見出し画像

モチノさんが残したもの

モチノさんは、決して優しい存在ではなかった。

大きな声で威圧したり、
私を下に見るような発言も多かった。

ただ、それだけではなかった。

────

「こんな高級なお菓子食べられへんやろ」
そう言って、デパートの高級お菓子を
差し入れしてくれることもあった。

それを見たヤマダさんは
「イヤミやなぁ」
と言っていたけれど、素直にお菓子は美味しかった。

姉御肌のような一面も、確かに持っていた。

一緒に働いた数年間。
電話の取り方、客対応、お茶の淹れ方、
掃除の仕方――。

モチノさんが私に言ったことの中には、
「あなたはできてるの?」と感じるものも多かった。

確かに行動は伴っていなかった。

けれど、「お前は常識がないねん」と言いながら
叩き込まれた彼女なりの“ノウハウ”は、
今の私の生活を支えてくれている。

役に立つことも、確かにあったのだ。

────

電話は2コール以内に取れ。

語先後礼。

お茶の淹れ方。


洗濯物は、脱水してすぐにアイロンをかけた方が
綺麗にできる。

布巾を洗う時は、ポットのお湯をタライに入れて
ハイターと洗剤を少し入れると早く綺麗になる。

お風呂入ったついでに、タイルを磨けば楽。

────

モチノさんは、私にとって味方ではなかった。
潰された部分も、確かにあった。

それでも、敵だったとも言い切れない。

あの人に出会ったことで、
私が得たものも、きっとあったのだと思っている。

──────────
🫧この形の私

▶  次の出来事へ(焼肉将軍)

←  この章の目次へ【社会の洗礼】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!