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『ドールズ・ハイ』          第2章『境界の継承』第14話『境界へ向かう者たち』

―あらすじ―


合同実戦訓練を終えたアルト班は、
その成長を教導院から高く評価された。

しかし、
その裏では訓練中に記録された
一瞬の不可解な同期波形が、
レイスやフィオナ、
そしてガルドの胸へ小さな疑念を残していた。

数値は正常でありながら、
理論では説明できない
「揺らぎ」は確かに存在している。

そんな中、
教導院近郊で微弱な同期異常反応が
複数観測される。

危険度は低く、
教育訓練を兼ねた実地調査任務が
各班へ通達されることとなった。

穏やかな日常は続いている。

だが、
生徒たちは知らぬまま、
理論の境界線へ一歩ずつ近づき始めていた。

第14話『境界へ向かう者たち』


朝靄が教導院の中庭を淡く包み込んでいた。

訓練場には各班の生徒たちが整列し、
普段と変わらぬ朝の空気が流れている。

合同実戦訓練を終えた安堵もあり、
あちこちで穏やかな笑い声が聞こえていた。

やがて壇上へ姿を見せたガルドは、
生徒たちを静かに見渡す。

「本日より、
新たな実地調査任務を実施する」

場の空気が僅かに引き締まる。

「教導院近郊で微弱な同期反応が
断続的に観測された。
危険度は低い。
今回は教育訓練を兼ねた現地調査とする」

大型魔獣の討伐でも救援任務でもない。

原因不明の反応を調べる
——それだけの任務だった。

「各班、
それぞれ担当区域へ向かい、
痕跡の確認と報告を行え。

判断に迷う事象があれば独断で行動せず、
必ず連絡すること」

短い説明だったが、
生徒たちは真剣な表情で頷いた。



解散後、
それぞれの班は自然と準備を始める。

カインは端末へ映し出された地図を眺めながら、冷静に経路を確認していた。

「異常反応の間隔が一定じゃない
……発生源が移動している可能性もあるな」

隣の班員も頷き、
必要な装備を手際よく整えていく。

レオン班では落ち着いた声が飛ぶ。

「焦る必要はない。
索敵を優先し、
確認を怠るな」

班員たちは迷いなく返事を返した。

一方、
シエラは携行センサーを調整しながら微笑む。

「原因が分からない時ほど、
情報は多い方がいいものね」

ダグは豪快に笑い、
仲間の肩を叩いた。

「肩慣らしにはちょうどいい任務だ。
気張りすぎるなよ!」

それぞれの班が、
それぞれの戦術思想を自然に形へしていく。



準備室では、
アルト班も出発支度を整えていた。

ミレイは《ルナ》の同期状態を確認しながら、
小さく息を吐く。

「索敵は私が担当するわ。
反応が弱いから、
慎重に探さないと見落とすかもしれない」

「了解!」

リオは《フェル》の装甲へ軽く触れ、
緊張を紛らわせるように笑った。

「前より落ち着いてる……たぶん、
大丈夫」

その言葉にアルトも笑みを返す。

「みんなで行けば、
大丈夫さ」

以前なら、
その言葉には
自分自身を励ます響きが混じっていた。

だが今は違う。

班全員を信じられるからこそ、
自然に口をついて出た言葉だった。

ミレイもその変化を感じ取り、
穏やかに頷く。

「本当に、
班らしくなったわね」



格納区画。

静かな照明の下で、
ノアは変わらぬ姿のまま待機していた。

黒い装甲。

その表面を走る白い亀裂は、
ごく僅かではあるが以前より広がっている。

アルトはノアの前へ立つ。

「今日もよろしくな」

返事はない。

それでもノアは静かに一歩前へ進み、
アルトの隣へ並んだ。

その動きは以前よりも自然だった。

命令されたからではない。

そこが自分の立つべき場所だと
知っているかのように。

アルトは理由の分からない安心感を覚える。

「……行こう」

ノアは無言のまま歩き始めた。



観測室では、
レイスとフィオナが
今回の任務区域のデータを確認していた。

大型モニターには、
近郊一帯の同期反応が表示されている。

「異常値はありません」

フィオナが淡々と報告する。

「ですが、
この地点だけ微弱な揺らぎが繰り返されています」

レイスは画面を見つめたまま腕を組んだ。

「数値だけ見れば誤差の範囲だ」

「はい。
でも……」

フィオナは言葉を選ぶ。

「前回の波形と、
少し似ています」

沈黙が流れる。

「今回の調査で何も見つからなければ、
それでいい」

レイスは静かに答えた。

「だが、
もし同じ現象が現れるなら
……理論そのものを見直さなければならない」

その先は誰も口にしなかった。



教導院正門。

各班が順番に出発していく。

ガルドはその背中を静かに見送っていた。

アルト班が門を抜ける瞬間、
ノアへ一瞬だけ視線を向ける。

黒い装甲に刻まれた白い亀裂が、
朝日を受けて微かに輝いたように見えた。

しかし次の瞬間には、
ただの反射だったかのように消えている。

「……境界は、
もう動き始めているのか」

誰にも届かないほど小さな呟きは、
朝風に溶けた。

教導院の外へ続く道を進む若きリンカーたちは、まだ知らない。

自分たちが向かう先にあるものが、
受け継がれてきた理論だけでは決して測れない
”境界”であることを。

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