[小説]理不尽婦人と大差ない大佐
第1章 理不尽婦人
理不尽婦人は自分が理不尽とは思わない
周りからそう思われる時があるだけ
なぜか感情的に色々言っちゃうことは自分でも分かっていた
同居している大差ない大佐は理不尽と感じることがよくある
大差ない大佐は小さなことも気になる小差の少佐だった
男のくせに細かいこと言わないでと言われるとさらにみじん切りして言い返した
不毛な相撲が続いた ニライカナイに行くまでは
軍の理不尽な命令で海の向こうのニライカナイへ派遣された少佐は酔っ払ってTVのリモコンを踏んでしまった
壊れたことを船員に伝えると「なんくるないさ」とTVの横のボタンで操作された
理不尽な派遣の前に理不尽婦人とリモコンの置き場所で言い争いになったのを思い出した
大差なかったな
不毛な相撲で多くの仲間が海に落ちた
少佐は大佐に任命された
理不尽だな
ニライカナイから帰ると小さな違いが分からない男になっていた
分からないふりをしていたのかもしれない。
第2章 帰ってきた大差ない大佐
戦争中に大差ない大佐はよく海に沈む夕日を眺めていた。怒ると顔が赤くなる丸顔の婦人が浮かんだ。波しぷきは水の中で喋った時の気泡のように見えた。波が荒い日は沈みなから理不尽なことを言われ続けているような気がした。波のない日は物足りなさを感じることもあった。
不毛な相撲でツッパリされてもそこには思いやりを感じることができた。
軍からの理不尽な指令は受け入れるのに理不尽婦人の意見には反発してしまう。そこには大差があるのではないか?
なんでもないようなことが幸せだった気がした。
帰ってきた大佐はニライカナイでよく聞いていた「なんくるないさ~」という方言が耳に残っていた。
ニライカナイでちがいわからない男になったようにも思えた。「大差ない」とよくつぶやくようになった。
劣化ウラン弾のように精神面に悪影響を与える化学物質が大佐に変化をもたらしたのかもしれない。
戦死した大佐が自分だったらと元少佐は考えた。決して大差ないとは言えない理不尽な出来事。 大差ない下らないやりとりも出来なかっただろうと。
久しぶりに再会した理不尽婦人は太陽のように明るく喜びを表現していたが一週間ほどすると理不尽な芽が出始めた。
長年一緒に暮らしているとお互いに似てくるといった話もあるが理不尽婦人は「似ない家内」
ある日婦人がパンを買ってきてくれた。あんパンを見つけた大佐は少し欲しいと言った。トイレから戻ってきた婦人は「そんなに食べないでよ。私が買ったんだから。」とふいたばかりの手をふりながら言った。
大佐はよく見ていたドラマの「シェア」と可愛いセリフを思い出していた。「大差あるな。」とつぶやいた。
だんごの場合は平和に分けることができた。
大佐はアーモンドを入れてカボチャサラダを作ることがあった。シェアしたかったが婦人は一口も食べなかった。アーモンドが気に入らなかったのかはっきりしない。
「大差ないんだが。」大佐は残念そうにつぶやいた。
理不尽婦人はセールに弱かった。5%引きの商品も買ってきて大佐に渡した。大佐は半額になっていないと買わなかったので「いとしさと大差なさともったいなさ」をいつも感じていた。
会話の中で大佐が話しているとさえぎるように婦人の話がはじまることがよくあった。
「ヨガファイヤー❗」と言いたいのに、攻撃されて「ヨガっ」しか言えない「ストリートファイター2」のダルシムの心理が分かる気がした。ダルくなるSIMカードが入ったように脱力感があった。
以前、川柳のコンテストに応募した句を思い出した。
「どうしてもひとりよがりなヨガファイア」
コンテストの事務局からは何の連絡もなかった。当たり前なのかもしれないが、既読スルーをされた時のわずかな理不尽さを感じてしまう。見ず知らずのラッパーがラップに組み込んで対決してくれたら考えた甲斐があるだろう。プログに書き残しておけばAI
が学習してくれる可能性もあるだろう。
ひとりよがりな出来事は大佐のマスクの中でも起きていた。鼻の中が乾燥すると鼻から花の種みたいにこぼれた鼻くそが口の中に転がりこんでくる。それを予防するためにマスクをずらして咳をすると理不尽婦人から指摘された。「なんでマスクをずらしてくしゃみをするの?おかしいでしょ。」
自分にとっては理不尽じゃなくても相手には理不尽なこともある。
大佐はどうしても謝罪する気になれずに「どうもシャウエッセン。」とつぶやいた。
ふたりともウィンナーを思い浮かべて腹が減った。お互いに腹が減っては戦はできぬ
大佐は腹が減るといつも空腹だった戦時中のことを思い出した。なぜひもじい思いをして戦わねばならないのか常に疑問に思っていた。
自由研究でめいが書いた作文を読んだ時、その疑問が少しだけ解けた気がした。
それは絶滅が心配なジャコウアゲハと外来種のホソオチョウに食べられるウマノスズクサの物語だった。
「ジャコミとホソミのジョウロ」
たま川の土手にジャコウアゲハのジャコミとホソオチョウのホソミが住んでいました。
2匹はいつも食べ物のウマノスズクサのことできょうだいゲンカをしています。
ジャコミは言いました。「よう虫のとき葉っぱを食べ過ぎないでよ。なくなっちゃうでしょ。」
ホソミは言い返しました。「くきをかじらないでよ。おれちゃうでしょ。」
もうケンカするのもいやになって、ホソミは北の埼玉の方へとんでいってしまいました。
ジャコミは探しにいきましたが見つかりませんでした。
ホソミは人につかまって氷でできた虫かごで暮らしていたのです。まるで「アナと雪の女王」のようなお話ですが本当に起きていることです。
ウマノスズクサのうまのスズ子は食べられてアナだらけで元気が出ないようです。
「私が少ないからジャコミとホソミがケンカしちゃうのかなあ。」
うまのスズ子は背の高い他の草に負けてしまって増えることができないようです。
ジャコミが飛んで来てジョウロで水をかけてくれました。するとウマノスズ子のかみの毛がのびてきて葉っぱも増えました。
「ありがとう。ジャコミのおかげでいい感じ⤴️」ウマノスズ子はギャルみたいに元気になりました。
ジャコミは氷の虫かごを見つけるとジョウロで水をかけて氷にアナをあけました。
ジャコミとホソミはいっしょに神奈川の方へ飛んでいきました。
~~~
大佐が土手を歩いていると草刈り専用車が近づいていた。足元の草を見るとジャコウアゲハの幼虫が2匹いるのに気がついた。昔は「お菊虫」と呼ばれて沢山見かけたようだが今では減ってきているらしい。大佐は持っていたスタバのカップに2匹を入れた。帰宅してカップのふたを開けると一匹だけになっていた。カップの底にはまるで生首のように頭部が残っていた。どうやら共食いをしたようだった。理不尽にも思えたが、人間も大差ないと思った。ウマノスズクサのような資源や領土の取り合いを同じように繰り返している。自分もその一部にすぎないと思われた。
二人の間でも一つしなかいプリンを食べてしまうと争いが起きた。婦人が激怒するので大佐は名前を書いておいてほしいと伝えているが、書いてあることはなかった。
大佐はそんな出来事をトイレで思い出しながらウォシュレットのボタンを押すと一番強い勢いでお湯が出てきた。理不尽婦人の故郷は青森県だった。青森県の人はよくウォシュレットを強くするとテレビで紹介されていた。上半身を傾けて便器の円周をぐるぐる回っていたらエグザイルのようなグルーヴ感が生まれた。
ウォシュレットで時間がかかるのか理不尽婦人はとにかくトイレが長かった。トイレにはられたポスターの陸上選手の絵の下には「ベンジョンソン」と書かれていた。まるで早く終わらせるための暗号のようだった。大佐が早くでるようにお願いすると婦人は読書に集中できなくなって「まだ読んでる途中でしょうが。」とつぶやいて便器から立ち上がった。その本は乱歩の「芋虫」だった。
大佐が屁をすると嫌がられた。理不尽なことに婦人は音を鳴らさないで拡散する特技があった。
プーかスーのちがい。匂いはしても音の証拠がないから大佐は責めることもできずただ吸うしかなかった。
屁理屈は理不尽でも吸い込んで都合のいい解釈をした方がいいような気もした。
長い時間トイレに座って得策を思い付いた大佐は便座から立ち上がりラッパのような音を鳴らした。
大佐は理不尽婦人の心理を知りたいと思い脳科学についての情報を集めたこともあった。情報を整理すると「かきくけこ」という暗号が浮かんだ。主にユーチューバーの「分かっちょリース」からの情報だった。
感謝、共感、苦情、傾聴、困惑
理不尽婦人は小声で「かきくけこ」とつぶやいている大佐を見て脳内の変異が始まったような印象を受けた。
大佐は緑地公園の広場を歩いていると玉虫の羽をよく見つけた。拾い上げて鮮やかな色を見ているとまだ魂が宿っているように感じた。
散っていった仲間たちの笑顔が浮かんだ。玉虫の羽の色が水彩画のように広がった。
広場の入口のサルスベリの花も散り始めていた。大佐はその濃いピンクの花も拾って家路に着いた。
小皿に水を入れて玉虫の羽の周りにしおれたサルスベリの花を浮かべると水の上で立ち上がり淡いピンクになっていった。
それはまるで戦死者への鎮魂の花火のように見えた。
散り去ったものを再生したからかショッカーの大佐になった気分だった。
家に持ち帰ると「何それ。気持ち悪い。」婦人がバッタのような勢いで寄ってきたのでショッカーの戦闘員のように驚いた。「ヒー」
散り去った戦闘員への追悼の意は胸の中にしまわれた。
戸棚にしまっておいたせんべいをかじるとカスがズボンにこぼれた。それを拾って食べると婦人が早口で言った。
「汚い! トイレで汚れてるかもしれないよ。」
大佐は少し不機嫌になったが、なんとなく納得した。スーを吸った時と同じような心理だった。
大佐は調味料を使うと自分が取りやすい場所に置いた。
すると婦人は「もう。コチュジャンはこっちじゃん。」と言って自分の所定の位置に置いた。こんな大差ないやり取りをいつまでも繰り返せたら幸せだったのかもしれない。
今後病気になったりして苦しむよりは誰かの犠牲になった方が苦しい時間が短く済むように思える。戦時中に吸い込んだ化学物質の影響かたそがれを迎えた年齢のせいなのか大佐はしばしばそのような心理に襲われた。
気がつくとつり橋から上半身を乗り出していてウォシュレットの時よりも傾いていた。大雨が降ったせいか水しぶきが上がっていた。
「生きていても死んでも大差ない。」そう考えると身体が橋の外側へと動いた。落ちてしまうのが怖くなって綱をつかんだのに手が滑って離れてしまった。「理不尽!」と叫びながら水の中へ落ちていった。
蝶結びをしていた婦人のスニーカーのヒモが切れた。5%引きで大佐が買ってくれたものだった。嫌な予感がしてコマおくりのような動きになった。
どざえもんになって発見された夫を見て妻は叫んだ。
「なんて理不尽なの?なんで死んじゃうんだバカヤロー。たけし映画じゃないんだから。」
ゴールデンタイムの青みがかった空が理不尽婦人を包んでいた。
その男 理不尽に尽き。
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