、抽象的な部分も多く、「集中して観ないと分からない」、「観てもよく分からない」、「所詮フィクションでしょう」と思えば、確かにそうかもしれません。
 それでも不思議なことに、すべてを理解できなくても、あとから自分の中に何かが残ります。しばらく時間を置いて見返すと、以前は気づかなかった新しい発見が出てくることもあります。そういう意味で、ノーランの映画は時代を超えて残る映画なのだと思います。
 ただし、わかりにくいとはいえ、映画館で観るべきエンタメ性もあり、その完成度はかなり高いと思います。特に、一流の俳優陣による演技、無駄のないキャラクター配置、どの登場人物にも魅力的であり、物語の中でただ存在しているだけの人物がほとんどいないところも魅力的です。ちなみに、ノーラン自身がイギリス出身ということもあってか、彼の作品にはイギリス系の俳優が多い印象もあります。


 もちろん、ノーランの作品の多くはIMDbやRotten Tomatoesでも高い評価を得ています。ここでは。これまで観てきたノーラン映画について、自分の中に残っている各作品のテーマを中心にまとめてみました。
 ただ、約30年にわたる作品群なので、記憶が曖昧な部分もあります。また、自分自身の意識や経験も変化してきたため、当時とは違う見方をしている作品もあるかもしれません。正確な解説というより、記憶のかけらからまとめたものです。少しでも参考になれば嬉しいです。
 IMDbスコアは変動するため、記事執筆時点で確認できた数値として記載しています。
https://www.imdb.com/list/ls520852304/?ref_=nm_eds_nolan_ranked_i

  • Following (1998 / 7.4) → 好奇心と自己喪失

  • Memento (2000 / 8.4) → 記憶とアイデンティティ

  • Insomnia (2002 / 7.2) → 正義の揺らぎと心身の限界

  • Batman Begins (2005 / 8.2) → 恐怖と自己超越

  • The Dark Knight (2008 / 9.1) → 善と悪、秩序と混沌

  • The Dark Knight Rises  (2012 /  8.4) → 絶望と再生、英雄の継承

  • Dunkirk (2017 / 7.8) → 生存と極限

  • TENET (2020 / 7.3) → 宿命と自由意志

  • The Prestige (2006 /  8.5) → 執着と代償

  • Inception (2010 / 8.8) → 現実と幻想、執着と解放

  • Interstellar (2014 / 8.7) → 愛と希望、時間と空間

  • Oppenheimer (2023 / 8.2) → 科学と倫理、創造と破壊

  • The Odyssey (2026予定 ) → 帰還と自己認識(予想)

 Rotten Tomatoesでは「トマト、批評家評価 Tomatometer」と「ポップコーン、観客評価(Popcornmeter)」の2つがあります。両方高い作品だと、Memento は94%vs94%、The Dark Knight も94%vs94%、Oppenheimer は93%vs91% など。Insomnia や Dunkirk は批評家評価がかなり高い一方で観客評価は少し低め、逆に Batman Begins は観客評価のほうが高めです。個人的には、最近はIMDbのスコアよりも、Rotten Tomatoesの批評家評価と観客評価を見比べるほうが面白く感じます。

https://www.rottentomatoes.com/celebrity/christopher_nolan


 初めて観たノーラン映画は、『Memento』でした。もう26年ほど前のことです。当時のノーランはまだ30歳前後だったと思うと、その完成度にあらためて驚かされます。実際、一度では理解しきれず、内容が見えてくるまで3回ほど見返しました。断片的な記憶のパズルが少しずつつながっていくまで、かなり苦労した記憶があります。
 結局、分かっているつもりでいましたが、実際にはまだ分かっていないのかもしれません。『Memento』の魅力は、単に設定の面白さにあるのではなく、記憶、意識、現実認識、そして自分という存在の不確かさをどう描くかにあったのだと思います。その頃から、私はノーラン映画に強く惹かれてきたのだと思います。

 その次に観たのは『Insomnia』でした。当時から好きだったRobin Williamsが出演していたことも、強く記憶に残っています。派手なSF設定はありませんが、眠れない刑事の疲労と罪悪感、そして心理的に追い詰められていく様子が印象に残る作品でした。当時、ロンドンのODEONで観ました。『Memento』に比べると、今回はわりと理解しやすかったのですが、映画館を出たあとも、どこかロンドンの霧の中にしばらく閉じ込められているような、寒くて冷たい感覚が残っていました。

 その後、ノーランはやや抽象的な作品から、一気に大作映画へと舞台を広げていったように思います。それが『Batman Trilogy』です。もし人におすすめするとしたら、私はやはりこの三部作が一番だと思います。
 有名なDC ComicsのBatmanを題材にしているので、ヒーロー映画としてのエンタメ性や迫力は抜群です。一方で、単なるスーパーヒーロー映画ではなく、恐怖、正義、犠牲、破戒、再生といった心理的・人生観的なテーマが同時に描かれて、倫理的な問いを含んだ作品でもあります。
 その頃からBatmanを演じたChristian Baleのファンになり、今でも変わらず好きな俳優の一人です。長年のファンというより、ほとんど devoted fan に近いかもしれません…。
 この三部作は、IMDb、Rotten Tomatoesのいずれにおいても高い評価を得ています。なかでも『The Dark Knight』は、もちろんJokerを演じたHeath Ledgerの怪演もあり、スーパーヒーロー映画史上でも珍しいほど高く評価された作品だと思います。IMDb 9.1、Rotten Tomatoesでは批評家評価・観客評価ともに94%という、非常に高い評価を得ています。
 ただ個人的には、人生観としては、老いた主人公の再生を描いた『The Dark Knight Rises』により惹かれます。単なるヒーローの勝利ではなく、傷つき、限界を知った人間が、もう一度立ち上がって絶望からの再生、また、世代を超えて受け継がれる希望のテーマを感じます。
 特に、John Blakeを演じたJoseph Gordon-Levittの存在は、物語に新たな息吹を与えていました。また、Baneを演じたTom Hardyのも、この作品の大きな魅力です。
 余裕があれば、いつかノーランの作品を一本ずつ分析してみたいと、昔から思っていました。


 話を戻すと、こうして一覧で見てみると、ノーラン映画は時間、記憶、意識、正義、恐怖、愛、科学、倫理、宇宙まで、まさに森羅万象を含むような、深い心理的・倫理的テーマを扱ってきたように思います。
 そして、次に公開されるの神話を題材にした壮大な叙事詩『The Odyssey』、すでに世界中でIMAXチケットが大きな話題となり、過熱するほどの人気を見せています。私も去年からずっと情報を追いかけながら、公開を楽しみにしてきました。
 ただ、正直なところ、ノーランが神話というテーマをどう扱うのか、期待する一方で、期待しすぎるのが少し怖くもあります。これだけ多くの傑作を映し出してきた監督だからこそ、こちらの期待も大きくなってしまうのだと思います。
 それでも、もともと神話が好きな私にとって、ノーランが神話の主題に向き合う時代が来たこと自体、とても嬉しく感じています。何より、大成功することを願っています。🎬✨


 ノーランは決して多作な監督ではないように思いますが、一作ごとの完成度があまりにも高い監督です。彼は1970年生まれでまだ55歳。『Memento』を発表した時は30歳前後だったと知り、本当に驚きました。当時からあれほど成熟した作品を撮っていたので、勝手にもっと年配の監督だと思っていました。また、彼がUniversity College London(UCL)出身というのも、個人的に親近感を覚えるところです。


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