私はまず、“死なない方法”を考えた 🔥1
私は、念願だった自分だけの部屋で、一人暮らしを始めた。
ワクワクしていた。
ここには、私を理不尽に怒鳴る人はいない。
夢と希望に満ちていた
……はずだった。
ホームシックにはならなかった。
ホームシックになるほど実家に未練はなかった。
それでも、近くに知り合いは一人もいない。
友人はいたけれど、
この生活圏には、誰もいなかった。
完全に、ひとり。
一人暮らしは自由だ。
好きな時間に寝て、
好きなものを食べて、
誰にも干渉されない。
一旦は喜んだ。
ひとしきり喜んだあと、ふと襲ってきた恐怖。
――もし、ここで私が死んだら。
誰にも気づかれず、
この部屋で、
一人、腐っていくだけなんじゃないか。
まずい。
これは、かなりまずい。
見つけてもらえない。
そう思った瞬間、背中がぞわっとした。
だから決めた。
死なないように、生き延びる。
そのために、まず何をするか。
私はスーパーへ行った。
買ったのは、
無塩のトマトジュース、
納豆のパック、
豆腐。
それまでの私は、
肉が好きで、甘いものも好きだった。
でも、一人暮らしを始めた途端、
「好きなもの」より
「死なないもの」が優先になった。
毎日、
納豆、豆腐、トマトジュース。
お腹が空いたら、トマトジュース。
休みの日も、トマトジュース。
トマトジュースのお金は痛かったが、死ぬよりマシだった。
水の代わりに、トマトジュースを飲んだ。
おやつの代わりも、トマトジュースだった。
お金がなかったから、
肉はほとんど買えなかった。
たまに鶏の皮を買って、細かく刻み、
卵と一緒にどんぶりにして食べた。
とにかく毎日、
納豆、豆腐、トマトジュース。
生きるための食事だった。
でも、その時の私は、本気だった。
もともと私は、少しぽっちゃりしていた。
ところが、三か月も経たないうちに、体が変わり始めた。
体重は、三キロくらいしか減っていない。
それなのに、見た目はまるで別人だった。
肌はつるつるになり、
体は軽く、
顔のむくみは消え、
足は細くなった。
気づけば、
「シュッとした人」になっていた。
それは、狙って手に入れた変化じゃない。
私は、痩せたかったわけじゃない。
健康になりたかったわけでもない。
ただ、
生き延びたかった。
この部屋で、
誰にも気づかれずに、
腐って死ぬわけにはいかなかった。
仕事が始まると、
飲みに行ったり、外食することも増えた。
それでも、休みの日だけは、
必ず、納豆と豆腐とトマトジュースだった。
私は毎週、
トマトジュースと、納豆と、豆腐を買い続け、
その生活を、黙々と繰り返していた。
それは、
私なりの、生存戦略だった。
──────────
🫧この形の私

▶ 次の出来事へ(電源どこ?でプライドが崩れた日)
← この章の目次へ【社会の洗礼】
← この物語全体を読む【シリーズ一覧】
