弱小通貨民の節約贅沢旅行、ささやかなコツ
日本円が弱くなって久しい。
「円安でどこにも行けない」という嘆きも、もはや季節の挨拶のように聞こえる。
秋に知人夫婦と英国で合流する予定になっている。彼らは自費でビジネスクラスを利用するのだが、日英の往復で三百万円も掛かると言う。
「英国ぐらいならエコノミーで来ればいいじゃん」と言ってみたものの、富山出身の彼は「その“じゃん”って言葉やめられんけ。みっともないがいちゃ。俺らも最初はびっくりしたけど、こういう時のために貯金してきたがやから、ええがいちゃ。俺ら一回も欧州行ったことないがいぜ。長旅でエコノミー座っとるのはつらかろうちゃ」(合ってます?)
彼らはまだ若くて達者なのに、と思ったが、そこまで言われると、私もそれ以上は言葉が続かなかった。
最後に「ちなみに私の航空券はエコノミーで五万円相当だったから」と付け加えてみたが、彼は苦笑しただけであった。
日本円ほどではないにせよ、スウェーデンクローナも欧州内では弱小通貨である。私自身も苦労しているが、日本人の知人は三十年前に通貨切り下げを行った首相をいまだに恨んでいるほどである。
そこで、弱小通貨国の私が、如何にしてみじめな思いをせず旅行をしているのか、少し参考とさせて頂きたい。
まずはレストラン。欧州の外食は、往々にして質の割に高額で、旧共産圏の物価まで上昇している昨今では、私までがスウェーデンの元首相を恨みたくなる。
しかし、日本に「ホットペッパーグルメ・食べログ・ぐるなび」等があるように、欧州にもお助けサイトがある。私はレストラン予約には「TheFork」というサイトを利用しており、店によってはドリンク以外が半額になることもある。
例えばベニス本島の場合

下のレストランでは、当日朝に予約を入れて十七時に入店したところ、料理が半額になった。六千円相当の食事が三千円になるのであれば、弱小通貨民としては助かる。アルコールは割引対象外であるが、北欧ほど高くはない。



本来なら、上のようなレストランで食事を摂ることを所望していた。
もし昼食直後でなければ。もしテラス席に陽が当たっていれば、もし好みのパスタがあれば、もし真っ白なナプキンに躊躇しなければ——エメラルドグリーンのラグーンを眺めながら上記のレストランにて夕食を頂くことも出来たのだろう。
しかし、予約したこの運河沿いのレストランも決して悪くは無かった。


割引は無かったが、映画「ベニスに死す」の一舞台となったリド島では珍しいモダンなカフェを見つけた。







コロンバはカフェでは二千円から五千円ぐらいするが、スーパーなら八百円程度で購入できる。賞味期限も四カ月ほどある。




今回は、イタリアということもありリモンチェッロ・スピリットに徹していた。しかしリモンチェッロを指定しないとアペロール・スピリットが運ばれてきてしまう。アペロール・スピリットの方が、一般的で安価なのであるが、多少苦みがあるため、苦手な人は苦手であろう。
このカフェのパンやタルトは三ユーロ以下であったのに対して、ドリンクは千円ほどと高めであったが、北欧よりは安い。私は休暇中はできるだけデカダンに過ごすことにしており、決して酒には強くないが、昼間からアルコールを嗜んでいる。
しかし、その理由の一つは、一瓶の水より酒の方が安いことである。欧州で水を頼むと千円近くすることもあり不条理に感じるのである。北欧では水は無料であるのに対して。
平和に感じられたリド島も、例外なく少しずつ沈んできている。おそらく再びこの島を訪れることはないであろう。
さて、欧州ではレストラン選びに往々にして失敗することもある。
TheForkで二時間前に予約した店でのこと、
ボンゴレビアンコは日本のファミレス程度であったが、カラマリを注文したら、皿の中にはイカが確認できず、油っこい小麦粉の塊のようで遺憾であった。TheForkの評価は9以下。


観光地ど真ん中の店は一見客が相手なので質を落としても構わないと思っているのだろうか。旅行者の楽しい旅の記憶に小さな影を残してしまうことを、店側は忘れてしまったのかもしれない。
一方、ブラーノ島で食べたカラマリは、イカの風味が十分に感じられるものであった。TripAdvisor推薦の店で、現地の海産物を扱っているらしい。チューブのマヨネーズ等がファストフード店のようであるが、価格は通常のレストラン並みである。

ベニスに関しては、チケッティ(Cicchetti)というタパスのような小皿モノが有名であったが、これも店によって質が大きく異なる。
こちらはGoogleの評価が高かった評判の良いチケッティバーである。ちょうど保冷機の影になっているが、若い女性の後ろで給仕をして下さった方が藤田弓子さんと瓜二つで懐かしい思いをした。




また、アフターワーク価格として、スピリットとチケッティ二個で8ユーロという価格につられて入った店では、清潔感に欠ける服装(外套を着たまま)の店員が作ったこの小粒のチケッティが残念であった。
アペロール・スピリットが5ユーロであるため、こちらは一片1.5ユーロとなるが、一般家庭でも作れそうな簡易なものであった。

また、ホテルに関しては、健脚でない、あるいは買い物ツアーとでもなれば、買ったものを一旦ホテルにおろして、買い物あるいは観光を続けるために、街の中心に宿を取った方が断然便利である。
しかし、私の場合、最近はあまり大きいものを購入しないため、同じ予算であれば、街の中心地の三ツ星ホテルよりは、街の中心ではなくとも四つ星を選ぶようにしている。今回宿泊したホテルは以下である。Hotels.com経由で予約をした。
ホテルを予約する場合はTrivago.com、Momondo.comのような比較サイト等もあるが、大概はHotels.com、あるいはBooking.comの二か所を比較して安い方を予約している。Booking.comの方が扱っているホテル数は比較的多く価格も多少低い時がある。しかしHotels.comでポイント(十泊したら一泊無料)を貯めているため、価格があまり変わらなければHotels.comから予約している。

半年前ほどに予約して、一部屋一万三千円ぐらいであった。ベニスエリアでこの価格は安価であるため、さほど期待はしていなかったのであるが、必要なものは揃っており、部屋も毎日丁寧に掃除して下さった。
ホテルの所在しているMestreのエリアは緑に囲まれた平和的な住宅地である。大きなスーパーマーケットも徒歩圏に数軒ある。よほどの貧乏旅行であれば、ここいらのスーパーでサンドイッチなどを買って観光すれば良い。
緑に囲まれた平和的な住宅地とは書いたが、それはホテルのあるこの辺りのことであり、徒歩圏ではないが、Mestre駅の付近は、久々に遭遇した治安の悪そうなエリアであった。しかし、駅からは少し離れた中心街には洗練された観光地もある。
このホテルに関して驚いたのは、この価格で朝食が付いていたことであった。せいぜい二三種類の菓子パンとコーヒーぐらいだろうと予想していたが、果たして、温かい料理も含めた大抵のものは揃っていた。さらに、団体客の部屋と個人客の部屋を分けてくれた心遣いが有難かった。



以上、ベニスを中心とした節約法と失敗談を紹介させて頂いた。
少しまとめてみると、
レストラン選びはTheForkから予約し割引を利用。探す手間も省ける。また、北欧に関しては平日のランチはビジネスランチとなるため、高級レストランなどでも安くなるところが多い。
ホテルは、中心地まで直行便の出ていて治安の良い多少郊外の四つ星ホテル、例えば、空港まわりのホテルはそのクオリティの割にコスパが良い。空港から街が近いアムステルダム等ではお勧めかと。
さらに、
可能であれば、旅行はシーズンオフを狙う。
おみやげに関しては、価格交渉をしてみてもよい。
タクシーはよほど早朝深夜の到着でない場合は使わない。
航空券は出来るだけ早い時期に購入する。
私は大概このようなことを心掛けて、貧乏旅行のわりには私なりの小さな贅沢をしているのだ。
「なにも一人150万円も払わなくとも、充実した旅行は出来るはずじゃん」、と富山の知人に諭したい気分であるが、やめておこう。
イタリアという国には、羨望を覚える。
先人が築いたものを維持しているだけで世界中から観光客が訪れ、金を落としていく。高額の税金を投じて、多くの死人を出して、人集めのための豪華な施設を建設する必要もない。
イタリアに憧れて、あちらこちらでこの国の言語を勉強している人を見掛ける。オペラも大概はイタリア語であるため、同時に字幕を読みながらのかなり大儀な観劇ではあるが、それでも劇場は満席になる。
この国はファッション、デザイン等では世界の先端を走っているが、国のインフラには首を傾げるような点もある。空港でバスのチケットを買う段階から難儀をした。チケットマシンが二つしか見当たらず、その一つは壊れていて途方に暮れた。便座の無いトイレは少なくなく、トイレ錠に関しては、ルービックキューブのようなものもあり、他の使用客に訊ねないと開け方も閉め方も推察出来なかった。
それでも、この国には不思議な魔力があり、しばらくするとふたたび訪れてみたくなる。
そしてベニスは、私にとって、フィレンツェ、チンクエテッレと同様、ふたたび訪れたいイタリアの街となった。
さて、最後にベニス空港のラウンジの食事を少しご紹介させて頂こう。
炭水化物三昧。








今後しばらくはこのマジカルな国を訪れる予定は無い。
