介護施設における身体拘束の実態と適切な対応手順~現場で働く介護士が知っておきたい基礎知識~
1. 介護施設における身体拘束とは
近年、介護施設での身体拘束についてニュースなどで取り上げられることが増え、「虐待」というイメージを持たれる方も多くなっています。しかし、実際に身体拘束とはどのような行為を指すのか、詳しく知らない方もいらっしゃるでしょう。
身体拘束とは、利用者の自由な身体の動きを制限することを指します。具体的には、認知症の方が徘徊してしまうのを防ぐために部屋から出られないようにしたり、点滴や医療器具を抜いてしまわないようにミトン型の手袋を装着することなどが挙げられます。
介護施設で身体拘束が行われる背景には、利用者自身や他の利用者の安全を守るという目的があります。しかし、介護職員も決して身体拘束を望んで行っているわけではありません。介護保険法などの法律に基づき、必要最小限の範囲で行われているのが現状です。
身体拘束は利用者の尊厳を損なうリスクがあるため、原則として行わないことが基本方針です。やむを得ず行う場合でも、厳格な手順や基準が設けられており、適切な判断と家族への説明・同意が不可欠となっています。
2. 身体拘束を行う場合の手順
介護施設で身体拘束を行う場合には、厳格な手順が設けられています。これは、利用者の権利と安全を守るために欠かせないものです。
まず、身体拘束が必要と判断されるのは、「利用者自身や他の利用者の生命や身体を守るため、緊急かつやむを得ない場合」に限られます。安易な理由で身体拘束を行うことは許されていません。
身体拘束を実施する際には、以下の手順を踏むことが求められます。
家族への説明と同意の取得
まず、利用者のご家族に対して、身体拘束が必要な理由や状況を丁寧に説明します。そのうえで、身体拘束の内容や期間、実施する時間帯など、詳細を記載した書面を作成し、家族に記名・捺印をもらいます。書類による記録
何故身体拘束を行うのか、どのような状況で行うのか、どのくらいの期間・時間帯で行うのかなど、細かい内容を必ず書面に残します。これにより、後から第三者が見ても判断できるように記録を残すことが重要です。説明と手順を守ることの重要性
これらの手順を踏まずに身体拘束を開始してしまうと、家族から「虐待だ」と訴えられるリスクもあります。必ず事前に説明と同意を得て、適切なプロセスを守ることが求められます。
身体拘束は利用者の人権に大きく関わるため、施設全体で慎重な対応が必要となります。万が一、手順を飛ばしてしまった場合、重大なトラブルに発展する可能性があるため、常に正しい手順を意識しましょう。
3. 緊急やむを得ない状況の基準
身体拘束は原則として行わないことが基本ですが、どうしても必要な「緊急やむを得ない状況」に限り、例外的に認められています。その判断基準となるのが、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件です。これらすべてに当てはまる場合のみ、身体拘束が許されます。
切迫性
切迫性とは、利用者本人や他の利用者の生命や身体が、今まさに危険にさらされている可能性が極めて高い状況を指します。たとえば、治療を強く拒否して命に関わる場合や、他の利用者に暴力を振るう恐れがある場合、認知症による行動で重大な事故につながる危険がある場合などが該当します。
非代替性
非代替性とは、身体拘束以外に安全を確保する方法がない場合を意味します。身体拘束を検討する際は、まず他にできる対応策がないか、職員同士で徹底的に話し合います。あらゆる対処法を試みても状況が改善しないとき、初めて身体拘束を選択肢とします。もし誰か一人でも「この方法はどうか?」という意見があれば、必ず試してみることが大切です。
一時性
一時性とは、身体拘束が一時的な対応であることを意味します。慢性的に身体拘束を続けてはならず、状況が改善した場合には速やかに解除しなければなりません。利用者の状態が落ち着いてきたにもかかわらず、職員の都合で身体拘束を続けることは絶対に許されません。身体拘束は、あくまで「一時的な措置」であることを常に意識しましょう。
4. 定期的な検討会議を行うこと
身体拘束は、あくまで一時的な対応であり、できるだけ早く廃止することが求められます。そのため、介護施設では身体拘束を実施している利用者がいる場合、定期的に検討会議を行うことが義務付けられています。
身体拘束廃止委員会の設置
多くの施設では「身体拘束廃止委員会」などの専門チームを設置し、身体拘束を行っている利用者について定期的に状況を確認・検討します。委員会では、身体拘束の必要性や代替案の有無、利用者の状態変化などを話し合い、できるだけ早く身体拘束を解除できるよう努めます。
記録の徹底
検討会議の内容や決定事項は、すべて書面で記録し、施設内で共有します。これにより、身体拘束が適切に運用されているかどうか、第三者が確認できる体制を整えます。2018年の介護保険法改正以降、記録が不十分な施設には介護報酬の減算というペナルティも導入されました。
身体拘束廃止の推進
これまで曖昧になりがちだった身体拘束の運用や記録ですが、法改正により厳格な管理が求められるようになりました。介護報酬の減算リスクもあるため、各施設では身体拘束廃止に向けた取り組みが強化されています。
5. まとめ
介護施設における身体拘束は、利用者の尊厳を守る観点から「原則として行わない」ことが基本です。しかし、利用者や他の利用者の生命・身体に重大な危険が及ぶ場合に限り、厳格な基準と手順のもとで実施されます。
実際に身体拘束を行う際は、「切迫性」「非代替性」「一時性」という3つの要件をすべて満たしているかを確認し、必ずご家族の同意を得ることが不可欠です。また、身体拘束を行っている間も、定期的な検討会議を通じて状況を見直し、できるだけ早く解除できるよう努めることが求められます。
なお、非代替性の判断は施設や職員の知識・経験によって左右される部分もあるため、日頃から身体拘束に関する知識や代替案について学んでおくことが大切です。経験豊富な職員や外部研修を活用することで、身体拘束に頼らないケアを実現できる可能性が広がります。
介護現場で働く方は、身体拘束の正しい知識と適切な対応方法を身につけ、利用者が安心して過ごせる環境づくりに努めましょう。
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