20年以上現場で使われ続ける理由とは。現場の「困りごと」から始まったライティング創の原点の照明器具『SDL80001』を語る
店舗の照明器具などにおいて、まだ“白熱灯”が主流だったころ。照明器具の前面温度が200度以上になるケースもあり、当時は設置場所によっては火傷の危険性などが懸念されていました。
そんななか、「安全性を担保できる照明を探している」というご相談をきっかけに生まれたのが、ライティング創の什器用ダウンライト『SDL80001』です。
LEDの照明器具がまだなかった環境下で、LEDを用いながら、白熱灯と同じ明るさ・同じ印象の光をどう実現するか。設計や構造、光のつくり方、すべてが試行錯誤の連続でした。
こうして生まれた『SDL80001』は、開発から20年以上が経った今もなお、既製品として現場で使われ続けています。
今回は、ライティング創の代表取締役社長 小瀬光年と、デザイン企画部長・橋田正和に『SDL80001』の開発エピソードや長年ラインナップされている理由について、たっぷりと語ってもらいます。
今回取り上げる製品:『SDL80001』(ダウンライト/ショーケースダウンライト)

SDL80001は、器具の薄さに特化した什器用照明器具で、器具の高さはわずかH19mmです。広範な配光が特長で、棚下全体を均等に照らすことが可能です。
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「LED照明器具がまだなかった」時代に生まれた、什器用ダウンライト『SDL80001』
── まずは什器用ダウンライト『SDL80001』の特徴と、この器具が開発された経緯について教えてください。
橋田:『SDL80001』は天井ではなく、商品陳列などに使う什器に取り付ける照明器具です。
薄い棚板の中にも取り付けられるように、高さは19mmとかなり薄い構造になっています。また広い範囲を均等に照らせるよう工夫されている点も、この器具の特徴です。

光年:開発のきっかけは、2004年頃にラグジュアリーブランドの店舗照明を担当していた照明設計者からご相談をいただいたことです。
当時の什器用ダウンライトは白熱灯が主流で、照明器具の前面温度が200度を超えることも珍しくありませんでした。商品を取る際に棚下の照明に手が触れてしまい、火傷のリスクがあることなどが懸念されていたんです……。
安全性の課題が浮上していた状況のなか、ライティング創の先代社長にもご相談をいただきました。「安全性を確保しながら、これまでと同じように棚下で商品を照らせる照明はつくれないか」と。
橋田:その解決策として検討されたのがLEDです。LEDが本格的に普及したのは2010年頃で、ご相談をいただいた2004年当時は、まだ照明器具の光源として使われる存在ではなく、スイッチの表示灯など、ごく限られた用途が一般的でした。
ただ、ライティング創はすでに試作品としてLED照明を開発していたんですね。「いずれLEDは照明器具として普及する」と考えた照明設計者の視点と、ライティング創のものづくりが重なり、什器用ダウンライトにLEDを使うという試みが始まりました。
── 当時いただいていたご要望には、「すでに設置している棚下の照明器具と交換する」という前提がありましたよね。サイズなどが決まっているぶん、設計面での制約もありそうです。
橋田:そうですね。棚のサイズや照明器具を設置する寸法は決まっていたので、既存の照明器具を外したあとに、同じサイズで、すっぽり収まるよう設計する必要がありました。
特に棚下という条件上、高さにはかなり制約がかかります。LED照明と照明カバーの距離がどうしても近くなるため、ランプイメージ(※)が出やすくならないように注意しましたね。
(※)ランプイメージ:照明器具を見たときに「ここに光源がある」と見える状態。ランプイメージがない製品のほうが良いとされる
また、光の拡散のさせ方を細かく調整してムラを出さず、棚下全体を均一に照らせるようにしたり、器具自体に白い塗装を施して、商品を美しく見せるような工夫も凝らしました。
光年:当時使われていた白熱灯と同じ明るさ、同じ印象の光を、LEDでどう再現するか、という点にも尽力しましたね。LEDという新しい試みを、さまざまな条件があるなかで開発された照明器具でした。
── 今もブラッシュアップがされている製品ですが、特に調整してきたポイントについてあらためて教えてください。
橋田:LEDの性能変化に合わせた光源の調整です。
例えば、最初につくった頃は白熱灯と同じ明るさを出すために、一つの器具のなかにLEDを4粒入れていました。4粒使わないと、当時の白熱灯の光量や印象に近づけられなかったんです。
その後、LED自体の性能が上がってきて、よりパワーのある素子や効率の良い光源が使えるようになりました。
今では1粒でも、しっかりした明るさが出せるようになっています。光源が一つになると影も一つになり、影が重なって見える状態が起きにくくなります。そのため、商品本来の色や形がより自然に見える光になるのです。
一つの器具を基準に、要望に応じて光の選択肢を増やす
── この『SDL80001』をベースに、派生していった照明器具がいくつもあります。派生モデルをつくるにあたっての判断基準を教えてください。
橋田:派生モデルが登場するのは、主に「新たな技術やパーツが生まれたとき」と「ご要望をいただいたとき」の2つです。
技術は日々進歩していますので、新しいパーツが使えるようになったり、これまでできなかったことが技術的に可能になったりすると、社内で照明器具をつくるためのアイデアが生まれ、かたちになる場合があります。
もう一つは、お客様からのご要望があったときです。例えば、「明るさを抑えたい」という要望には『SDL80002』、「光の向きを変更できるようにしたい」という要望には『SLD80003』と派生しています。

── 派生モデルとしてではなく、『SDL80001』そのものに手を加えていくという選択肢はなかったのでしょうか?
橋田:照明器具は一度設置して終わりではなく、光源の寿命に合わせて、いずれ交換やメンテナンスが必要になります。そうしたときに、前に導入したものと同じ製品がなければ、これまでの使い方や空間の印象が変わってしまい、不便に感じるお客様もいらっしゃると思います。
ライティング創の照明器具はお客様に長く使っていただけるものであってほしいから、『SDL80001』についても、「何年経っても、同じ使い方ができること」を優先してきました。
実際に10年以上前に導入してくださった店舗から、今でもメンテナンスの相談が来るんです。そのときも、同じ電源で、ほぼ同じ条件のまま交換できるようにしています。
光年:だからこそ、その仕様から外れるご要望については、新しい製品としてつくるようにしているんですね。
照明器具に対するご要望は、本当に幅が広い。光の見え方や当て方、明るさを変えたいというご相談もあれば、センサーや別のシステムと連動させたい、といったご要望もあります。
建築や空間のつくり方が時代によって変わっていくとともに、どの場所にどんな光が求められるのかも変わってきます。そのニーズ次第で、必要とされる照明器具もどんどん変わっていくでしょう。
そうした一つひとつの要望に向き合って積み重ねた結果、派生モデルとして製品群が増えていく、というイメージです。
派生モデルとして生み出した製品についても、中の光源やパーツは時代に合わせてブラッシュアップしていますが、外形寸法や取り付け条件が大きく変わらないように、部品の選び方や設計の仕方にはかなり注意をしています。
── 開発から時間が経った今も、『SDL80001』を既製品としてラインナップさせ続けられている理由はなんでしょうか?
橋田:一番大きいのは、構造がとてもシンプルである点ですね。
特注照明はお客様それぞれの用途や条件に合わせて設計するため、どうしても構造が複雑になりがちで、そのぶん、部品調達や汎用的に使用できる設計が難しくなります。
その点、『SDL80001』は使っている部品の種類や構成をあえてシンプルにしているため、時間が経っても同じ仕様で作り続けることを可能にしています。
光年:もう一つは、ライティング創の「ものづくりの前提」があると思います。一般的な既製品は大量生産が前提なので、同じものを作り続けるには、ある程度まとまった数量を再度生産する必要があります。
しかし、例えばメンテナンスの際に「10年前に入れた照明器具を、いま数個だけ交換したい」といったご要望をいただいたり、同一規格の製品ではなく、その建築や空間のためだけにつくられた光を求められていたりするケースも少なくはありません。
ライティング創は、そうしたお客様が求める光やニーズに真摯に対応したいという姿勢を何よりも大切に、小ロット・多品種で作ることを前提にしています。そのため、『SDL80001』も少ない数量でも安定的に供給できるフローになっており、時間が経ってもラインナップさせ続けられるのです。
お客様の困りごとから生まれた、ライティング創にとって原点の照明器具
── これだけお客様から長く支持をいただいている『SDL80001』ですが、この製品をきっかけに、ものづくりに何か変化は起こりましたか?
橋田:私は「シンプルなものほど、長く残る」という考え方を、意識するようになりました。
設計をしていると、つい機能を足していきたくなる場面が多いのですが、構造を凝りすぎると、その時代の技術や条件に縛られてしまい、結果的に長く使い続けられなくなることも少なくありません。
『SDL80001』は、逆に「どこまでシンプルにできるか」を丁寧に考えた照明器具だと思っています。
例えば、前面のアクリルパネルを固定するパーツにシリコンゴムを使用しています。固定のためにはビスを使うのが一般的ですが、この器具ではゴムで設置し、照明器具の設置後にビスなど余計なものはできるだけ見せない、見え方にもこだわったシンプルな構造にしています。
これは、建築でいうところの、釘を使わずに木組みだけで構造を成立させるような考え方に近いかもしれません。

「いかに部品点数を増やさず、シンプルに成立させるか」というのは、設計の醍醐味の一つだと思っています。その考え方を体現しているのが『SDL80001』であり、この経験は、今のものづくりにも活かされていると感じています。
── 最後に、『SDL80001』はライティング創にとって、どのような照明器具でしょうか?
光年:ライティング創という会社を、世の中に広めてくれた照明器具の一つだと思います。
『SDL80001』という、ライティング創にとって最初のLEDのプロダクト開発をきっかけに、同じように店舗の照明やキッチンの照明など、人の手が届く場所に設置する照明器具をお求めの方からのご相談も増えていきました。
そして、私たちの「原点の照明器具」でもあります。『SDL80001』はお客様が抱える「従来の照明器具では火傷のリスクがある」という実際の困りごとをどうやって解決するかを考え、形にした照明器具です。
ライティング創のほかの照明器具も、いわゆるプロダクトアウトで生まれたものはほとんどありません。現場で掬い上げた困りごとや、「もう少しこうだったらいいのに」という声を拾いながら、一つずつ形にしてきたものばかりです。
『SDL80001』を筆頭に築き上げてきた、「課題解決からものづくりが始まる」というライティング創の姿勢を、これからも引き続き大切にしていきます。

