〖日本アニメを「監督」で見る教養〗―細田守展から広がるアニメ映画の世界
「教養の全体像地図」では、本記事は第4章「芸術・エンターテインメントを楽しむ」→「映画・アニメ」に位置付けられます。
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文学を読むときに夏目漱石や村上春樹という「作家」を意識するように、映画を観るときには黒澤明や小津安二郎、クリストファー・ノーラン、スティーブン・スピルバーグといった「監督」の視点があります。
実はアニメも同じです。
『千と千尋の神隠し』や『君の名は。』を作品単体で楽しむこともできますが、その作品を生み出した監督の思想や作風を知ると、一本一本が「点」ではなく「線」としてつながり、日本アニメ史そのものが見えてきます。
近年、日本のアニメーションは世界の映画祭で高く評価され、アカデミー賞やカンヌ国際映画祭などでも存在感を示しています。海外では「Anime」は一つの映像文化として確立されており、映画・ゲーム・美術・ファッション・音楽など、多くの分野へ影響を与えてきました。
私は最近、細田守展を訪れました。
『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『竜とそばかすの姫』など、これまで何気なく見ていた作品も、展示を通して「一人の監督が一貫したテーマを描き続けている」ことに気付きました。
アニメとは、キャラクターやストーリーだけではありません。
そこには監督それぞれの人生観、世界観、時代への問いがあります。
今回は、日本アニメを教養として楽しむために、代表的なアニメ監督を整理してみます。
日本アニメを世界へ押し上げた巨匠たち
まず知っておきたいのは、スタジオジブリを代表する宮崎駿と高畑勲です。
宮崎駿――神話と自然を描く映画作家
代表作
風の谷のナウシカ
天空の城ラピュタ
となりのトトロ
もののけ姫
千と千尋の神隠し
宮崎駿作品の魅力は、「世界そのものを創造する力」にあります。
飛行機械、森、神々、人間と自然、文明批評。
単なる冒険物語ではなく、「人間はどう生きるべきか」という普遍的な問いが作品全体に流れています。
高畑勲――日常と人生を描くリアリスト
代表作
火垂るの墓
おもひでぽろぽろ
平成狸合戦ぽんぽこ
かぐや姫の物語
高畑勲は、宮崎駿とは対照的です。
派手なファンタジーではなく、家族、食卓、戦争、老い、思い出など、人間の日常を丁寧に描きました。
この二人を知るだけでも、「アニメは子どもの娯楽」というイメージは大きく変わります。
SFと哲学で世界を驚かせた監督たち
1980〜90年代、日本アニメはSF作品によって世界へ強烈なインパクトを与えました。
大友克洋――サイバーパンクの金字塔
代表作
AKIRA
荒廃した都市、暴走する科学技術、政治不安、人体変容。
『AKIRA』は、映画・ゲーム・ファッションにまで影響を与えた、日本アニメ史の転換点ともいえる作品です。
押井守――哲学するアニメ
代表作
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
機動警察パトレイバー2
GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊
押井守は、「人間とは何か」「意識とは何か」という哲学的テーマをアニメで描きました。
AIやネットワーク社会を考える現在でも、『攻殻機動隊』は色あせない作品です。
庵野秀明――内面を描いたロボットアニメ
代表作
新世紀エヴァンゲリオン
シン・ゴジラ(総監督・脚本)
シン・ウルトラマン(企画・脚本)
シン・仮面ライダー
エヴァンゲリオンはロボットアニメでありながら、本質は「人間の心」を描いた作品です。
孤独、承認欲求、親子関係、自己否定。
巨大ロボット以上に、人間心理が物語の中心となっています。
現代を映す三人の映画作家
2000年代以降、日本アニメはより現代社会に寄り添うテーマを描くようになります。
今敏――現実と夢の境界を描く
代表作
PERFECT BLUE
千年女優
東京ゴッドファーザーズ
パプリカ
今敏作品では、夢・映画・記憶・ネット社会が複雑に交差します。
「自分が見ている世界は本当に現実なのか」という不安を映像表現で描きました。
細田守――家族とインターネットの時代
代表作
時をかける少女
サマーウォーズ
おおかみこどもの雨と雪
未来のミライ
竜とそばかすの姫
細田守作品の中心にあるのは、
家族
成長
青春
インターネット
コミュニティ
です。
『サマーウォーズ』では仮想空間と大家族を、『竜とそばかすの姫』ではSNS時代のもう一人の自分を描きました。
現代社会を最も等身大に映している監督の一人だと思います。
新海誠――風景と喪失感の映画
代表作
秒速5センチメートル
言の葉の庭
君の名は。
天気の子
すずめの戸締まり
新海作品の魅力は、圧倒的な背景美術です。
駅、雨、空、踏切、地方都市。
誰もが見たことのある日本の風景に、恋愛や災害、喪失、祈りを重ね合わせています。
監督を知ると、日本アニメはもっと面白くなる
それぞれの監督を一言で表すなら、
宮崎駿:自然・神話・文明
高畑勲:生活・記憶・戦争
大友克洋:都市・科学・暴走
押井守:身体・AI・哲学
庵野秀明:内面・孤独・自己
今敏:夢・虚構・メディア
細田守:家族・ネット・つながり
新海誠:風景・恋愛・喪失
というように、それぞれ一貫したテーマがあります。
細田守展を見て改めて感じたのは、アニメも文学や映画、美術と同じように、一人の作家が世界観を築き上げる芸術だということです。
これから日本アニメを教養として学ぶなら、まずは
『千と千尋の神隠し』
『AKIRA』
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』
『新世紀エヴァンゲリオン』
『PERFECT BLUE』
『サマーウォーズ』
『君の名は。』
あたりから見始めるとよいでしょう。
作品を一本ずつ見るだけでなく、「この監督は何を描き続けてきたのか」という視点を持つと、日本アニメが世界で高く評価される理由が、より立体的に見えてきます。
