新潮文庫とかスピンとか成瀬とかの話
私事で恐縮だけれど、僕は新潮文庫が好きだ。
いや正確に言うと、講談社文庫もハヤカワ文庫も岩波文庫も、いやもう文庫本は基本的にどれも好きなんだけれど、中でも新潮文庫は特別で、その特別感はやはりあの、スピンの存在にある。
スピンとは、新潮文庫に付いている、栞の紐のことだ。

ご存じの方にとっては当たり前の話、今さら何事かと思われるところだろうが、ここは少々語らせていただきたい。
実は、かつて多くの文庫本に採用されたこのスピンも、現在まで残っているのは新潮文庫だけなのだ。
まあ実際手間もコストもかかるので無くてもいいんじゃね?と思われそうな存在なのはたしかで、実際他の出版社の文庫では次々と廃止されていく中、新潮文庫は明確な使命感を持って、あえてこのスピンを存続させてくださっているのである。
「安価で軽装な文庫本といえども書籍であり、これを蔵書として扱う読者にこたえたい」
とのことだ。
その心意気、推します。全力で推させていただきます。
ところで新潮文庫にはこのスピンが付いているという製本の都合上、本の上部(天)を切って平らに揃えることが出来ない。これを天アンカットと呼ぶそうなのだけれど、この新潮文庫特有の不揃いな天部分もまた、愛らしいと感じるのである。

ちなみに、ちょっと大きくてブックカバーをつけるときに困るで有名(?)なハヤカワ文庫も天アンカット。逆に綺麗に天をカットしている講談社文庫や角川文庫、岩波文庫などは、新潮文庫と並べるとちょっと背が低かったりする。
僕のように本棚の本を作者ごとに並べたい人にとっては、この背の高さが違う問題は、地味に気になるところではないのかと思うのだけれど、みなさんどうなんだろう。

ところでこの愛すべき新潮文庫のスピン、通常は先にも挙げたようなこげ茶色のものが付いているのだけれど、ごくまれに、特別色のスピンが採用されているというのはご存じだろうか。
僕もすべてを知っているわけではないのだけれど、例えば最近では宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』なんかがそう。
この本は文庫版の初版本に限り、特別色として琵琶湖ブルーと称する青いスピンが採用されていて、先日文庫版が発売された、続編の『成瀬は信じた道をいく』には、琵琶湖の桜色をイメージしたピンクのスピンが採用されている

ちなみに僕はこの『成瀬は天下を取りにいく』は、持ち歩き用と保存用、そして直筆サイン本と、合計3冊(サイン入り単行本もあるので本としては4冊)所有している(自慢)。
『成瀬は信じた道をいく』は、持ち歩き用と保存用の、あとは記念のサイン本の合計3冊。サイン入り単行本は買いそびれた(後悔)。
他にはガルシア=マルケスの『百年の孤独』の初版本には黄色いスピンが採用されている。宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』初版は、1巻と2巻が金色、3巻と4巻がオレンジ、5巻と6巻が赤色になっているそう。
それ以外にも、創刊100年にあたる2014年9月から2015年8月の間に発行された新刊には金色のスピンが付いているとのこと。
こちらもコレクター気質を刺激されますな。

僕も本好きの端くれとして、かつては好きな本は初版の単行本を買うという使命感を持って推してきたわけだけれど、いかんせん単行本は場所をとるしお値段も少々張る上に、ぶっちゃけ少々読みにくい。
僕は本をあちこち持ち歩いていろんなところで読むので、ハードカバーの単行本はどうしても携帯性が悪い。結局単行本は買うだけ買って、読むのは後から文庫で、という意味のわからないことになりがちなので、最近は読みたい本は文庫でそろえることがほとんどになった。
だから、というわけではないけれど、この気軽に持ち歩けてどこでも読める文庫本に付いているスピンは、ささやかな特別感と満足感を与えてくれる、貴重な存在だったりするのだ。
あ、でも僕は基本的に気に入った栞を使いたい派なので、新潮文庫のスピンを栞として使うことは、ほとんど無いことだけは正直に白状しておこうと思う。
「好き」と「役に立つか立たないか」は、関係ないのである。

