見出し画像

また、私だけ 🔥4

妹が結婚した。
父と母は、家の中に2人きりになった。

そんなある日のことだった。

「みのり、明日ご飯行かない?」
母からの連絡。

「いいよ、行こう」
私はすぐに返信した。

─────

「ほんと、お父さんは意味がわからない」

母の口から滑り出すいつもの話。

私は、フォークでパスタをすくいながら
相づちを打つ。

「そっか、相変わらずだね」

あのお父さんと二人きりなんて。

想像しただけで苦しかった。

─────

「お母さん、家を出る気はないの?」

母は顔を曇らせた。

「みのりもれいちゃんも結婚したでしょ。
ももちゃんが結婚するまでは、ここにいないと」

「どうして?」

「娘全員が結婚するまでは離婚できないの。
片親だと結婚で苦労するから」

「でも、お母さんが心配だよ」

母は首を横に振った。

「みのりには分からないでしょ。
お母さんになってないんだから。
これは、ももちゃんのため」

母の言葉に、私は口を噤んだ。

ももちゃんがそう頼んだの?
お母さんが苦しんでまで、
それは守るべきことなの?

そう思い、母を見る。

母は少し悲しそうな顔をしているように見えた。

私は、それ以上何も言えなかった。

─────

「そういえば、お父さん、
やっぱり最低な人だね」

母は、何事も無かったように次の話をする。

「れいちゃんが結婚するとき、
旦那さんを無視したり、ほんとに酷かったのよ」

「ああ、れいちゃんからも少しだけ聞いてる」
「ほんと、父親としても、人としても最低」

私は下を向いて、フォークにパスタを絡めた。
力が入る。

麺が切れた。

「お父さんは結婚式のお金、全然出さないのよ。
だから、れいちゃんのアルバム代だけは
お母さんが出したの」

パスタを絡めたフォークが、
カツンと止まった。

─────

「私、結婚する」

れいちゃんがそう言った時、
彼女はお金をほとんど持っていなかった。

「向こうの親が出してくれるの」

その言葉に、私は
「そうなんだ、良かったね」とだけ返した。

その時は、特に何も感じなかった。

────

「向こうの親が出すのに、こちらが
1円も出さないわけにはいかないでしょう」

ああ。

そうなの。

私が結婚する時。

「お父さんのご飯を作って欲しい」
「家にお金を入れるのは、当たり前だろう」
「妹から祝儀は貰うなよ」

私は、何年も仕事とバイトをかけ持ちした。
深夜、夜道を自動車で帰る。

頭の中は、
「あと、いくら足りない」
「あと、何年」

そればかりだった。

────

れいちゃんには、「出してくれる人」がいた。

その言葉は、私にもお金を出して欲しいという
意味ではなかった。

けれど、それを言葉にした瞬間、
母の耳には、ただの「嫉妬」として
受け取られる気がした。

水をひと口飲む。
冷めたパスタを、また口に運ぶ。

母の口は、こちらに向かい動いていた。

でも、何を言っているのか、
もう私の耳に入ってこなかった。

ああ。

この人は、
“出せなかった”んじゃない。

私には、
“出さなかった”んだ。


また、

私にだけ。

──────────
🫧この形の私

▶  次の出来事へ(当たり前)

←  この章の目次へ【揺れる絆】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!