ハンバーグ定食というもの。
松屋に行く。
僕は決まってハンバーグ定食を食べる。
友人たちは決まってその光景を好奇の目で見る。
無理もない。
お金のない僕たち大学生にとって安さとスピードを兼ね備えた牛丼だけが唯一の味方。そんな中で時間もかかり、尚且つ1000円を超えてくるこのメニューは中々選ばれないだろう。
しかし、僕の中で松屋といえばハンバーグ定食なのだ。
話は18年前に遡る。
昔、住んでる近くにおもちゃ屋があった。
店に入ると、いつも決まって足歩行の大きなキリンがお出迎えしてくれた。
そして、決まってあの人は僕に小さなミニカーを買い与えてくれた。トミカより少し高い海外製のやつ。
「母さんには内緒だぞ?」
そう言って。
その向かい、大きな国道を挟んだちょうど反対側に松屋があった。おもちゃ屋の後は松屋に行く。僕たちの中ではその流れが定番だった。
小さかった頃、母は僕に外食をさせるのを酷く嫌がった。
そんな母の優しさに反して私は外食が大好きだった。
大変な親不孝者である。
あの人はいつも決まってハンバーグ定食を頼んでいた。
ハンバーグ定食といったが、正確にはハンバーグエッグ定食。ハンバーグ定食に目玉焼きが乗った少し豪華なあれ。
当時の値段は知らないが、今だと目玉焼きがあるかないかで100円も違う。なんて世の中だ。お金のない私は迷わず、"目玉焼き無し"を選んでいる。
そんな父は僕が物心がつき始める前に亡くなった。
確か癌だったと記憶している。
晩年はずっと病弱でずっと床に臥していた。
もう随分と前のことになる。
僕と沢山の秘密を共有した父の顔や声は日に日に薄れていく。今は思い出すことも少なくなり、記憶の片隅に残る程度。
しかし、なんとも不思議なことに松屋のハンバーグ定食を食べるその間だけは記憶が鮮明に蘇ってくる。味もあの頃から変わっているだろう。足繁く通った店も今は残っていないはずだ。
縁もゆかりもない東京の松屋で、あの頃を重ねる。
買ってもらったばかりのミニカーで遊ぶ僕。
その隣でハンバーグエッグ定食を食べる父。
時折、私に食べさせてくれる。
美味そうに食べる僕を見て
記憶の父は、いつもぎこちない笑顔で微笑んでいた。
今日も
松屋に行く。
僕は決まってハンバーグ定食を食べる。
隣に座る後輩が好奇の目で見ている。
「なんですかそれ。」
「ハンバーグ定食。」
「初めて見ました。」
「一口食うか?」
「良いんですか!?」
そう言って、彼は一口というには少しばかり大きいハンバーグをとって口に運んだ。
「美味いだろ?」
そう言うと、僕はぎこちなく笑った。
(おわり)
