【9話】元カノのために用意された部屋。広い2LDKに漂う、過去の影と私の居場所。
あの夜、彼から「好き」だと告げられた、あの駐車場。
そこから少し車を走らせ、私たちは彼のマンションに着きました。
案内されたのは、2LDKの部屋。
夫と住む1LDKの、あの狭くて息の詰まる空間とは全く違う、ゆとりある間取り。
「男の子の家」に上がるなんて一体何年ぶりだろう。玄関で靴を揃える手さえ少し震えるような、場違いな緊張感。
けれど一歩中に入ると、そこには驚くほど綺麗に片付けられた空間が広がっていました。
夫が散らかしたゴミや飲みかけのペットボトルを片付ける毎日を送っている私にとって、その清潔感は眩しいほどでした。
リビングには、二人掛けのソファーと、使い勝手の良さそうな机。そして、その部屋の広さを際立たせるような大きなテレビが置かれていました。それだけの家具があっても、空間にはまだ十分な余白があり、部屋の広さがひしひしと伝わってきます。
「夜勤明けで、頑張って片付けたんだ」
私のために疲れた体で準備をしてくれた。その事実に、胸の奥がじんわりと熱くなります。
「すごく広いね……」
素直な感想を口にすると、彼は少し遠くを見るような目で、ポツリと話し始めました。
「実はここ、元カノと一緒に住むために決めた家なんだ」
その瞬間、心臓を冷たい針で刺されたような感覚に襲われました。
ここは、別の誰かと幸せになるために用意された場所。
精一杯の平静を装って「そうなんだ」とだけ返しましたが、不倫相手という立場を突きつけられたようで、グッと感情をこらえました。
リビングに整えられた、私には無縁のゲーム環境。
「年上なんて惹かれると思ってなかった」という彼の言葉。
彼が語るあまりにも切ない過去の傷跡を知った時、不倫相手であるはずの私の中に、ある「傲慢な安心感」と「重い罪悪感」が芽生えました。
なぜ私は、彼が用意した「別の誰かのための場所」で、彼を抱きしめたいと思ってしまったのか。
二人の距離が物理的にも精神的にも一気に縮まった、あの日の一部始終を綴ります。
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