焦った女、見つめ合う。
出会った男の名は、バーベル。見つめ合ったはずの視線の先に、もうひとつの顔があった。時間が進むに連れ申し訳なさが募っていった。
マッチングアプリ体験談。
アプリでの彼の名前は
小学校の同級生のあだ名だった。
あまりオーソドックスなあだ名ではないので
もしかしてと思った。
世の中そんなドラマはないのだ。
普通に別人だった。完全に勢いだったので、
むしろこの結果でよかった。
現れた彼は温和な感じの中肉中背の男性だった。
彼のことはバーベルと呼ぼう。
待ち合わせ場所からホテルまで手をつないで歩く。
彼はロマンチストかもしれない。
ホテルの部屋に入り、私たちはキスをする。
なんだこれは、香ったことのない匂いだ。
好きな香りではない。
不思議に思いながら進んでいく。途中でわかった。
バーベルはテーブルに眼鏡を置いて、
服を脱いでいく。
私は見慣れないものを見た。
バーベルの身体は肉割れの跡と
皮膚が伸びきっている部分があった。
私は何も言わなかった。
常々思う、話題として触れることも
優しさになるときもある。
でも直面するとなかなか上手く出来ないものだ。
女性なら産後の勲章だろうか、
いやまた違った身体だろうか。
バーベルの口臭や香りは
これに由来しているのだろう。
バーベルは自分の大きさを
「ちょうどいいでしょ?」と言う。
私には「うん」以外の選択肢はなかった。
それ以外どう答えていいやら、わからなかった。
わからない。今どういう状態なのか。
思わず私はバーベルに尋ねた、「全部入った?」と。
彼は「入ってるよ」と笑顔を見せる。
なるほど、わからない。だがそうらしい。
男性から総じて「狭い」と言われる私でも
わからなかった。
ハグをすると、
今までと違うもしゃっとした感触を感じた。
中にチョコなどが入っている
マシュマロのようだった。
包み込みながらも
クッション性があるようでない感じだ。
バーベルは顔をゆがめながら、激しく動いている。
私は摩擦だけは感じ取っている。
そして私の視線は彼の身体に吸い寄せられていく。
バーベルが動くたびに、
彼のお腹は別の意志を持っているかのように動く。
もう1つ、顔があるみたいだ。
上と下、私は交互にバーベルの顔を見つめる。
下の顔、バーベルの過去が
私を見つめ返してきているように思う。
なぜか申し訳なさを感じる。
私が行為に入り込んでいないせいだ。
彼は顔に汗をかきやすい体質らしい。
バーベルの汗が傘をさすか迷う雨ぐらい、
私の顔に落ちてくる。
2回戦目は、後ろからの体制にした。
色んな体位を試したいバーベルと、
二つの顔と
雨に気を取られたくない私の思惑が一致したのだ。
目を閉じ集中して彼を感じようとした。
やっぱり摩擦ばかりが気になる。
そしてバーベルの動きは激しい。
私は緩急が好きなタイプで普通列車を好む。
バーベルは特急列車の動きである。
「やけどする」そんなわけないが私はそう思い、
逃げようとした。
彼は「逃げんなよ」と動きを封じてきた。
そうだった。優しい雰囲気で忘れていたが、
バーベルはプロフィールにもSだと書いてあった。
だいたいそうだ。Sの男性は1回戦では様子を見て、
2回戦目ぐらいからペースアップする。
優しくも厳しい彼の攻めが続いていった。
事後、
浴槽の中でバーベルがいろいろ語ってくれた。
私とはフィット感よかったらしい。
フィット感とは
きわめて主観的な言葉であると私は再確認した。
バーベルはジムの尊さも語っていた。
私には筋肉がないので、
一緒にジムに行かないかと誘ってくれた。
私は運動音痴である。
今のタイミングなら、
バーベルの過去について聞けるかもしれない。
でもしなかった。踏み込んでいいのかわからない。
私は行きずりの女だ。
浴室だと湿度が高い、
そして私たちは密着して入っている。
バーベルの口臭が気になってしまう。
その伸びた皮膚でわかる。
バーベルはとてつもない努力家だろう。
しかしまだ早かったのかもしれない。
急激な減量は身体に多大なダメージを与える。
おそらく彼の身体は回復しきっていないのだ。
物事は結構タイミングで結果が変わる。
もしもっと後に会っていたら、
違った印象になっていたかもしれない。
私はこれまで彼のように
賢明な努力をしてきただろうか。
私は焦った。
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▼ 焦った女、マッチングアプリを貪る。— はじめに
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