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『ドールズ・ハイ』          第2章『境界の継承』第4話『初任務』

―あらすじ―


同期戦術基礎と
限定同期訓練を終えた教導院の生徒たちは、
ついに初めての実任務へ臨むこととなる。

訓練とは異なり、命の危険が伴う現実の戦場。

ガルド教官は、
「理論は生き残るための土台に過ぎない」
と静かに諭し、生徒たちを送り出す。

複数班合同で、
都市外縁部の巡回・調査任務へ向かった一行は、高い防壁の外に広がる
荒廃した世界を目の当たりにし、
それぞれ胸に異なる思いを抱く。

未完成ながら
共鳴型戦術を歩み始めたアルト班もまた、
実戦という新たな境界へ足を踏み出す。

そして静かな荒野の奥で、
魔獣反応が確認される。

日常は終わりを告げ、
彼らの本当の戦いが始まろうとしていた。

第4話『初任務』


朝靄に包まれた教導院の演習広場には、
いつもとは異なる静けさが漂っていた。

整列した生徒たちの表情には、
緊張と期待が入り混じり、
誰もが自然と背筋を伸ばしている。

ガルドは一歩前へ進み、
全員をゆっくりと見渡した。

「今日から、
お前たちは教導院の外へ出る。」

その一言だけで空気が張り詰めた。

「任務内容は、
都市外縁部の巡回と異常反応の調査。
危険度は低い。
だが覚えておけ。」

低く響く声が静寂を貫く。

「訓練と実戦は違う。」

「教本は答えを教えてくれる。
戦場は答えを奪っていく。」

誰も言葉を返さない。

その重みは、
これまでのどの講義よりも深く胸へ刻まれた。

「だからこそ、
お前たちは班で生き残れ。」

その言葉を合図に、
各班は静かに動き始めた。



教導院の巨大な正門が、
重々しい音を響かせながら開く。

アルトは思わず息を呑んだ。

高く築かれた防壁の向こうには、
訓練場とはまるで別世界が広がっていた。

崩れた建物。

草木に覆われた石畳。

かつて人々が暮らしていた名残だけを残した静かな廃墟。

遠くには黒く霞む山並みが見え、
その先には誰も知らない領域が続いている。

「これが……外の世界。」

思わず漏れた呟きに、
リオも静かに頷いた。

「教本で見るのとは全然違うな……。」

ミレイは《ルミナ・ティア》へ軽く触れながら
周囲を見渡す。

「情報が少ない場所ほど慎重に。」

その声は落ち着いていたが、
瞳にはわずかな緊張が宿っていた。

ノアはアルトの隣を静かに歩く。

何も語らず、
ただ一定の距離を保ちながら寄り添っている。

その姿は、
荒廃した景色の中でも
不思議なほど自然に溶け込んでいた。



先頭を進むのはカイン班だった。

ヴォルグは、
狼を思わせる重厚な姿で周囲を警戒し、
五〜七メートルの同期距離を正確に維持している。

セシルの《エイル》が後方を支え、
エルクの《シュバルツ》は前方の死角を埋める。

完成された制御型戦術。

無駄のない歩調に迷いはない。

その後方ではレオン班が周囲全体へ目を配り、
状況の変化へ即座に対応できる隊形を保っていた。

シエラ班はさらに外側を機動し、
《セレス》を通して広範囲の索敵を続ける。

一方、
ダグ班は地形を確かめるように進み、
実戦経験に裏打ちされた勘で危険地帯を避けていた。

それぞれ思想は違う。

しかし目指す先は同じだった。

「仲間を生かす。」

そのための戦術だった。



アルトは周囲を見渡しながら歩く。

教導院で学んだ同期距離を意識し、
ノアとの間隔を保つ。

不思議なことに、
歩調を合わせようとしなくても自然と揃っていた。

「……まただ。」

胸の奥に小さな違和感が生まれる。

無理に合わせている感覚ではない。

最初から同じ歩幅で歩いていたかのような自然さ。

ノアは相変わらず何も語らない。

ただ静かに隣を歩くだけ。

その存在が、なぜか心を落ち着かせていた。

その時だった。

首元へ下げた《アイゼン・ガルテン》が、
衣服越しにかすかな温もりを宿す。

ほんの一瞬。

錯覚と思えるほど短い感覚だった。

アルトは無意識に首元へ触れる。

「……気のせいか。」

温もりはすでに消えていた。

誰も気付いていない。

ノアだけが静かに前を見つめ続けていた。



やがて先頭を進むシエラが足を止めた。

《セレス》がわずかに姿勢を低くする。

「止まって。」

その声だけで全班が動きを止める。

静寂。

風が朽ちた建物を吹き抜ける。

次の瞬間、
シエラがゆっくり目を細めた。

「前方約四百メートル。」

「微弱な魔獣反応を確認。」

空気が一変する。

カインはヴォルグと共に前へ。

レオン班は左右へ展開。

ダグ班は突破経路を確認し、
アルト班はミレイの索敵支援を受けながら
後衛位置へ入る。

ガルドは静かに頷いた。

「これより任務を開始する。」

誰も言葉を発しない。

荒野の彼方で、
何かが動いた。

アルトはノアと視線を交わし、
小さく息を整える。

教導院で学んだ理論。

仲間と築いた連携。

そのすべてを試される時が来た。

――境界の外で、
本当の戦いが始まる。

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