凄すぎ!電力を効率よく遠くへ送る一番良い方法、三相交流の仕組み
くわっち@元エレキエンジニアです。
先日、電力が発電所から一般家庭に届けられるまでの仕組みをご説明、エネルギーの送電ロスを極力減らすため、高い電圧で送電していることをお伝えしました。実は、もうひとつ大きな工夫があるのです。それが三相交流なのです。今回はその知られざる仕組みについてお話しします。
高い電圧で送電する理由
電気を送るときは、送電中のロスを少なくするために、電圧を高くします。
電流が送電線を流れると、送電線自体が持っている電気抵抗のため、熱(ジュール熱)が発生します。つまり電気のロスが生じるのです。この熱は、電流が多いほど出ます。電流を少なくしてやればロスが少なくなるのです。同じ電力の電圧と電流は反比例するので(電力=電圧x電流)、電流を少なくして送電中のロスを減らすために、高い電圧で送る必要があります。
単相交流と三相交流の基本的な違い
普段、皆さんの家で使われている電気は「単相交流」といって、2本の電線で電気が行ったり来たりしています。しかし、発電所から送られてくる三相交流とは、どんなものなのでしょうか。
まず、単相交流と三相交流の最も基本的な違いは、電気の運び方です。
単相交流:電線2本(行きと戻り)を使って電気を運びます。
三相交流:電線3本(3つの電気の位相がずれている)を使って電気を運びます。
例えば、単相交流では電線2本で電力を送りますが、三相交流では電線3本を使って互いに位相がずれた電気をバランスよく送るため、より効率的に大きな電力を運ぶことができます。つまり、電線1本あたりに送れる電力量の効率が大きく向上するのです。
これだけの説明では、まだピンとこないでしょうから、もう少し詳しく説明しますね。
三相交流の何がすごいのか?
発電所から遠い場所へ大量の電気を送る際、三相交流が優れているのは、以下の3つの理由からです。
1. 送電効率が高い
電気を送るには、必ず電流を流す必要があります。電流が流れると、電線の抵抗によって「熱」が発生し、その分だけ電気がムダになってしまいます。この熱によるムダは、電流の大きさの2乗に比例します。これを「I²R損(アイじじょうアールそん)」と呼びます。
三相交流は、単相交流と比べて、同じ量の電力を送るのに必要な電流が小さくて済みます。具体的には、単相交流が1本の電線で電気を運ぶのに対し、三相交流は3本の電線で分担して運ぶイメージです。そのため、熱によるムダ(電力損失)を大幅に減らすことができます。これは、長距離の送電において、非常に大きなメリットとなります。
2. 経済的な送電システム
送電線は、流れる電流が大きくなるほど太くする必要があります。電流が小さければ、より細い電線を使うことができます。
三相交流は、少ない電流で大きな電力を送ることができるため、より細い電線で済み、電柱や鉄塔といった設備も小さくすることができます。これにより、送電システムの建設や維持にかかるコストを大幅に削減できるのです。
また、単相交流では送電に2本の電線が必要ですが、同じ量を三相交流で送ろうとすると、帰り線を含めるとさらに多くの電線が必要になります。ところが三相交流では、3つの電気がバランスを取り合うため、帰り線が不要となり、わずか3本の電線だけで効率よく送ることができるのです。
3. モーターの回転が力強く、なめらか
大きな工場などで使われている三相交流のモーターは、単相交流のモーターよりも力強く、なめらかに回ります。これは、三相交流モーターの中に「回転する磁場(回転磁界)」を自然に作り出すことができるからです。
ご家庭で使われる扇風機などの単相交流のモーターは、電気がゼロになる瞬間があるため、回るきっかけを与えるための追加部品(コンデンサなど)が必要になります。
しかし、三相交流のモーターは、そのような部品がなくてもスムーズに力強く回ることができます。工場や電車など、大きな力を必要とする場所で三相交流が使われるのはこのためです。
これらの理由から、三相交流は、大量の電気を効率的かつ経済的に送るための、非常に優れた技術なのです。
この動画では、単相交流と三相交流の違いがわかりやすく解説されており、三相交流のメリットを理解するのに役立ちます。
三相交流が生まれるまでの歴史
三相交流の何がすごいのかの説明をしてきましたが、誰が発明したのか、教科書で習った記憶がないので、三相交流が生まれるまでの歴史を調べた結果を記しておきます。
三相交流(three-phase AC)の発明者については、実は一人の名前で片付けられるものではありません。
19世紀後半に複数の研究者・技術者が並行して研究していたため、「発明」よりも「発展・体系化」された技術とみなすのが正確です。以下、歴史的な流れを整理します。
1. 背景:直流 vs 交流
1870〜80年代、電気エネルギーの送電・利用をめぐって「直流(エジソン)」と「交流(多くの欧州技術者)」の研究が進んでいました。
初期の交流は単相交流(電線2本)でしたが、送電効率やモーター駆動に課題がありました。ここから多相交流(polyphase AC)が模索されます。
2. 多相交流の着想
ニコラ・テスラ(Nikola Tesla, 1856–1943)
1882年頃、ブダペストで散歩中に「回転磁界(rotating magnetic field)」の原理を思いつきました。
1888年、アメリカで「多相交流誘導電動機」の特許を取得。これが実質的に多相交流の実用化の出発点です。
ただし、テスラが最初に考えたのは二相交流(two-phase AC)でした。
3. 三相交流の実用化
ガリレオ・フェラリス(Galileo Ferraris, 1847–1897, イタリア)
1885年頃から交流モーターの研究を進め、1888年に「回転磁界」に基づく二相交流モーターを論文発表。
テスラと同時期に理論を実証していたことになります。
ミハイル・ドリオリ・ドローヴォリ(Mikhail Dolivo-Dobrovolsky, 1862–1919, ロシア → ドイツ)
AEG社(ドイツの電機メーカー)に在籍し、1889年に三相交流システムを実用化。
三相誘導電動機(1889)、三相発電機(1891)、三相送電(1891年、ドイツのラウフェン=フランクフルト間 175km 実験送電)が大成功。
彼こそ「三相交流を完成させた人物」といえます。
4. 1891年:フランクフルト国際電気博覧会
ドローヴォリとAEGが、ラウフェン水力発電所からフランクフルトまで 175km の三相交流送電を実演。
世界初の大規模送電であり、「三相交流が最適解」と国際的に認知されました。
以後、世界中で三相交流システムが採用され、現在の標準へ。
まとめ
三相交流は、ニコラ・テスラやガリレオ・フェラリスの理論に基づき、ドリオリ・ドローヴォリらによって完成された技術です。複数の発明者の知恵と工夫の積み重ねによって、今日の世界標準となったのです。
