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【第十七話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】


「……何故それを?」

 茉優の一言に仲條は目を見張る。だが彼女はそれ以上を語らず、笑みとコーヒー代だけを残して店を出て行った。それを見届けて、峰城は彼女が座っていた席に移動する。

 殆ど聞くだけで何もしていない峰城だが、強敵を前にした気分で一気に気が抜けた。コーヒーも殆ど手を付けないまま温くなっている。気が抜けた瞬間、気になることが頭に浮かんだ。

「あれ? そういえば、今回の怪異で事故に遭うって噂は含まれてないってことですか?」

「ああ、あれは後付けだと思うな。どの地域だって、交通量の多い道はあるだろうから」

 幽霊を見て平常でいられるのは余程場数を踏んでいるか、仲條のような怪異好きの変わり者くらいだ。
 峰城のように普通なら乱れた精神状態になり、注意力散漫で事故に遭いやすくなる。実際、事故に遭えば関係がなくとも幽霊のせいにする。不運なことがあれば、更に遡って最近変わったこと――拾った定期入れのせいだと思い込む。臆病な人ならなおさら起きやすいだろう、というのが仲條の見解だった。

「茉優さんの場合は、演技だったのかもしれないけど……本当のところは分からないな」

 彼女が所属するサークルが演劇部だったら可能性はあるだろうが、プロとやらの調査報告書にはサークルの記載はなかった。もし、演技だとしたら女優賞ものである。

「さっきは聞かなかったですけど、繰り返し誰かの手に渡るだけで、呪いの力が強くなるんですか」

「呪いは祈りの一種だ。祈りの力を侮ってはいけないよ、峰城クン。分かりやすいのは、『お百度参り』かな。あれも何度も繰り返し祈ることで、願望成就に繋がるんだ。とはいえ、今回はちょっと方法が変わっていたけど」

「方法?」

「あの、お喋りな駅員だよ」

 話しっぱなしだった喉を潤すように冷めきったコーヒーを飲むと、仲條が一息つく。やけに事情を簡単に話す駅員だと思っていたが、一枚噛んでいたとは意外だ。

「普通、お百度参りは自分自身の祈りの力だけを使うものだけど、今回は怪異コンサルタントとやらの助言で怪異の噂を伝聞する、言うなれば『噂の力』というのもあるかもね」

 未だに首をひねっている峰城を見て、仲條が苦笑する。
 始まりがどこかは分からない上に、案外彼が発端じゃなくて同僚の可能性もあるが、と一言添えてから、詳しく説明してくれた。

 駅員が噂を伝聞し、それを聞いた拾い主は自分にも影響するのでは、と思い込む。その思い込みで精神状態が不安定になり、怪異や幽霊を引き寄せる。更にそれを目撃すれば益々動揺を生み、交通量の多い道まで逃げ込めば事故に遭いやすくなる。

「『二度事故には遭わない』という駅員の話は、事故に遭って怪我をしたものの命に別条がなく『助かった』と思う人は復帰するだろうし、『やはり何かがあるんだ』と思い込みを続ければ、外に出られずにいる人もいるだろう」

 この二パターンだけでも一人で見ているわけではない窓口で、拾い主全員を把握できているとは思えない。駅員によって、多少話が盛られている可能性があるということだ。伝聞はこうして話に尾ひれが付くことが多々ある。

 怪異コンサルタントは、そこに目をつけて伝聞の力を検証したいのだろう、と仲條は話を締めた。

「そうだ、今後のことを考えて、聞いて欲しいんだけど」

「……なんですか?」

 思い出したように妙に改まって話始めるので、何事かと峰城も居住まいを正してしまった。

「怪異が怖い気持ちは分かるけど、もう少し慣れた方がいいね」

 身構えていたのに、いざ蓋を開けてみれば怪異との接し方についての解説で、いつものオカルト談義と何ら変わらない。

 そもそも怪異に遭わなくて済むのが一番なのだが、過去に仲條のオカルト講座を聞き流して反省したことを思い出して黙っておく。

 眉根を下げて諭すように彼が言うには、怪異は恐れや怒り、恨みといった暗くマイナスの感情に寄りやすい。常に楽しく明るい気分でいる必要はないが、過剰に怯えることは怪異を強くさせる要素になりかねないことを説明された。

「ま、峰城クンの臆病さが怪異に遭える状況を作り出しているともいえるし、それが君の持ち味ともいえるか」

「私は撒き餌じゃないんですよ!」

「撒き餌。うん、いい表現だね」

「嬉しくありません!」

 落ち着いた店内に自分の声が響いたのに気づいて、峰城は周囲に小さく謝りながら口元を抑えた。褒められてはいるが、内容は全く嬉しくない。いいように利用しています、と言われているようなものだ。

 今回の怪異は前回と比べてかなり規模も被害も大きかった。今はこうしてふざけたやり取りをしているが、峰城は正直堪えていた。仲條は気にならないのだろうか、と彼の様子を伺う。

 峰城が静かになるとジャズミュージックの聞こえが良くなり、思考の読めない仲條は手元のコーヒーに視線を落とす。温さを越して冷房で冷えたコーヒーは酸味が強くなっていた。

「……今回、僕達――いや、僕は『対処法』を間違えたんだ。これは避けようのない事実だ」

 反省を込めた独り言を呟くと、仲條が冷めたコーヒーを飲み干して酸味に眉をしかめる。鉛を抱えたような気分を彼も感じているのだと気づいたとき、テーブルに置いたカップの音が微かに響く。

 その一言に返せる、気の利いた言葉を峰城は持ち合わせていなかった。


第三章:※準備中(次回)

第一章 第一話はこちらから↓



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