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モチノさんと、ヤマダさん


モチノさんの対応。

私は基本的に、
一方的にきつく当たられる側だった。

でも、同じ会社の
ヤマダさんは少し違っていた。

────

ヤマダさんは、見た目の整った人だった。

目が大きく、スラリとしていて
全体の印象が柔らかい。

茶色の髪の毛をいつも横わけにしていて、髪の毛もサラサラだった。

見た目も"美人”に分類される人だったけれど、
何より、雰囲気が良かった。

話しかけやすい。
安心する。
なんとなく信頼できる。

そんな空気を自然に持っている人で、
社内の誰もが、気づけばヤマダさんを好いていた。


それは特別な恋愛感情というよりも、
「この人と一緒にいると楽だな」という種類の好意が多かったように思う。

それでも、同期の何人かから
「ヤマダさんて、彼氏いてるんかな?」
と聞かれた。

「本人に聞いてみたらいいと思うよ。
話しかけてみたらいいじゃん」

本当は彼氏がいるのを知っていたけれど、
私から言うのは違うだろうと、そう濁していた。

でも、周りから見ても、そうなんだね。

"私とヤマダさんは仲良し”

嬉しかった。
私は、ヤマダさんと仲良くできている自分を、
少し誇らしく思っていた。

そして同時に、素直に尊敬していた。

この人は、ちゃんと人と関われる人。
すごい人。

────

ただ、モチノさんの見ているヤマダさんは、
私のそれとは少し違っているように感じる瞬間があった。

ヤマダさんが
他の人と楽しそうに話しているとき。

モチノさんの周りの空気が少し変わる。

言葉にするのは難しいけれど、
一瞬だけ、張りつめるような空気になる。

そんなふうに見えていた。

─────

――ある日のことだった。

ヤマダさんが、モチノさんに書類を持ってきた。

その途中で、部長に呼び止められる。

「ヤマダさん、この件やけど」

「はい、はい、分かりました。やっておきますね」

書類を受け取り、笑顔で応対するヤマダさん。

「そういえば、この間タナカさんに会ったで。
ヤマダさんに会いたがってたわ」

「えー!そうなんですね!嬉しいー!
私も会いたいです」

ほんの、1、2分のやり取り。

でも、その場の空気は柔らかくて、
見ているこっちまで少し明るくなるような感じだった。

――やっぱり、人気者だな。

そう思った。

わかる。
だって、ヤマダさんだから。

なぜか少し、誇らしい気持ちにもなった。

やり取りを終えて、ヤマダさんはモチノさんの席へ向かう。

「モチノさん、これ書類です。お願いします」

いつも通り、にこやかに差し出す。

そのときだった。

「なんやねん、忙しいねん!そんなん、適当に置いといたらいいやろ!!」

思わず、振り向いた。

――は?

なんで、そんな言い方するの。
なぜか、私がイラッとした。

けれど。

ヤマダさんは、一瞬だけ間を置いて、
表情を変えずにこう言った。

「分かりました。ここに置きますね」

山積みの机の、空いている場所に、
そっと書類を置く。

そのまま、「お疲れ様です」と周りに声をかけながら、
何事もなかったかのように自分の席に戻っていった。

普通に仕事を再開している。

――すごい。

私は、言葉を失った。

モチノさんの態度と、
ヤマダさんの振る舞い。

まったく違う二つのものに、
同時に衝撃を受けた。

─────

その日の仕事帰り。
早く帰れたので、
ヤマダさんとご飯を食べに行った。

「ヤマダさん、今日のモチノさん、
すごかったですね。私ビックリしましたよ」

「忙しいねん!て、なんですかあれ。
みんな忙しいわって思いますよ」

私が言うと、ヤマダさんは笑って言った。

「ほんま子どもみたいやな」

そこには、私が想像したような空気はなかった。

「子供やねんな」

そう言うヤマダさんには、苦しさとか、
怒りは感じられなかった。

すごいな。
怒らないし、落ち込まないんだ。

「腹は、立たないんですか?」

私が聞くと、
ヤマダさんはいつもの笑顔で言った。

「腹立つで。
なんやこいつって思うわ。
怒ってんでぇ」

そう言って、ヤマダさんは笑った。

こういうの、いいな。
ヤマダさんって、やっぱりいいな。

そこには、99%の尊敬と、
ほんの少し、
1%の羨ましさが含まれていた。

──────────
🫧この形の私

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