見出し画像

違和の記録|そこにいる人

放課後、部室には数人残っていた。

 自分と、クラスメイトが二人。

 机を囲んで、それぞれ適当に過ごしていた。

 ノートを書きながら、少しだけ手が止まる。

 文章の並びがしっくりこなかった。

 上を消して、下を残す。

 いや、逆かもしれない。

 迷ったまま、何となく横を見る。

 いつもの席だった。

 本が開いている気がした。

 誰かが座っているような気もした。

 でも、そのままノートに視線を戻した。

「これ、どっちがいいと思う?」

 そう口に出した。

 返事は聞こえた気がした。

 短かった。

 それだけで十分だった。

「ああ、やっぱそうか」

 そのまま書き直す。

 手は止まらなかった。

「何?」

 向かいにいたやつが顔を上げる。

「いや」

 何でもないと返した。

 ノートを見る。

 迷っていた部分はもう消えていた。

 自分で決めたはずだった。

 たぶん。

 それで話は終わった。

 誰も気にしなかった。

 部室にはいつも通りの時間が流れていた。

 窓の外は少しずつ暗くなっていく。

 気づけば一人が帰り、もう一人も荷物をまとめ始めていた。

「それ、さっき直したやつ?」

 帰り際に聞かれた。

「そう」

「何でそっちにしたの?」

 答えようとして少し止まる。

 理由はあった。

 あったはずだった。

 でも、うまく出てこない。

「何となく」

 そう言うと、

「ふーん」

 それだけだった。

 みんな帰った後も少し残った。

 静かな部室だった。

 何となくいつもの席を見る。

 特に何もなかった。

 机と椅子があるだけだった。

 そのまま部室を出た。

 次の日。

 放課後にまた部室へ行った。

 机にノートを広げる。

 昨日書き直した部分は、そのまま残っていた。

 読み返してみる。

 違和感がない。

 むしろ前より良くなっていた。

 だから不思議だった。

 どうしてそうしたのか。

 思い出せなかった。

 確かに迷っていた。

 確かに誰かに聞いた気もする。

 でも、それが誰だったのかは分からなかった。

 ノートを閉じる。

 窓の外では風が鳴っていた。

 部室の中は静かだった。

 そうした方がいい。

 そんな感覚だけが少し残っていた。

 それがどこから来たものなのかは、

 最後まで思い出せなかった。

いいなと思ったら応援しよう!