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止まっても崩れなかった時間

◎布団のスマキと、動かなくていい夜【考察】

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これは、大人になった私が
あの頃の出来事を振り返り、読み解く話です。

▷  この話の元になった本編を読む
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彼の前にいる時の私は、少し違っていた。

でも、その違いは、
頑張って変えたものではなかった。

自然に起きていた。

──────

彼の家に行くと、
私は服も着替えず布団に潜った。

疲れた。
眠い。
動きたくない。

そんなことを普通に言って、
そのまま出てこない。

布団で巻かれて、
ぐしゃぐしゃになって、
笑っていた。

今思うと、
あれは少し不思議な時間だった。

私は昔から、
何かしていないと落ち着かなかった。

役に立たないと。
ちゃんとしていないと。
頑張らないと。

苦しくても、
走り続ける方を選んできた。

気づけば、それは
考える前に動くようなものになっていた。

私にとっての自動運転だった。

──────

けれど、彼の前では、
その動きが少し静かだった。

眠いなら寝る。
疲れたら転がる。
落ち込んだら話す。

そんな当たり前のことが、
なぜか成立していた。

彼は優しすぎる人ではなかった。

深刻になりすぎず、
少し笑って、
少し放っておく。

私が悩むと笑って、
私はつられて笑った。

そのうち、
さっきまで抱えていたものが、
少し軽くなっていた。

────

今思うと、
彼そのものが特別だったというより、

あの時の私は、
彼の前では止まっても大丈夫だと
感じていたのかもしれない。

頑張らなくても、
役に立たなくても、
少し動かなくても、
急に何かを失う感じがしなかった。

私は長い間、
頑張ることで生き延びてきた。

無理をして、
走り続けて、
自分を守ってきた。

"頑張ること”は必要だった。
あれがなければ、
もっと生きることは難しかったと思う。

だから、
頑張る自分が間違いだったとは思わない。

ただ、
あの布団の中にいた私は、
それとは少し違っていた。

何かを証明しなくてもいい。

眠ければ寝て、
動きたくなければ動かない。

それでも、
消えそうな感じがしなかった。

────

あの時間は続かなかった。

私はまた走り始める。

形を変えながら、
別の場所で。

だから、
あの時間を、
答えだったとは思っていない。

ただ、
私の中には、
止まっても崩れない時間が
確かに存在していた。

もしかしたら私は、
それだけ長い間、
無意識に緊張していたのかもしれない。

そして本当は、
安心して、
少し緩みたかったのかもしれない。

あの時だけは、
動かなくても、
そこにいてよかった。

それが、
私にとっての静かな例外だった。

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