通学路


#創作大賞2025
#オールカテゴリ部門

通学路

想太(ナレーション)

これは僕の記憶
僕が毎日辿ってきたところ
どこにあるのかわからないようで
いつもどうにかしてちゃんとたどり着く
いつもたどり着くのだからと心の保険をかけるけれど
やっぱり不安になる
たどり着けなくなる日が来るかもしれない

凛(ナレーション)

これは君の記憶
君が毎日探してきたところ
どこにあるのかわからなくて
いつもずっと心の方位磁石だけが示してる
でも、その場所に行くといつもない
いつかは出会えると信じてるけど、もう信じられないのかもしれない
見つからずに卒業の日が来るのかもしれない

通学路を社会人の黒い服が少し似合わない女の子が歩いている。
空を見上げて
桜も散った木の下で、

電車に乗る。
女子高生とかが何やら話し込んでいる。
ちょっと後ろを見ると背の高い男子学生とかがいてビクッとする。

何してんだかって

電車でゆすられる。

働く、少し、サボってるわけではないけど、
電話の返信をして、それをマイクロソフトのセルに打ち込む。

家に帰る。同棲している両親が椅子に構えている。
別に嫌じゃない。
上からいったりもしない。
いつもそうだ。
自由にさせてもらってると思う。
でも、いつからだろう。
ちょっと生き苦しさを感じる。

なんだろう。
溜まってきたのかな。
別になんでもないけど
だんだん少しずつ擦って、
乾いて来ただけなんだろう。

5月の朝、
その日も、この桜とともに始まったいつものように歩いて家を出る。
ちょっととっととと玄関先で革靴をすべらせながら、

通学路だった今は通勤の道を歩いている。いつものように見える同じ道を歩いている高校生の姿を目に留めながら、

何かを忘れていったように。

彼らが何かを落とす。
ハンカチかな。
私はちょっと近づいて拾ってみた。
花柄のアジサイの香りするハンカチだった。
あ、すみません
このハンカチ落としましたよ
うん、
届いてないよ
私の声
そうだよね
続かないよね

一瞬こっちを振り向きそうになった女子高生がまた前を向く。
私はその瞬間何かが止まったのを感じた。
気がした。

そのハンカチを何かが掴んだ気がした。
あ、手だ。
うん、黒い手元
あ、そっか、あの高校生か、
ちょっと強い手の力が私の手からハンカチを取り去る。
え、
顔を上げた、
それは制服を着た私で、今の私よりちょっと自由そうで、でもちょっと寂しそうで、困った顔を浮かべながら、飛んだステップをした人物だった。
こっちを振り向くと、
ふっと笑みを浮かべて
ちょっと物言いたげな様子をして、
また前に立ち直ると、ハンカチを振り撒きながら走ってかけていった。
私は呆然と立っていた。
そして、そこに落ちてたのがただのアジサイの花びらだったことを知った。
落としたと思ってた彼らはまだそこにいて、なんでもなかったように楽しそうに話してた。

手に落とす
青いかけら
胸に当てた
その長い通学路にたくさんの存在の中に一人の私。
走った。戻った。
家に、
巻き戻した
今を、今に

まだあった、押し入れに
ずっと隠してあった若干の埃を空気で払いのけて、
制服が、
足を畳んでかがみ込む
開く
持ち上げる
着替えよっか
今日はその日だよね

制服を着る。
家を出る。
足を引っ掛けないで

先ほどの通学路を
走って、振り向く数人の影も気にしないで
走りぬく
一瞬の風さえも通り抜けて

電車に乗る。
学校に向かった。
でも、学校は
そこじゃ、出会えなかったんだよね
私、たち

入れないしって
立ち去る。
もう一回電車に乗る。

すーと、ふわーと、丸い車輪が回って
動き出した。ちょっとだけ錆びた銀色の機体。

想太(ナレーション)

たまにすれ違うことがあるし
たまに同じ方向向いて

揺すられる

凛(ナレーション)

風の通り道に人影を見たあと
ふとその場所のぽっかり空いた隙間を見る
みえないものを見ようとして
今日も歩く
いつか途切れる日が来るって分かっていながら

電車があまり見慣れない地域のところまでやってくる。
ふー、
ガタンガタン、
見慣れないのに、なにか懐かしい
原体験
私にもそんなものあったのかな。

ちょっと降りてみることにした。
ふって
空気が気持ちいい
田舎に住みたいっていってしまう人の気持ちわかっちゃうな
ほんとに住んでる方に対して失礼になっちゃうのはわかってるんだけど

あ、おばあちゃんが田植えをしてる
あ、私も昔やったな
草抜きとか
でもいつだっけ
なんでだろう
やった気はするのに全然覚えてない
私の知らないお母さんのお母さんの話かな。
でも、私が生まれた頃には、、

かりんかりん
あ、ごめんなさい、
知らず知らずのうちに道を塞いでいたみたいで咄嗟に避ける。
おー
なんか変な掛け声かけられたかも
でもなんだかいいし、
もう少し歩こうかな

すとすとすとすと
ふらっと歩いていると
いつのまにか山のようなところに出てきた。
うん、ちょっと暗くなったし、
でも、ある、、、

うん、
私は目の先に信じられないものを見つけた別に信じられないものでもなんでもないはずなんだけど、
その時、制服を着た男の子を見たんだ。
なんか、

私は着いて行った。
なんとなく
さも当然その道をあるくかのように

どこまでも歩いていく
彼が私に気づく気配もない。

彼がどこかに入っていく。
私もそこに入っていくとそこは神社になってた。
彼はそこでちょっと立って止まった。
今なんだ

君なんていうの

想太
え、そうだけど、なんで知ってるの
うん、別になんでも
あ、そう、
まぁいいや、
そう言って彼は去っていった
え、なんで
おかしいよ
おかしい
なんかおかしいよ

私はずっと立ってた
一人たってた
誰もいない
犬の像に守られて
ずっと立ってた
一人保たれて

あなた、どうかしたんだい
見慣れないね
どれくらい経ったんだろう
誰かから声をかけられた。
箒を持ったおばあちゃん
私にはそうみえた。
その制服、どこの学校なんだい
あ、これは
私、もう社会人で
そうなんだい、それは立派だね
あ、はい、
彼のいなくなった空間をまた見てしまう
どうしたんだい
えっと、
言葉がでてこない
えっと、
えっと、えっと、
探して、た、も、の、が
しばらく沈黙になる
そっか。
はい
楽しかったかい
え、
いえ、楽しかったはずです
でも、どうしたんだい
人並みには楽しんだと思います。
言い訳
ぶつからなかったのかなんなのか怖かったのか
そもそも私に魅力がなかったのか。
それ以前に資格が、
青春を楽しめる
なのにうがってみてた
そう言える人たちはちゃんとやってた
ちょっと上の人たちとつるんでた
もっともっと
私はできると思ってた人並みの青春に届くと思ってた
だから少しだけ心の余裕を持ってた
いつのまに
いつのまにか、青春の空気に一人だけ取り残されてたんだな
ちょっと先に行ったと思って、私はいつのまにか全く進んでなかった
結局、自由に生きれなかったことが親に対してそう育ててくれたことに対して後ろめたいのかな。
おばあちゃんにいうのもダメだけど、もっと同世代とからみたかった、ぶつかってもいいからやりたかった、いろいろ
私がいうのを聞きたくないんだったらいいけど、どんなに遅いと思っても今からぶつかりに行くんじゃダメなのかい
それが取り残したものであっても
あ、
そっか、
おばあちゃん、私わかった。
ありがとう

そして、私は走り出した。
なんだか、どこにあるかわかったような気がして、

ねぇ、聞こえる
ああ、あ、
私凛
はい
君想太くんでしょ
あのね、私、今あなたを運命の出会いだと思いたいみたい
はい、え
ねぇ、今夜だけ付き合ってください

あ、はい
わかりました

想太くんは何が好きなの
あー
あ、わかったアボガドだ
勝手に決めないでください
好きですけど
はは、楽しいね想太くんは、
はい、
私を連れてって
え、どこに
どこでもいい想太くんが思うところに
ちょっと遠いですよ

二人で私たちは歩いた
何も喋らずに
手を繋いだりもせずに
ただお互いがいるという感触のみを
感じながら

ね、綺麗でしょ
うん
こんな綺麗なもの見ながらあなたは
あなたは生きてたんだね
すぐ美化する
うん
そうしたら幸せだから
もっとそれなら俺を前から見てください
え、
前から見る
そこにいた漢は強そうで、でもすごく脆くていつ崩れるかわからない美しい存在そのものだった。
壊れそう
そんな簡単には壊れないですよ
そうなのね
ねぇ、想太くん
えらどうされました
私は、言おうと思った、
でも、それとこれとは違う気がした。
だから言わなかった
私社会人なの
え、じゃあなんで制服なんか着てるんですか。
なんででしょ

夜が明けて
いつもの駅まで戻ってくる。
ちょっとすぐ戻ってくる
私はそこに、
社会人姿で舞い戻り、
制服を畳んでベンチに置いて、
電車に乗った。

それを見つけた高校生が何やら話してる。

想太(ナレーション)
最後の日 花を持ちながら僕は歩く

凛(ナレーション)
始まりの朝 桜を見通して君が雲を泳ぐ
何も言い出せないまま、腰が落ちる
そこにぽっかりと空いた隙間に

想太(ナレーション)
君の鞄

凛(ナレーション)
僕の瞳

二人(ナレーション)
垂れた太陽の斜めがはじめて横から照らし出す

想太(ナレーション)
見えないものが見えたそんな

凛(ナレーション)
たしかにいた君がそんな

想太(ナレーション)
静かに歩いていた僕の足の裏が

凛(ナレーション)
騒いでいた小鳥の合掌が

歩いていた通学路が

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