暇な職場で、勝手に燃えていた
私は、接客の仕事に就いた。
それまでとは、まったく違う職種だった。
選んだ理由は
「なんとなく」と、
「制服が可愛かった」
それだけだった。
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初出勤の日、会社に行く。
学生のようなブレザーの制服を渡された。
その制服を着て、私は売り場に立った。
頭にアヒルのおもちゃのついたボールペンを
ポケットに差し込む。
「よし、これで完璧」
入社祝いに、自分に買っておいた
ご褒美のボールペン。
文具コーナーで2時間もかけて選んだ。
このアヒルをさした私、最高。
かわいい。
私は、誰もいない更衣室のロッカーで
胸ポケットのアヒルを見てにやにやした。
それが、私の初出勤だった。
─────
「…いらっしゃいませぇ」
人とすれ違う度に言うように言われ、
練習する。
恥ずかしい。
なに、いらっしゃいませって。
下手な挨拶。
言う度に、笑ってしまう。
売り場で、誰にもみられないように
ひとりでニヤニヤしていた。
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私が入った頃は閑散期だった。
お客さんは少なかった。
勤務時間は毎日、朝9時から夕方6時まで。
しかも、定休日にはちゃんと休みがある。
毎日定時に帰れる。
衝撃を受けた。
これまでの仕事は、終電が当たり前、
下手するとタクシーで帰る羽目になっていた。
夢みたい。
初めは、喜んだ。
けれど、徐々にそれは"退屈”へと姿を変えた。
お客さんが来ない時間は、
やることがほとんどない。
暇だった。
遊んでいるのに、お金をもらっているような、
変な罪悪感があった。
私は働きたかった。
けれど、その職場は、
張り切りすぎなくていい空気だった。
「ちょっと休憩室でお茶でも飲んできたら?」
「あ、ありがとうございます」
笑顔でそう言うと、
休憩室に行き、お茶を飲む。
椅子に座って、机の上のお茶を眺める。
ありがたい。
けど。
こんなことしてて、いいのかな。
なにかしたいな。
他の人に声をかけてみる。
「あの、何かやることはないでしょうか」
すると、その人はにっこり笑って言った。
「何もしなくて大丈夫よ」
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3日後。
唯一、「覚えてね」と言われたのが
商品の袋詰めだった。
私は朝から晩まで、
袋詰めの練習をしていた。
「やる気あるね」
「すごいね」
他の人たちからいわれた。
少し嫌味が混じったような言い方だったけれど、
そんなことはどうでも良かった。
他の人たちは、暇な時間に
「恋バナ」で盛り上がっていた。
不思議だった。
仕事って、こういうものだったっけ。
私には、その空気の方が分からなかった。
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このままだと、
私、腐りそう。
私は、黙々と袋詰めの練習をした。
手早く、お客さんが持った時に持ちやすく、
できるだけ小さい袋に入れる方法。
袋の単価を教えてもらい、
どの袋にどう入れれば
コストが抑えられるかも考えた。
それだけで、楽しくなった。
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しばらくして、副店長に言われた。
「担当の棚を持ってみる?」
入社1か月ちょっとの頃だった。
私は大喜びした。
与えられたのは、
売れていない、どうでもいい、一番奥の棚。
ワゴンの中に、乱雑に色んな物が置かれている。
「ありがとうございます!」
それで十分だった。
別に何かを成し遂げたいわけじゃない。
ただ、自分の役割が欲しかった。
まずは、調べよう。
家に帰り、インターネットで検索する。
棚の配置の仕方。
POPの作り方。
店の中の1番奥にある、ワゴン。
私はその目立たない棚を、一生懸命整理した。
どう配置したら手に取りやすいか。
これは何に使う商品なのか。
いくつか商品をレジに持って行き、
接客の合間に必死に考え続けた。
ワゴンの中に、カゴを配置し、
いらないダンボールを小さく切って箱を作り、
段差をつけた。
ピックアップしたいくつかの商品に、説明を添えた。
毎日、袋詰めをしながら、それだけを繰り返した。
今度の繁忙期に、在庫を半分にしてやる。
私はメラメラと燃えていた。
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3ヶ月が経った頃、人事から通達があった。
「2月から異動してください」
あと少しで、結果が見れたのに。
私は残念でならなかった。
せっかく、楽しくなってきたところだった。
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🫧この形の私

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