おってもおらんでも一緒やろ 🔥4
「佐藤、しっかりしろよー」
今日もまた、
課長からいつものセリフを言われる。
息苦しい。
やらなきゃ。
私もいつものように揺れていた。
プープー
内線が鳴る。
30番。
モチノさんだ。
「はい、佐藤で…」
「今すぐ来い!!」
ブツッと音がして、電話が切れた。
「すみません、課長」
「ああ、いつものやろ、行ってこい」
私はノロノロとエレベーターのボタンを押す。
いつもの流れだった。
モチノさんのフロアは4階だった。
「これ、9階な」
モチノさんが指さす先には、1箱のコピー用紙。
「台車はありますか」
「そんなん要らんやろ、
はよ持って上がって。忙しいねん」
え、これを9階まで?
私はスカートスーツのまま、箱を持ち上げる。
ズンっと指に痛みが加わる。
重い。
「いいよ、俺が持って上がるから」
そこにいた別部署の部長が言った。
「そんな甘やかしたらあかん」
モチノさんは不機嫌そうに言った。
────
お弁当が貧乏くさい。
どんくさい。
モチノさんから出てくる言葉。
なんで私にだけ言うの。
そう思っていたけれど、
それにどう対処すればいいのかは
分からなかった。
ある時は、ヘラヘラとその場をかわした。
ある時は、無表情で黙っていた。
怒っている顔は、怖くて出せなかった。
どうすれば相手を怒らせずに済むんだろう。
私の頑張りが足りないのかな。
私は毎日、小さく縮こまっていた。
「ほんま、足らんねんな。
せやから仕事もあれやろ」
それは折に触れて挟まれる言葉だった。
痛かった。
私は、致命的に仕事ができなかった。
どんくさくて、覚えも悪くて、
狂いそうになりながら、
それでも必死にメモを取り、教えを乞う。
毎日戦っていた。
────
同じチームの人たちは、
穏やかでいい人ばかりだった。
特に、40代の独身男性がひとりいて、
熊のように丸く、いつも大きな声で笑う人だった。
その人は、クマノさんという名前だった。
気が合って、よく二人で飲みに行った。
恋愛感情はお互いに何もなかった。
私は飲みに行くたびに、クマノさんに
愚痴を吐きまくった。
「あれはあかんよな。まあええわ、聞いたるわ。」
そんなふうに笑ってくれた。
スナックに行って、大騒ぎすることもあった。
彼は、私が落ち込んでいるかどうかはあまり気にしない人だった。
自分が飲みに行きたければ誘う。
他の人たちとの集まりにも、「来る?」と声をかけてくれる。
そういう人だった。
独身だからと、よく奢ってくれた。
私は
「お財布に優しくてありがたいです」
と言い、
彼は
「俺はATMか?」
と言いながら、大笑いしていた。
モチノさんに辛く当たられていることは、
恐らくみんなわかっていた。
それでも、変わらず接してくれる人達が
救いだった。
────
ヤマダさんと後輩とも、よく一緒に過ごした。
仕事帰りにカフェに寄り、
二時間、三時間、
コーヒーだけでモチノさんの愚痴を吐き合った。
あるとき後輩が、煙草を吹かしながら言った。
「みのりさん、あれは人間じゃないですよ。
“ モチノ”っていう別の生き物なんです。
そうじゃないと説明がつかないです」
もう、ただの悪口大会だった。
それでも、三人でお腹が痛くなるほど笑った。
そうでなければやってられなかった。
そんな小さな支えにしがみつく。
何とか踏ん張っていた。
────
当時、私の部署は9階。
モチノさんのいる総務は、4階。
フロアが違うだけで、
ずいぶん救われていたことに、
私は後から気づく。
その年の4月。
なぜか私たちのチームが、
「4階が空いているから」という理由で、
モチノさんのいるフロアに移動することになった。
詳しい経緯は分からない。
ただ、とてつもなく嫌だった。
けれど、私に抗う権利はなかった。
腹をくくって移動した。
そこからが、私の地獄の始まりだった。
モチノさんは、終始機嫌が悪く、
私に当たり散らした。
開発がどれだけ忙しくても関係なく呼びつける。
「どうせあんた仕事できへんねんから、
おってもおらんでも一緒やろ」
そんなことを、みんなの前で平気で言った。
周囲は困った顔をするだけで、
私を助けてくれることはなかった。
そして、半年後。
決定的な事件が起こる。
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🫧この形の私

