結婚前夜、母のことば 🔥1
結婚前日の夜。
母が言った。
「何でも好きなものを作ってあげる。
何が食べたい?」
母の料理は、決して種類が多いわけではなかった。
けれど、幼い頃から食べ慣れたその味は、
私にとって「母の味」であり、
「家の味」であり、
何より心が緩む癒しのごはんだった。
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大好物の親子丼とシチューで迷った末、
私はシチューを選んだ。
クリスマスに出てくる、あのシチュー。
白菜の沢山入ったあのシチューが、
私は大好きだった。
母はシチューを作り、家族は食卓を囲んだ。
その日は、結婚式に出席するため、
父と母、そして二人の妹も家に揃っていた。
妹と昔の写真を引っ張り出して笑い転げた。
「この時、寒かったよね」
「あ、これ旅行じゃない?
倒れたら負けゲームしてた!」
「ももちゃん、半目だこれ」
そして、姉妹で昔見たアニメのビデオを再生し、
どうでもいい話を延々とした。
父も、母も、妹たちも笑っていた。
私も笑っていた。
それは、今まで体験したことのないほど、
穏やかで、温かい時間だった。
まるで、ホームドラマのワンシーンのようだった。
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食事を終え、私は自分の部屋へ向かった。
といっても、すでに荷物のほとんどは
運び終えている。
部屋に残っていたのは、布団と、
少しの服が入ったカバンだけだった。
私は、両親への手紙を書いていた。
「泣かせないと」
そう思いながら、何度も書き直していた。
「みのり、少しいい?」
そう言って、母が部屋に入ってきた。
私は慌てて手紙を隠した。
「なに?」
「結婚する前に言っておきたいことがあって」
「向こうの家を大事にしなさい。
こっちの家族ことは気にしなくていいから。
それがうまくいくコツよ」
「そうなんだ」
向こうの家を大事にするってどういうことだろう。
私は、言葉の意味を
深く理解したわけではなかった。
「わかった」
とりあえず、それだけ答えた。
もともと実家にべったりするつもりもなかった。
そういう文化で育ってきたわけでもない。
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その日。
出かける時は、絶対雨が降らない。
2人のジンクス通りの晴天だった。
青い花に囲まれ、
青いドレスを身に纏い、
白いバラのブーケを持つ。
隣には白い服で
笑う、基くん。
友人たちの、笑顔の祝福。
「すごく楽しい式だった」
「来れてよかった」
私は、笑っていた。
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この日、基くんは私の夫になった。
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そして、式の終わり。
基くんと私は、出口で参列者を見送る。
「来てくれてありがとう」
「また遊ぼ」
そして、カゴに入れた
ハート型のクッキーを渡す。
夫がほぼひとりで一生懸命焼いたクッキー。
そのうちの“成功作”だけを配った。
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「向こうの家を最優先にしなさい」
その言葉の意味を、
はっきりと理解したわけではなかった。
けれど、私の頭の片隅にひっそりと貼り付いた。
未来の私は、この言葉の重さを知ることになる。
その時の私は、まだ何も知らなかった――。
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🫧この形の私

