友達からもらった自転車が実は赤の他人のものだった件について
遡ること1ヶ月前、僕は友達から念願の自転車を譲り受けることになったのであった。駄賃が高い上に不便が多いバスが移動手段であった僕にとって有難い品物だった。しかも、タダでくれるなんてラッキー!友達のダンちゃん曰くタイヤがパンクしていて修理が必要とのことだったが、近所の自転車屋に行けば新たに購入するよりも断然安く直してもらえるだろうから何も文句はなかった。僕は、壊れたままで良いので家まで運んでくれると助かる旨をダンちゃんに伝えた。
その一週間後。朝の10時くらいになっても寒さで布団から出るのが億劫で布団の中でもぞもぞとしていると、叩き起こされるように「兄貴」から電話がかかってきた。地域のおじいちゃんのパソコントラブルを解決しに行くが、着いてくるかとのことだった。その日は特に用事もなく、外出せずに部屋の中で1日を終えるのも嫌気がさしたのでとりあえず着いていくことにした。素早く歯を磨き、適当に髪を整えてから家を出た。アパートの玄関前からいつものように兄貴の黄色い車に乗り込む。
「あ!そういえばダンちゃんがお前の家の駐輪場に自転車置いていったってよ」
近いうちに自転車を置きにくるとは聞いていたが、詳細な日時は聞いていなかったので急で驚いた。帰ってきてから駐輪場を確認することにした。
パソコンのごたごたを終わらせた後にどこに行って、何があったかはよく覚えていないのだが、兄貴と帰ってくる頃にはもう外は暗くなっていた。駐輪場に着くと、兄貴が「はい!これね」とグレーの自転車を引っ張ってきた。兄貴はすでにダンちゃんの自転車を知っているらしい。
それまで駐輪場に停めるものは何もなかったのでその時に初めて駐輪場に立ち入った。暗闇の中目を凝らすと、錆びて色褪せた自転車が数台ドミノ倒しのままになっていた。おそらく前の住人たちが乗り捨てていったのであろう。
兄貴のそばにあるその自転車はかなり良さげなロードバイクだった。カゴ付きのでっかいママチャリを想像していたのでこれからかっこいい自転車に乗れると思うと心が躍った。タイヤは単に空気が抜けているのかそれともパンクしているのか分からなかったが、近所の自転車屋なら千円で修理してもらえるだろうとのことだった。兄貴は自転車にも詳しいのであった。
近所の自転車屋と言っても高齢のおじいさんが一人でやっている店で営業日は気まぐれだったので、家と店の間を2回ほど無駄に往復したが、3回目に何とか修理に漕ぎつけた。やはり千円で直せた。自転車屋のおいちゃん、ありがとう。
それから、かっこいいロードバイクを手に入れた僕はことあるごとにダンちゃんの自転車を使った。ただ、鍵がなかったのでアマゾンででも購入しようかと思ったところ、自転車のサドルの下の方にワイヤー式の鍵がくっ付いていることに気がついた。しかし、鍵がかかったままでは使いようにならないのでダンちゃんにダイヤルのパスワードをLINEで尋ねた。今考えると明らかな違和感があったが、その時は自転車に乗れる高揚感の方が大きかったので特に気にしていなかったのであった。

結局鍵のパスワードがわからないので、アマゾンで鍵を購入することにした。
1ヶ月後、ついに事件が起きた。
気晴らしに自転車で近所を散策しているとコンビニに駐車した黄色い車の中に兄貴とダンちゃんを見つけたので近づいた。向こうもこちらに気づいて扉を開けた。
近況や来週のことについて色々と話していると、兄貴が自転車の使い勝手はどうかと聞いてきた。その間もダンちゃんはバイト終わりのハンバーガーを頬張ることに夢中だったが、ふと僕が腰掛けている自転車に目をやった。
「あれ、俺の自転車そんな色やったっけ?もっとグレーっぽい気がする」
「いや、これ汚れてたから雑巾で拭いたんだよ」
「いや、それにしてもそんな色にはならん気がする。あれ?そのスマホホルダー買ったん?」
自転車に塗装した覚えはないし、壊れかけのスマホホルダーも買ったのではなくて確かにもともと着いていた。運転席にいる兄貴と目を合わせた瞬間、1ヶ月前の駐輪場での場面がフラッシュバックした。そして彼の笑っているような焦っているような目を見て恐ろしいことに気がついた。
それはダンちゃんの自転車ではなくて他人の自転車だということに。
兄貴が駐輪場でダンちゃんのものと思って引っ張ってきた自転車は同じ駐輪場にあった住人の自転車だったのだ。
ここで、笑撃の事実が判明した。僕はわざわざ赤の他人の壊れた自転車を修理して素知らぬ顔で乗り回していたのだ。もし、違反かなんかで自転車を警察に調べられていたら、僕は窃盗で捕まっていたかもしれないと考えると正直笑い話ではない。
あの自転車の持ち主が奇跡的に何にも気がついていないことを心から祈っている。本物の「ダンちゃんの自転車」のタイヤに空気を入れながら。
