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『ドールズ・ハイ』          第2章『境界の継承』第10話『受け継がれる戦術』

―あらすじ―

初任務を終えたアルトたちは、
教導院での日常へと戻っていた。

仲間との連携は着実に深まり、
アルト班も少しずつ
「共鳴型」として形を成し始めている。

一方で、
ノアの黒い装甲には
誰にも気付かれない白い亀裂が静かに広がり、
《アイゼン・ガルテン》も微かな反応を示し続けていた。

しかし、
波形解析では依然として異常は確認されず、
教導院の日常は変わらず流れていく。

そんな中、
ガルド教官から
新たな合同実戦訓練が告げられる。

それは、
生徒たちが受け継いできた戦術理論を試す、
新たな一歩だった。

第10話『受け継がれる戦術』

朝靄がゆっくりと晴れ、
教導院の広い訓練場へ
柔らかな陽光が差し込んでいた。

整列する生徒たちは、
それぞれの家系装飾具へ静かに手を添え、
今日の同期状態を確かめている。

アルトも胸元の
《アイゼン・ガルテン》へ軽く触れ、
小さく息を整えた。

隣ではノアが変わらぬ無言のまま佇み、
黒い装甲は朝日に鈍く輝いている。

初任務を経た空気は、
以前よりも少しだけ引き締まっていた。



壇上へ立ったガルド教官は、
生徒たちをゆっくりと見渡した。

「本日より合同実戦訓練を開始する。」

静かな声が訓練場へ響く。

「今回重視するのは敵を倒すことではない。
班として連携し、
状況を判断し、
同期を維持したまま目標地点を制圧することだ。」

教官用訓練機が敵役となり、
複数班が同時に行動する模擬任務。

実戦を想定した内容である一方、
勝敗ではなく、
生き残るための判断と
連携こそが評価対象であるとガルドは告げた。

「受け継がれた戦術は、
お前たち自身の命を守るためにある。」

その言葉に、
生徒たちは真剣な表情で頷いた。



各班はそれぞれ準備を始める。

カイン班は無駄な動き一つなく、
役割確認を終えていく。

理論に裏打ちされた
制御型らしい整然とした空気が漂っていた。

レオン班では
全員が短い言葉だけで意思を通わせ、
安定感のある陣形を確認している。

シエラ班は索敵機材と同期距離を細かく見直し、機動力を最大限に活かす準備を進めていた。

一方、
ダグ班は過去の実戦経験を踏まえ、
「状況は必ず変わる」という前提で
柔軟な対応を話し合っている。

どの班も異なる思想を持ちながら、
それぞれの戦術を磨き続けていた。



アルト班でも、
訓練前の最終確認が始まる。

「今回は無理に前へ出ないで。
共鳴を切らさないことを優先するよ。」

ミレイが簡潔に作戦をまとめる。

「了解。
俺は左側を見る。」

リオも以前より落ち着いた声で応じた。

初任務を経験したことで、
その表情から焦りは薄れている。

アルトも頷きながら全員を見回した。

「みんなで帰ってくる。
それが今回の目標だ。」

その言葉に三人は自然と笑みを浮かべた。

そこへカインが歩み寄る。

「アルト。」

「はい?」

「お前の班……前よりまとまってきたな。」

率直な言葉だった。

競い合う相手だからこそ、
その評価には重みがある。

アルトは少し照れたように頭を掻いた。

「まだまだだよ。
みんなに助けられてばかりだから。」

「その考えを忘れるな。」

短く言い残し、
カインは自班へ戻っていく。

その背中を見送りながら、
アルトは胸の奥で静かな決意を新たにした。



訓練開始まで、
あとわずか。

ノアは静かにアルトの傍らへ立つ。

その瞬間。

黒い装甲を走る白い亀裂が、
ごく一瞬だけ淡く白銀に煌めいた。

ほんの瞬きほどの短い光。

誰も気付かない。

アルトだけが胸の奥へ小さな違和感を覚え、
思わずノアへ視線を向ける。

「……今のは。」

問い掛けても、
ノアは何も語らない。

静かな瞳だけがアルトを映していた。

その時、
訓練開始を告げる号令が訓練場へ響く。

「合同実戦訓練、
開始準備!」

生徒たちは一斉に動き出す。

アルトも意識を切り替え、
胸に残る小さな違和感を心の奥へしまい込んだ。

受け継がれてきた戦術。

積み重ねられてきた理論。

その先で、
まだ誰も知らない新たな共鳴が、
静かに境界を越えようとしていた。

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