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腰痛と肩こりはいつから人類の問題になったのか?

【執筆者紹介】

今村 雅史(Masafumi Imamura)
銀座トレーニングラボ代表。「一生モノの美脚」を提案するパーソナルトレーナー歴24年の動作改善スペシャリスト。
延べ数千名の指導実績を持ち、プロ選手やJリーガーなどトップアスリートのパフォーマンス向上を支援。
現在は中学校女子バスケットボール部のコーチを務めるほか、国際的なトレーナー教育機関「NASM OPTIMA」にて2025年、2026年と2年連続で講師として登壇しています。
進化学・神経科学に基づいた専門知識と豊富な現場経験から、あなたの身体の「なぜ?」を根本から解決します。

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以前、慢性的な腰痛・肩こりの原因がいかに複雑に絡み合っていて、「トレーニングだけで改善するのは難しくないか?」という記事を書きました。

呼吸、ストレス、睡眠、内臓、食生活。それらが循環しながら「不定」な状態をつくっている、という話です。

ただその前に、もっと根本的な問いがあります。

そもそも、なぜヒトはこれほど腰痛と肩こりに悩むのでしょうか?

犬や猫が肩こりを訴えることはありません。

チンパンジーが腰痛で整体に通う話も聞きません。

ヒトだけがこれほど悩む理由は何か?

それを進化の流れから考えると、「不定愁訴」の話がもう少し立体的に見えてきます。

類人猿は腰痛になるのでしょうか。

チンパンジーやオランウータンの脊椎を調べると、椎間板ヘルニアに相当する病変がほぼ見られません。四足歩行の動物は、荷重が前肢・後肢の4点に分散されるため、腰椎への垂直圧縮ストレスが慢性的にかかりにくい構造になっています。

面白いのは、Plompらが2015年にBMC Evolutionary Biologyに発表した研究です。腰痛のあるヒトの椎骨の形状を統計的に分析すると、健康なヒトの椎骨よりもチンパンジーの椎骨に近い形をしていることがわかりました。「先祖返り仮説(Ancestral Shape Hypothesis)」と呼ばれるこの考え方によれば、二足歩行への適応が不完全な椎骨の形を持つ人ほど、腰痛のリスクが高くなるということです。

つまり腰痛は、二足歩行への進化の途上にある身体が抱える、ある種の「未完成さ」から来ている可能性があります。

では、腰痛はいつから人類の問題だったのでしょうか。

では、腰痛はいつから人類の問題だったのでしょうか。

文字による記録としての最古は、紀元前1500〜1700年頃に書かれたエドウィン・スミス・パピルスです。現存する最古の医学文書とされており、脊椎の損傷や椎骨のねじれによる痛みへの対処法が記述されています。少なくともこの時代には、腰背部の痛みが医療的に対処すべき問題として認識されていたことはわかります。

骨の実物証拠については、少し慎重に読む必要があります。エジプトのファラオたちのミイラCTスキャンや、約50万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスの脊椎化石に変性所見が確認されていることは事実です。ただし、骨の形状や病変から「痛みを認知していた」とまでは言えません。前の記事で書いたように、同じような所見があっても痛みのない人はいます。痛みは骨に刻まれないからです。

ただ、脊椎にそれだけの変性負荷がかかっていたなら、腰痛を経験していた可能性は高い。断言はできませんが、まったく無関係とも言えない。

わかるのは「腰痛が起きやすい身体構造は、ヒトが二足歩行を始めた頃からすでに存在していた」ということです。

なぜ二足歩行がそれほど問題なのでしょうか。

約700万年前、人類の祖先は四足歩行から二足歩行へと移行し始めました。この移行によって両手が自由になり、道具を使い、脳を発達させ、やがて文明をつくる土台が生まれました。しかしその代償として、脊椎に大きな構造的変化が生じました。

四足歩行の脊椎はほぼ水平で、荷重が分散されます。それが垂直に立つことで、体重のすべてが脊椎の縦方向にかかるようになります。この荷重に対応するため、腰椎に前弯(前向きのカーブ)が生じました。このカーブがあることで直立姿勢が保てますが、同時に腰椎の椎間板には慢性的な圧縮ストレスがかかり続けることになります。

進化は完璧なエンジニアではありません。二足歩行への適応は「とりあえず使える」レベルで進んできたものであり、腰痛ゼロの理想的な脊椎が設計されたわけではない。チンパンジーに似た椎骨の形を持って生まれてくる人がいることも、この進化が現在進行形であることを示しています。

そして2017年にSteeleが発表した論文では、調査したほぼすべての人間集団に腰痛が存在することが示されています。狩猟採集民にも、農耕民にも、現代の都市生活者にも。腰痛は座りっぱなしの現代人が招いた問題ではなく、ヒトという種が二足歩行を選んだときから抱えてきた問題です。

なぜ二足歩行がそれほど問題なのでしょうか?

まず、犬の話から始めます。

犬もヘルニアになります。ただし理由がヒトとは違います。犬全体の椎間板ヘルニア発生率は約2%です。ところがダックスフンドは生涯で19〜24%が発症します。これは四足歩行の問題ではなく、「胴が長く足が短い」という人為的な交配でつくられた骨格の問題です。軟骨が遺伝的に変性しやすく、脊椎への荷重分散が崩れている。四足歩行本来の恩恵を受けられていない特殊なケースです。

野生の四足動物ではほぼ起きません。

では、四足歩行の脊椎はなぜ有利なのでしょうか?

四足歩行の脊椎はほぼ水平なアーチ構造をしており、荷重が橋のように前後4点に分散されます。椎間板にかかる力の主成分は水平方向のせん断力で、これは椎間板がある程度得意とする方向の負荷です。

二足歩行になると、これが根本的に変わります。

脊椎が垂直に立つことで、体重のすべてが上から下への圧縮荷重として椎間板にかかります。さらに直立姿勢を保つために腰椎に前弯(前向きのカーブ)が生じ、特定の椎間板、特に腰椎下部に荷重が集中しやすくなります。

頭の位置も重要です。頭部は約5〜6kgありますが、脊椎の真上に乗っている状態では負担は最小限です。ところが頭が前に出るほど、てこの原理で首から腰までの筋肉と椎間板への負担が増します。頸椎が15度前傾するだけで実効的な負荷は約12kgになり、30度では約18kgになるとされています。スマートフォンを見るときの姿勢がこれにあたります。腰も同様で、骨盤が後傾して腰椎の前弯が失われた状態で長時間座ると、椎間板への圧縮が慢性的に増し続けます。

進化は偶然の産物です。二足歩行への適応は「とりあえず使える」レベルで進んできたものであり、腰痛ゼロの理想的な脊椎が設計されたわけではない。チンパンジーに似た椎骨の形を持って生まれてくる人がいることも、この進化が現在進行形であることを示しています。

そして2017年にSteeleが発表した論文では、調査したほぼすべての人間集団に腰痛が存在することが示されています。狩猟採集民にも、農耕民にも、現代の都市生活者にも。腰痛は座りっぱなしの現代人が招いた問題ではなく、ヒトという種が二足歩行を選んだときから抱えてきた問題です。

ただし、現代人の腰痛の多さはそれだけでは説明できません。

タンザニアのハッザ族という狩猟採集民を研究したRaichlenらのデータがあります。ハッザ族は1日に約10時間座っています。これはアメリカ人と変わらない時間です。しかし腰痛の発生率は明確に低い。

差はどこにあるのか。ひとつは座り方です。ハッザ族が座るとき、骨盤は自然に前傾し、腰椎の前弯が保たれています。現代の椅子に座る人間は骨盤が後傾し、腰椎のカーブが失われた状態で何時間も静止します。もうひとつは、座る以外の時間です。ハッザ族は1日に75分以上の中強度の身体活動があります。現代のオフィスワーカーはそれが著しく少ない。

農耕の始まり、産業革命、そしてデジタル化。

この数百年から数千年の間に、ヒトの生活環境は劇的に変わりました。しかし身体の構造が変わるには数万年単位の時間が必要です。身体は旧石器時代のままで、環境だけが加速した。これを「ミスマッチ仮説」と呼びます。

二足歩行がつくった構造的な脆弱性に、現代の生活環境という引き金が重なっている。腰痛の多さはこの二段構えで理解するのが正確です。

肩こりはどうでしょうか?

一見、腰痛ほど二足歩行との関係は強くないように思えます。ところが頭の位置という観点から見ると、話は変わってきます。

四足歩行の動物において、僧帽筋は頭部を支える抗重力筋として主に使われていました。頭が前に突き出た四足歩行の姿勢では、首の後ろから肩にかけての筋肉が常に頭の重さを支え続けます。ところが二足歩行になり、頭が脊椎の真上に乗るようになると、この役割は大幅に軽減されます。理論上は、頭が正しい位置にあれば僧帽筋の負担は最小限になるはずです。

しかし現実はそうなっていません。

頭部は約5〜6kgあります。頸椎が15度前傾するだけで実効的な負荷は約12kgになり、30度では約18kgになるとされています。スマートフォンを見るとき、パソコンに向かって前傾みになるとき、ほとんどの人の頭はこの「前方頭部位(Forward Head Posture)」の状態にあります。

では、頭が前に出れば必ず肩がこるのでしょうか。ここが単純ではありません。

Forward Head Postureと頸肩部痛の関係は、研究者の間で長年議論が続いています。2019年のMahmoudらのシステマティックレビューでは、頸部痛のある成人はない成人に比べてFHPが有意に大きく、相関も確認されています。ただし同じ研究で青少年では有意差がなく、「FHPと頸部痛に関係なし」とする研究も複数存在します。

これは前の記事で書いた話と同じ構造です。頭が前に出ていても痛みのない人がいる。頭の位置が標準的でも肩がこる人がいる。頭の位置は「リスクを高める要因のひとつ」ではあっても、それだけで肩こりの原因とは言えない。

構造力学的に頭が前に出るほど頸肩部の負荷が増えることは物理的な事実です。しかしその負荷が「肩こり」として認知されるかどうかは、神経系の感受性、ストレスレベル、睡眠、呼吸パターン、内臓の状態との組み合わせ次第です。

さらに「肩甲骨を動かせば解決する」という話も単純すぎます。僧帽筋は上部・中部・下部の3つに機能が分かれており、この3つが協調して動くことで肩甲骨が適切にコントロールされます。現代の生活では僧帽筋上部が慢性的に過緊張し、下部と前鋸筋が弱化するアンバランスが生じやすい。問題は「動くかどうか」ではなく「神経筋の協調パターンが崩れているかどうか」です。

可動域があっても、正しいタイミングで正しい筋肉が働いていなければ意味がありません。

また僧帽筋上部は呼吸の補助筋でもあります。呼吸が浅く胸式に偏ると、僧帽筋上部が呼吸のたびに収縮し続けます。一日に2万回以上繰り返される呼吸の積み重ねが、肩こりとして現れている可能性がある。

肩甲骨を動かすエクササイズをいくら行っても、呼吸パターンが変わらなければ同じ負荷がかかり続けます。

肩こりは二足歩行によって頭の位置という新たなリスクを抱えた身体に、現代の生活環境と神経系・内臓・呼吸といった複数の要因が重なっている問題です。

「肩甲骨を動かしましょう」で解決するほど、単純な話ではありません。

ここまでの話を整理します。

腰痛と肩こりは、現代人が不健康だから生じているのではありません。ヒトが二足歩行を選んだことで生じた構造的な脆弱性が土台にあり、その上に現代の生活環境という引き金が重なっています。腰痛はホモ・ハイデルベルゲンシスの時代からあった可能性が高い。肩こりは二足歩行後に役割が変わった筋肉に、現代の環境が過負荷をかけています。

この話を知った上でクライアントに向き合うのと、知らずに向き合うのでは、何か変わるのでしょうか?

技術や手技が変わるわけではないかもしれません。でも「なぜこの人はこうなっているのか」という問いの深さは変わります。

正直なところ、こういう話をトレーナーがどれだけ知っておくべきかは難しい問いです。知識が増えれば介入の根拠が深まる一方で、「わかった気になる」リスクも上がります。

わかることが増えるほど、わからないことも増える。

ただ少なくとも、「腰痛・肩こりは筋肉の問題だから動かせばいい」という出発点からは離れたいと思っています。

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著者プロフィール
▶︎合同会社LSP代表
▶︎パーソナルトレーニングジム銀座トレーニングラボ代表
▶︎大妻女子大学ラクロス部(2019年〜2023年)
▶︎平成国際大学トレーナー(2018年〜2019年)
▶︎下半身痩せ協会アドバイザー(2016年〜2020年)
▶︎2018年東京都で今受けたいトレーナー選出
▶︎モデルやアイドルなど担当
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