なぜ寅沢風力発電事業計画の撤回を求めるのか(2)
函館寅沢風力発電事業計画の現在地
「函館寅沢風力発電事業」は、函館市や北海道の計画ではありません。民間事業者(米国系のインベナジー社)が、私たちが毎月の電気料金の中で払っている「再エネ賦課金」と国の補助金を基に、国策として進められている計画です。
寅沢風力発電事業の予定地は、北海道が指定した公益性を重視する「保安林」、国が森林法で定めた「水源涵養(かんよう)保安林」を多く含み、森林の伐採等が禁じられた保全区域になります。しかも、予定地全域が、函館市のヒグマゾーニング計画で、ヒグマの「コア生息地」とされています。
しかし、風力発電や太陽光発電の事業は、多くの場合、こうした保全区域に踏み込んで計画されます。現在進められている環境影響評価の手続きが最終段階まで進み、経産大臣、環境大臣から妥当と認められ、予定地における様々な保全規制が国や自治体行政により「解除」されることによって、事業は初めて可能になります。
函館市においては、早い段階から、事業者が提示する環境影響評価の計画の問題点や欠落している点を指摘し、その見直しの要求はもちろん、ひいては中止撤回を要求するなどの態度姿勢を示すことが問われます。「水源を守れという多くの市民の声が届いている」「環境影響評価の計画が不十分だ」「議会が計画の推進を否決した」などの理由が積み重ねられ、函館市長が明確な反対姿勢を示すことで、「解除」は不可能になっていきます。
住民説明会で事業者は「保安林解除なんて簡単にできます」と、いい加減な応答をするなど、無責任極まる態度が見受けられました。飲み水を守り、生物を守るための保安林解除がそんなに簡単にできるのなら、日本の国土は簡単に破壊され、山も水も畑も海も元に戻らない墓場になってしまいます。
函館市再エネガイドライン(2026.4.1施行)が示すもの
最近では、再エネ開発事業の増加とともに、全国各地域で自治体によるガイドラインの制定が広がっています。函館市では、折しも、寅沢風力発電事業計画の公表と同日の2026年4月1日、「函館市再生可能エネルギー発電施設の設置および管理に関するガイドライン」を施行しました。
策定の背景について、「再生可能エネルギー発電事業の導入にあたっては,周辺環境へ与える影響などの懸念によって,トラブルに発展した事例も確認されていることから,再生可能エネルギー発電事業は,周辺環境に十分配慮しながら慎重な検討を行い,自然環境と生活環境との調和を図り,地域との共生を実現しながら進められることが重要であり,再生可能エネルギー発電事業の導入に向けた指針となるガイドラインを策定した」と述べられています。
同ガイドラインでは、事業者が配慮すべき事項、配慮すべき地域などについて、細かく定められています。
現在、函館市では、このガイドラインに基づいて、事業者が提示している環境影響評価方法書に示された計画内容を精査し、ガイドラインを無視している点、ガイドラインを損ねる懸念のある点について、環境部が他の関連部局との協議と精査を行い、函館市としての意見をまとめている段階です。
(5月13日開催の 函館市議会 民生常任委員会委員協議会の動向による)
私たちは、寅沢風力発電の事業計画は、函館市のガイドラインに鑑みても、定められた保全規制を解いてまで開発を行うべきではないと考え、計画の撤回を求めるものです。以下に、その理由を要約して述べます。
[総論] 風力発電が破壊するものの大きさ
現在、化石燃料に依存しないエネルギー、再生可能エネルギー(再エネ)が必要であることは確かです。しかし風力発電の開発は、過剰な自然破壊を伴います。人間社会・地域社会の生命線と引き換えにするものが、あまりにも大きすぎます。この計画は、函館市民の生活や、函館の自然・景観、歴史文化に、多大な影響をもたらします。
開発に対する住民の反対運動は、昔からややもすれば、「私たちの街じゃなく、他のどこかでやってくれ(=NIMBY:Not In My Back Yard)」という、自分たち本位の拒否姿勢が表に出がちです。もちろん私たちにも、「私たちの街ではやめてくれ」という、我が街を大切にする思いはあります。しかし、計画に関心を向け、今回の計画地や風力発電についての情報を集め、すでに反対運動を展開してきた先輩方や、他の風力発電立地計画地域の方々の話を聞いたりするうちに、これは反対せざるを得ない問題を抱えている、と考えました。
具体的理由を、以下にかいつまんで挙げます。
[各論] 寅沢風力発電事業に反対する理由
☝️函館市街へ水を供給する水源地を破壊する
赤川水源の上流域で、亀田川・松倉川の源流に、函館山(326ha)とほぼ同じ広さの土地を造成し、五稜郭タワーの2倍近い高さの風力発電機11基が建設される計画です。基礎の大きさは約20m四方で高さ5mも掘り下げます。それが11基となると基礎の残土だけでも22,000m3になります。
掘り下げた残土を盛り土し、山を切り開いて林道を整備し、亀田川下流の桔梗や松倉川下流へと資材運搬道路が拡幅され、大型トラックが行き交います。超高圧電流を輸送する電線と鉄塔が新たに建設されます。
森林伐採面積は29ha。五稜郭公園の史跡全体が東京ドーム5個分の25haなので、それをも超える面積の伐採が行われます。
伐採される森林の多くがブナ林などの自然林です。自然林は土壌と川から海へと続く複雑で豊かな水系を育んでおり、この水系が、函館の美味しい水を供給し、ひいては土壌や川を通じて、海枯れが問題となっている南茅部の海の再生、真昆布再生などにも大きな力となります。

水源① 亀田川地区と、水源②松倉川地区の2地区にまたがる
ピンク色で囲った部分が建設予定地
☝️土壌破壊、土砂崩れや洪水の被害を広げる
建設予定地は、函館山の広さ(326ha)とほぼ同規模あるいは超える規模で、周囲の運搬道路等含めると予定地全体は1,118haと広大です。森林が伐採され、土地が掘り起こされることにより、予定地はもとより、周囲の土壌を不安定にします。東側は松倉川へと続く斜面地で、土壌がとても不安定で、林道整備が何年も先延ばしされてきた立入禁止区域です。西側の赤川水源上流域も同様です。一帯に土砂崩れが頻発すると、水源の遮断や洪水等の影響が予想されます。災害につながり、修復に多大な予算がかかります(多くの場合、その修復は自治体の負担となります)。
また、農地への汚泥の流入なども懸念されますが、多くの場合、因果関係を証明して弁償を求めることは不可能と思われます。

植林された針葉樹(二次林)の箇所は崩落しているが、周囲の広葉樹の自然林は地崩れしていない
保安林としての自然林の重要性が見てとれる
☝️重金属の流出が懸念される
予定地に接する寅沢南東部は、かつて硫黄採掘がされていた地域であり、長年、重金属の流出に注意が向けられてきました。本事業により少なからず土壌への影響と流出が懸念されています。
☝️希少な植物生息地、重要湿原を破壊する
予定地は、10段階の植生自然度7(二次林)や9(自然林)の地域が大半を占めており、道南地方の中でも非常に豊かな自然環境が保たれています。また予定地周辺には、植生自然度10の最高レベルに指定され、保全されるべきエリアがあり、開発の影響が予想されます。開発により地下水の流れが変わって、周囲の湿原等の乾燥化を招くことが懸念されています。
予定地北端に接するアヤメ湿原は、植生自然度10に指定され、道立恵山自然公園及び環境省全国重要湿原500にも指定されています。加えて、縄文時代の始まりから現代に至る気候変動を記録した堆積物を、10年単位で観察することができる環境が整っています。この堆積物はアヤメ湿原の周辺から飛来する花粉等に由来していることから、予定地での開発によって、この文化的意義を持つ貴重な生態系が失われることが予想されます。
アヤメ湿原の美しい情景と巨大な風力発電事業予定地
☝️重要保存種に指定される鳥獣生息地を破壊する
予定地は、渡り鳥の重要なルート上にあるほか、貴重な猛禽類が生息・利用するエリアです。すぐ西側には、特別鳥獣保護区・鳥獣保護区の地帯が隣接し、その間を資材運搬道路が縦横に貫通する計画となっており、鳥獣の生態に大きな影響を与えます。飛来するクマタカやオオジシギ(環境レッドリスト等で保全重要視の対象)の生息地を奪い、風車への激突(バードストライク)が懸念されます。オオタカ、ハイタカも、この地域の豊かな自然林を狩り場として利用しています。その他、ハヤブサ、ノスリ、オジロワシなど、多様な鳥獣類へ影響を与えます。
こうした鳥獣が生息地を失うことで、周辺の農地での農作物被害が増加することも懸念されます。
☝️ヒグマの生息地を破壊する
予定地のすべてが、まもなく施行予定の函館市ヒグマゾーニング計画でコア生息地に指定されるゾーンに含まれており、森林保全が求められます。この生息域を破壊することで、周辺の農地や市街に出没するヒグマの増加が予想されます。
→ 函館市ヒグマゾーニング計画(案)

☝️沿岸域の漁業に深刻な被害をもたらす
河川や地下水を通じて流出した土砂は、周辺の田畑だけでなく、沿岸の河口域に流れ着き、漁業に深刻な被害をもたらします。目に見える土砂の被害だけでなく、上流域での森林伐採や造成などにより、河川や地下水に含まれている栄養分に大きな影響が及ぼされ、それが沿岸域の生物・水産物の栄養不足へと繋がることがわかっています。大規模な風力発電の開発は、沿岸漁業に大きな影響をもたらすことは間違いなく、事業者は責任を持ってその因果関係を観測し、負の影響を止める必要があります。

珪素など豊富な栄養分が河川から海へと供給される
しかしこの水系の崩壊が、全国各地の沿岸域に
「海枯れ」などの深刻な影響をもたらしている
函館の沿岸域では、真昆布漁やホタテ養殖など、水産業の不振に悩まされており、「海の死」までが議論されています。市民有志によって、海の再生と森の再生を関連づけて捉え、根本的な生態系の再生に取り組む活動が徐々に輪を広げています。風力発電の開発は、こうした復興の努力を阻害し逆行するものです。
函館市の南茅部が主な舞台となった、海の再生を問うドキュメンタリー映画(2025)
☝️低周波による予測不能な影響被害をもたらす
日本の風力発電は、風車による音の被害について、高周波域における最低限の規制しか行っていません。低周波は細胞レベルに届いて影響を与え、高周波よりも深刻な被害をもたらすことがわかっています。因果関係は解明されていませんが、他地域では養鶏場の鶏卵から黄身が消える、養蜂場で蜂が巣箱に帰巣できなくなるなどの報告もあります。妊婦への影響なども懸念されており、デンマークや台湾では低周波への規制も導入されています。
低周波の被害について、少なくとも、国は最新の知見に基づく規制を行い、事業者は住民や動植物への被害を鑑みた自主規制を行うべきです。住民説明会において、事業者は市民からの質問に対して、「1kmなんなら500mも離れていれば大丈夫」と応答しましたが、この回答はあくまで耳で聞こえる高周波に関するものにすぎません。

草島進一 鶴岡市議のnoteより
https://note.com/kusajima888/n/n8971fe81af18
☝️ 景観への多大な影響
函館市の最大の観光資産は、函館山展望台からの眺望と夜景です。展望台から市街を見渡した時、その向こう側に、足もとの函館山とほぼ同じ面積の土地に、五稜郭タワーの倍の高さの大型風力発電機が11基、林立することになります。函館空港もほど近く、夜間は航空障害灯が点灯点滅することになります。その存在は、函館山からの眺望と夜景に、多大な影響を与えることが予想されますが、3D等での十分なシミュレーションが行われていません。

風車の高さは加味していない
(Google Earthで作成)
☝️乱開発となっている風力発電事業への不信感
日本の国土に陸上風力発電を立地しようとすれば、その多くが「尾根筋」への立地計画となります。尾根筋を開発して風力発電を建設することは、水源地の生態系を破壊し、土壌を破壊し、田畑や住宅地から海へと続く地下の水系を破壊します。全国各所で問題となっている土砂災害・地滑りなどの危険を助長します。
尾根とは、沢と沢の間にある高地のことを指します。今回の計画地も、ここで言う尾根筋の一つとして捉えることができます。
「尾根筋風力発電は国土を破壊する」
全国再エネ問題連絡会YouTubeチャンネルより
https://youtu.be/ll7Him0Ykaw?si=kS-I-BaxPdNZAt5r
最近では、土壌の崩壊、地下の水系の崩壊が、海の生態系の破壊、ひいては大雨や洪水被害をもたらす気候変動の大きな要因になることも指摘されています。陸と海をつなぐ水の系は、目に見えずあまり注意を払われないまま、近代開発が進められてきました。昨今大火事が問題視されている、カラカラに乾燥した杉の人工林は、その象徴的な例と言えます。これ以上の大地の破壊は、動植物はもとより、人間の暮らせる地球を蝕んでいくことになるでしょう。
およそ20年の耐用年数を過ぎた後は?
陸上風力発電の耐用年数は、20年がめやすと言われています(洋上風力発電は海水の侵食からより短いスパンでのメンテナンスを要する)。冒頭で触れた「函館市再エネ建設ガイドライン」では、事業終了時の撤去費用についても事業者が計画的に準備しておくことを義務付けています。しかし変化の激しい情勢の中では、保証の限りではありません。耐用年数を超えた時に、巨大な風車や土台を撤去することは、物理的にも資金的にも困難となり、そのまま放置されるか埋め立てられてしまうことも予想されます。
使用を止めた太陽光発電機の放置が社会問題になっていますが、より巨大な風力発電機の放置も世界中で見ることができます。開発跡地は、生態系の原状回復が不可能などころか、さらに悪い状態となって、破壊された負の遺産を抱えることになります。
◼️
道南地域では、本州へ電力を運ぶ地下ケーブルの増設が見込まれています。風力発電の格好の立地ターゲットとして、各所で急ピッチで事業計画が進んでいます。市民は、これらの計画一つ一つを丁寧に精査し、生命線と引き換えにできない計画には、断固として中止撤回を求めるべきと考えます。
[参考]
→ 次の投稿「あるべき再エネ対策を問う」へ(準備中)
→ 電子署名サイトへ
