どれだけ修学旅行行きたくなかったかって? そりゃ、家出するほどだよ
朝の駅で、一日の価値が平等ではないと思い知る。
ワタクシにとっては、先週も、先月も、先年も繰り返した、同じ日のはじまりに過ぎない。もう食傷通り越して食中毒ってくらいの。
しかしあの制服姿のみなさんにとっては、一生に何度とない日。どちらかといえば後半ニ文字に重きが置かれがちな、修学旅行というやつですね。たのしそう。
がッ、ワタクシはちっともうらやましいとは思わない。なぜなら学生時代、修学旅行ほどイヤなものはなかったからだ!!
どれほどイヤだったかといえば、もう二度と訪れることのないイベントのはずなのに、人生におけるイヤなものTierリストの最上位に今もなお君臨し続けるほど。はよナーフしろ。
あのう、ワタクシがなんとか学校に通えていたのは、学校が終われば家に帰れるからなんですね。そう、辿るべき家路があるからこそ、冒険者も、勇者も、騎士も、商人も、ハンターも、魔女も、風来坊も、巫女も、天使も、不死人も、理不尽極まりない死地へ何度となく赴けるわけでして。
しかし、修学旅行とはだいたい日帰りで済みません。日帰りならわざわざ旅行なんてもったいぶらず校外学習と題すればよいんだし。旅行を名乗るからには、一泊以上の拉致監禁が付帯するということ。おうちに帰れないぞ!
さらに問題はそれだけじゃない(ひとつ問題を見つけたら、その付近には最低ふたつ以上の問題が潜伏していると言われます)。たぶんご先祖が神木の枝を折ったかなんかしたおかげでしょうけど、ワタクシは内憂外患的に、肉体・精神の両方に永続的なバステがかかっているみたいな状態が生まれつき。ナチュラルボーンバステ。すぐ具合悪くなってんなコイツ。
乗り物は嫌い、遠出も嫌い、人混みも嫌いと、およそ現代社会で生息するにふさわしくない特徴ばかりを備えた不適格者、それがワタクシ。どうも手違いがあったようで、生まれる時代が万単位でズレたんすよ。
小学生のときにも修学旅行があったはずですが、なんかよくわからないうちに終わっていました。なにをしたかまったく覚えてません。おそらく一日目に宇宙人に捕まり、乗り物酔いになりやすい体質に生体改造されたあげく記憶を消去されたのであろう。
中学生のときは、だーれがこんな地獄巡りに行くかってんだよおれをダンテかウェルギリウスと思ってんのか残念だな違えよバーカ! と啖呵を切るも、あっさり周囲に言いくるめられ、あえなく幽囚の身と化す。感想は⋯⋯言いません。
まあ、言ってもここまでは一泊二日か二泊三日くらいのもの。三年ニか月ってほどじゃない。歯を食いしばって耐え抜きました。おかげで学を修めるどころでもなかったですが。
でも、とくに英雄というわけでもないワタクシにさらなる苦難がふりかかる。もーやめてよお。
滑り込んだ高校で、このままクラスの片隅でじっとして卒業を待とうという殊勝な生存戦略を組み立てていたころ、性懲りもなく修学旅行がやってきました。そんな毎度毎度行く必要あるのか⋯⋯?
さらに、三泊四日だか四泊五日だかは忘れましたが、いままでの比じゃない長さだったと記憶しています。おまけに――いや、おまけと呼ぶにはあまりにも大き過ぎる――今度は飛行機で出発だ!
はァ~~~~~???? 学校はおれをオデュッセウスか何かかと勘違いしてやがるのかと思いました。飛行機なんてその当時にも一度も搭乗したことないしなんなら今でも乗ったことないしこれからも一生乗らずに済ませたいし、なんかもう、無理だぜって、静かに悟りましたとさ。
素直に、自分はオデュッセウスではないということを周囲の大人たちに伝えて、行きたくないと決意表明していればよかったのかもしれない。が、中学時代のことが思い出されます。またなんやかんやと行かざるを得ない羽目になるんじゃなかろうかと。
だいたいさあ、「あれが起こったらマズイ」「アイツが目覚めたら大変だ」みたいなときって、起こるし、目覚めます。ラスボスが封印されたままなんとかやり過ごせたなんてこと、ないんですよねえ。
現実世界にもその法則が当てはまることを危惧したワタクシ、かかるXデーの到来を回避すべく、破滅の未来を破るべく、高校生の知能とは思えない手段を取りました。悪い意味で。
「熱出しゃよくね?」
そう、修学旅行前になんとか病気にかかろうとしたんです。バカ?
涙ぐましい、というよりはアホらしい、数々の努力を開示しましょう。
・なるべく鼻呼吸ではなく口呼吸で過ごす
・学校から帰ったあと、手づかみでドーナツを食べる⋯⋯手を洗わずに
・夜、入浴後、あまり体を拭かず薄着のまま、近所の公園に行って佇む(我が母校で修学旅行が予定されていたのは12月)
顔から出た火で焼け野原になる前にやめておきますが、このような愚行を演じた帰結として――ちっとも風邪は引けやしねえ、熱も小数点以下の単位ですら上がらねえ、という始末。このとき失った時間を、死ぬ間際に後悔することにならなきゃいいなって、ずっと思ってます。
そして迎えたる終末の日。目覚めた瞬間から薄々気づいてはいましたが、体温を測定。36.6℃。平熱じゃねーかッ! ワタクシはこのとき、神の不在を確信しました。
客観的物証を提示できない以上、すべては自身の演技力しだいです。が、ワタクシが何かを演じたのは小学校の学芸会が最後でしたし、しかも一行のセリフを冒頭にのたまって後は引っ込むという役柄だったので、そんなわずかな機会で修学旅行の欠席やむなしと確信させるほどの迫真の仮病を演じられるにちがいないという自信を培えたはずもなく、絶望の末、謝罪文をしたため、出奔。
当時、家族の誰よりも早起きだったのが幸いしました。ウサギだって寝坊したせいで負けたんだし。
まっ、家出というのは大げさで、その日の夜にはおめおめとぬけぬけとしれっと、帰宅していたわけですが。いったいどのツラを下げて戻ってきたのでしょうねえ⋯⋯
――という経緯があったので、おそらく修学旅行に向かうべく集合しているであろう学生諸君を見ても、センブリみたいな思い出がこみあげてくるだけだったんですね。
でもあれ以来、たいていのことは修学旅行に行くよりはマシだとして、受け入れられるようになったのかと言えばそういうこともないので、やっぱりイヤなものはどうあがいてもイヤで隙あらば逃げようとつねに機をうかがっている今日このごろでした。
