第4話 理解できない世界で、一人になっていった
いつからか、
人の話をすぐに理解できなくなっていた。
ゆっくり話してもらえれば分かる。
でも、一気にまくしたてられると、
何も頭に入ってこない。
言葉は聞こえているのに、
意味が追いつかない。
大まかには分かる。
でも、相手が本当に求めていることや、
細かい部分までは理解できなかった。
そんな状態のまま、
私は高校受験を迎えた。
中学から高校に進学するために、
私は5校受験した。
でも、受験勉強なんて一切していなかった。
しようとも思わなかった。
「なんとかなるんじゃないか」
そんな軽い気持ちだった。
そもそも私は、
高校進学をそこまで大切なものだと感じていなかった。
いや、正確には――
勉強しようにも、できなかった。
勉強しても、
何を教えられても、
全く頭に入らない。
小さい頃から、習い事はたくさんやらされていた。
バレエ、そろばん、英会話、公文、ピアノ、家庭教師。
でも、どれも身についていない。
覚えられない。
私の頭には、
新しいものを入れる余裕なんてなかった。
周りの子たちを見ていた。
勉強ができる子。
友達と普通に笑っている子。
私は、それをずっと比べていた。
そして思っていた。
「自分は、この子たちとは違う」
「おかしな人間なんだ」
だから、人の話も入らない。
普通の会話もできない。
空気を読めないことを言って、
場を凍らせることもあった。
気がつけば、
入学当初に何人もいた“友達”も、
一人、また一人と減っていった。
でも、それを特別気にすることはなかった。
もともと私は、
一人で放り込まれた側の人間だったから。
一人でもいれば十分。
そんなふうに思っていた。
高校の入学式も、父と二人だった。
母は来なかった。
入学の手続きも、制服の準備も、
ほとんど一人でこなした。
だからこの頃にはもう、
誰かに期待することはなかった。
母とは、必要最低限しか顔を合わせなかった。
会話も、ほとんどなかった。
家にいても、自室から出ることはなく、
家族と同じ空間で過ごすことはなかった。
それなのに、
入学してしばらくすると、
母は突然こう聞いてきた。
「お弁当、持っていくんでしょ?」
その瞬間、
幼稚園の頃の記憶が蘇った。
あの時間。
あの恐怖。
私は即座に断った。
「大丈夫。学校で買うから」
昼休み。
みんなは楽しそうに、
親が作ったお弁当を囲んでいた。
笑いながら、話しながら。
私は、その時間が嫌で仕方なかった。
一人で体育館の地下に行き、
パンをかじっていた。
ある日、
昼休みが終わるチャイムが鳴り、
教室へ戻ろうとした時だった。
階段の踊り場で、
隣のクラスの子が先輩たちに囲まれていた。
袋叩きにされていた。
正直、
「めんどくさい」と思った。
でも次の瞬間、
気がついたら、私は動いていた。
先輩に殴りかかり、
一人、また一人と、階段から突き落としていた。
助けようと思ったわけじゃない。
その子に対して、
特別な感情があったわけでもない。
ただ、
身体が勝手に動いていた。
理由は、今でも分からない。
次の日、
学校に着くとすぐに呼び出された。
職員室。
理由を聞かれても、何も答えられなかった。
だって、理由なんてなかったから。
やがて校長が来て、
一枚の紙を渡された
[中間テストまで、停学]
そのまま帰された。
嫌だった。
帰る場所が、家だったから。
夜、学校から電話が入った。
そして、始まった。
いつもの説教。--のはずだった。
でも、その日は違った。
父も加わった。
いや、正確には、
母が父を加えた。
母は父に、
「同じようにやりなさい」と言った。
父は私を投げ飛ばし、
髪を掴んで引きずり回した。
タンスに顔を何度も打ちつけられた。
血が出た。
鼻血も止まらなかった。
意識が遠くなりかけた時、
母が言った。
「それ以上やったら、この子死んじゃう」
そこで、ようやく止まった
今思えば、
全部おかしかった。
私も、
母も、
父も。
停学中、
家にいるのが嫌で、アルバイトを始めた。
ハンバーガー屋だった。
時給は、680円くらいだったと思う
でも、そのバイトもすぐに辞めた
母が、親戚中に言いふらしたから。
親戚が、代わる代わる見に来た。
それが、たまらなく嫌だった。
私は、そこからも逃げた。
停学が明け、
中間テストの日に学校へ行った。
教室に入ると、違和感があった。
私の机の中には、
教科書が詰め込まれていた。
停学になったあの日、
そのままになっていたものだった。
教師はそれを見つけると、
何も言わず、教科書を取り出し、
ゴミ箱の上に放り投げた。
その瞬間、
頭の中が一気に熱くなった。
気づいた時には、
私は教師を殴っていた。
理由なんてなかった。
また、
身体が勝手に動いていた。
その日のうちに、退学が決まった。
そこから、
私の生活は完全に外へ出た。
地元の素行の悪い子たちとつるみ、
夜の街で過ごすようになった。
カラオケに行って、
食事をして、金をもらう。
今で言えば、パパ活のようなものだった。
でも、相手はいつも同じじゃなかった。
下心を持ってくる男もいた。
断ると、怒鳴られたり、
殴られることもあった。
でもその時は、
すぐにポケベルで仲間を呼んだ。
何人も集まって、
逆に相手を囲んだ。
袋叩きにしたこともある。
今思えば、
やっていることは完全におかしかった。
でも当時の私は、それが普通だった。
家には、だんだん帰らなくなった。
その代わりに鳴り続ける、ポケベル。
母からだった。
「家に電話しろ」
何度も、何度も。
時間なんて関係なかった。
普段は何も関わってこないのに、
帰らなくなると、
異常なほど干渉してくる。
気持ち悪かった。
あまりにも鳴り続ける時は、
電源を切った。
連絡が取れなくなると、
彼氏は、私の友達に連絡するようになった
「アイツどこ?」
そんな日が続いて、
気づけば、
私は彼氏と別れていた。
そしてその彼氏は、
すぐに私の友達と付き合い始めた
何もかもが、気持ち悪かった。
もう、どうでもよかった。
だから私は、
さらに外へ出ていった。
渋谷。
人が多くて、
誰も私を知らない場所。
そこに、居続けた。
そして――
私は、妊娠した。
まだ、16歳だった。
何も分かっていなかった。
その先で起きたことは、
今までとは比べ物にならなかった。
この先の話は、あまりにも重いので分けます。
※この実体験は、まだ続きます。
次は、妊娠が分かった後の話を書きます。
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