「もう二度と会わないと思うけど」が残った日 🔥3
仕事を辞める日の2週間前。
モチノさんに誘われ、飲み会に参加した。
それは、私の送別会と銘打たれた、ただの飲み会だった。
他部署の人も多くおり、ヤマダさんも参加していた。
少し気後れしたけれど、もう辞めるんだしいいか。
私は出席することにした。
そこはビアガーデンだった。
生ビールで乾杯した。
その日は少し蒸し暑い日で、人生で初めて
生ビールを美味しいと思った日だった。
「うわぁ、生ビールって美味しいですね!」
私が言うと、クマノさんは大きな声で笑った。
「うまいやろ!仕事終わりの生は最高やで」
その日そこにはたくさんの人がいて、私は気後れしながらも必死に話をしていた。
怖かったけど、最後だと思って頑張った。
「辞めるんだって?」
色んな人が話しかけてくれて、
なんとなく気にかけて貰えた気がした。
それが嬉しかった。
─────
ビアガーデンがお開きになった後。
店を出たところで、
他部署の男性に声をかけられた。
ムラタさん。
顔を知っている程度。
仕事での繋がりは、ほぼなかった。
ヤマダさんの部署の営業の人だった。
いつも明るくて、ヤマダさんとよく大笑いしてるのを見たことがある。
私とは、挨拶程度の人だった。
「辞めるんやって?いつまでなん」
「今月いっぱいです。地元に帰ろうと思ってまして」
「そうなんや」
こんな間柄でも、声をかけてくれる。
いい人だな、と思った。
少し間があいて、ムラタさんは
軽く笑って言った。
「まぁ頑張って。もう二度と会わないと思うけど」
息が止まった。
意味を探す前に、体のほうが固まった。
「…あ、はい」
それだけをなんとか返した。
「ほな、おつかれー」
その人はもう他の人と笑いながら、
駅のほうへ歩いていった。
─────
あの人、軽い人じゃん。
そんなに親しくもないんだし。
確かに、もう会うこともないのかも。
深い意味はないのかもしれない。
何度も自分に言い聞かせる。
でも一度刺さったものは、
理由では抜けなかった。
「もう二度と会わないと思うけど」
頭の中でリピートされる。
─────
「お疲れ様でした!ありがとうございました!」
そこにいた人たちに、満面の笑みで手を振る。
手を振ってもいいのかな。
なんか、申し訳ないな。
そう思った瞬間、怖くなる。
手を振り返してくれる人達の顔。
大丈夫だったかな。
私は、ここにいて良かったのかな。
そんな、いつもの不安が頭をもたげてくる。
いいわけないか。
私が仕事辞めるくらいで
誰か気にかけたり、するんだろうか。
勘違いしちゃダメ。
奥の方で声がする。
それは、誰かでも、私自身でもなく、
昔から私の中にいる声だったのかもしれない。
黙って下を向き、駅に向かって歩き出す。
黒いアスファルトを踏みしめる。
歩く速度を上げる。
そうなのかもしれない。
「私、仕事できなかったし」
「モチノさんとうまくやれなかったし」
理由がどんどん出てくる。
「もう会わない」
駅に着く頃には、
その言葉は、さっきより重く
私の心に貼り付いてしまっていた。
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🫧この形の私

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