見出し画像

『未来の話をしよう』第1話 未来の約束

※本作は特定の国や出来事を描いたものではありません。
日常が少しずつ変化していく過程を描いたフィクションです。


1.朝のニュース

美咲は、スマートフォンのアラームで目を覚ました。

中学校へ行く準備をしなければならない。


寝ぼけたまま画面を見ると、ニュース速報が表示されていた。

「海外で軍事的緊張が高まる 各国政府が対応を協議」

美咲は少しだけ記事を開いた。

知らない地名と、難しい言葉が並んでいる。

何が起きているのか、よく分からなかった。


美咲は画面を閉じる。

今日は数学の小テストがある。

今の美咲にとっては、そちらの方がずっと大きな問題だった。


窓の外では、いつもの朝が始まっていた。


2.高校生たち

昼休み。


高校の中庭では、拓海と悠人が購買のパンを食べていた。

二人は同じクラスだった。


「卒業したらどうする?」

悠人が聞いた。

「まず免許を取る」

拓海は答えた。


「それだけ?」

「じゃあ、旅行」


「どこに?」

「北海道」


「寒いだろ」

「じゃあ沖縄」


「適当だな」

二人は笑った。


卒業まで、あと一年。

進学先も、就職先も、まだはっきりとは決まっていない。

それでも、卒業したら二人で旅行へ行くことだけは、その場で決まった。


「本当に行くからな」

悠人が言った。

「分かってるよ」

拓海が答えた。


その頃、校舎の中のテレビでは、朝と同じニュースが流れていた。

けれど二人にとって、海外の軍事的緊張は遠い世界の話だった。


3.コンビニ店長

彩は、コンビニのレジを点検していた。


店内ではニュース番組が流れている。

「軍事的緊張の高まりを受け、原油価格や物流への影響が懸念されています」

アナウンサーがそう伝えていた。


彩は手を止め、少しだけ画面を見る。

店長になってから、値上げや物流のニュースには敏感になった。

商品の価格が変われば、客の買い方も変わる。

配送が遅れれば、棚に並べられる商品も変わる。


それでも、今のところ納品に問題はない。

店内の棚には、いつもと同じように商品が並んでいる。


彩は再びレジの点検に戻った。

明日の発注を間違えないことの方が、今は大切だった。


4.病院

高橋医師は、病院へ向かう車の中でラジオを聞いていた。


海外情勢。

軍事衝突の可能性。

経済制裁。

資源や物流への影響。

専門家たちが、さまざまな言葉で状況を説明している。


信号待ちの間、高橋医師は考えた。

もし物流が長く滞れば、薬や医療資材にも影響が出るかもしれない。

だが、それはまだ先の話だろう。


信号が青に変わった。

今日は外来患者が多い。

まずは、目の前の患者を診なければならない。


5.元歴史教師

佐藤は、退職して数年がたっていた。


朝のコーヒーを飲みながら新聞を開き、国際面の記事に目を止める。

軍事的緊張。

経済制裁。

資源問題。

どれも、初めて見る言葉ではなかった。

歴史教師だった頃、似たような記事を授業で扱ったこともある。


ときおり、生徒の中から次のような質問を受けることがあった。

「そのときの人たちは、戦争になると分かっていたんですか」


佐藤は、答えに迷った。

後から歴史を振り返れば、出来事の始まりに印をつけることができる。

しかし、その時代を生きていた人に、始まりが見えていたとは限らない。


人々は歴史の始まりを見ているのではない。

学校へ行き、仕事をし、買い物をする。

いつもの一日を過ごしている。


佐藤は新聞を折りたたんだ。

気にしすぎかもしれない。

そう思いながらも、記事の載った紙面を捨てずに取っておくことにした。


6.変わらない一日

その日の街も、平和に見えた。

学校では、いつも通り授業が行われた。

病院には患者が訪れ、コンビニの棚には商品が並んでいた。

電車もバスも、決められた時刻に走っていた。

夕方にはバラエティ番組が放送され、SNSでは芸能ニュースが話題になっていた。

朝のニュースは、たくさんある話題の一つとして流れていった。


7.未来の予定

夜。


美咲は、友達とメッセージを送り合っていた。

来月のイベント。

夏休みの予定。

次の学年のこと。

未来には、これから決めることがたくさんあった。


拓海と悠人は、それぞれの家から通話をつなぎ、一緒にゲームをしていた。

「旅行、北海道でいいだろ」

拓海が言った。

「だから寒いって」


「じゃあ沖縄」

「金がかかる」


「じゃあ、どこならいいんだよ」

「それを今から決めるんだろ」

画面の向こうで、悠人が笑った。


結局、その日も旅行先は決まらなかった。

けれど、急ぐ必要はなかった。

卒業まで、まだ時間がある。

旅行先を決める時間も、お金をためる時間もある。


第1話 おわり


次回予告

数週間後。

ガソリン価格が、少し上がった。

ただそれだけの変化だった。

けれど、その小さな値上がりは、人々の生活と未来の予定を少しずつ変えていく。

第2話『少し高くなっただけ』



いいなと思ったら応援しよう!

月凪(つきなぎ) ありがとうございます!

この記事が参加している募集