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そういえば、今日は金曜日だった。

翌日は休みだと知って、少しだけ肩の力が抜けた。

ケーキを食べ終えたあと、
ヤマダさんが何気ない声で言った。

「なあ、みのりさん。
うち、来る?」

一瞬、意味が分からなかった。

「今日な、
“みのりさん来るかも”って言ったら、
お母さんがご飯作って待ってるねん」

そう言って、笑った。

「泊まっていってもええしな」

「疲れてるやろうし、
家でゆっくりしたかったら大丈夫やで」

その言葉は、あまりにも自然だった。

胸の奥がじんわりと温かくなる。

「……いいんですか?」

私が言うと、ヤマダさんは、ニコッと笑った。

「当たり前やん」

────

私は一度、自分の家に戻り、

着替えだけを持って、
泣きはらした顔のまま電車に乗った。

時間は20時半。

本当に私が行ってもいいのかな。
こんな時間に、突然行ったら迷惑では…?

持ってきた荷物をぎゅっと握りしめる。

泣き腫らした目。

メイクも取れてほぼすっぴん。

少し怖かった。

20分、電車に揺られて、
ヤマダさんの家のある駅に着いた。

────

改札の先で、ヤマダさんが手を振る。

「こっちやで」

駅から少し歩く。

静かな住宅街の角に、ヤマダ家はあった。

暖かいオレンジの光が玄関を包んでいた。

ヤマダさんが、玄関の扉を開ける。
「ただいま。お母さーん、みのりさん来たで」

私も続けて入る。
「……お邪魔します」
緊張で手が冷たくなるのを感じた。

「はぁーい!」
奥から、元気な声がした。

廊下の先から歩いてくるスリッパの音。

そして、お母さんがぱっと明るい顔で現れた。

「いらっしゃい!待ってたで」

「あんたがみのりさんか!」

「この子から話は聞いてるわ。
ずっと会いたい思っててんで。
来てくれて、ほんま嬉しいわ」

お母さんは、私の手をぎゅっと握った。
その手は、温かかった。

涙が出そうになった。

私は何も言えなかった。

────

「今日はな、たこ焼きや。
家でたこ焼き、せえへんやろ?
一緒に食べよ。
ビールもあるで」

「手、洗っておいで」
そう言いながら廊下を歩いていく。

ヤマダさんが笑って私に囁いた。

「お母さん、こんな感じやから、
気ぃ使わんでええで」

────

居間に通されると、
こたつにお父さんが座っていた。

「こんばんは」と言うと、
「こんばんは。いらっしゃい」
それだけ、穏やかに返してくれた。

多くを語らない人だったけれど、
缶ビールを開けて、
一緒に乾杯した。

それで、充分だった。

ほんの数十分前まで、
私はひとりで、
世界から切り離された場所にいた。

それなのに、
ここでは誰も、何も聞かない。

泣きはらした目にも触れない。

まるで、
昨日も、その前の日も、
私がここにいたかのように。

当たり前のように、
笑顔で迎えてくれる。

こんな家が、
こんな人たちが、
この世界にあるなんて。

信じられなかった。

たこ焼きを囲んで、
何気ない話をして、
笑って、
缶ビールを飲んだ。

たこ焼きの湯気の向こうで、
お母さんとヤマダさんの笑い声が続いていた。

いつの間にか、私も、ぎこちない顔で
笑っていた。

「いていいのかな」
不思議なことに、いつも通り過ぎるその感覚は、
この家の中では、一度も現れることはなかった。

──────────
🫧この形の私

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