見出し画像

息をしてはいけない家で、私は生きていた 🔥5

いつから息を止めて生きるようになったのだろう。

私は家の中で深く呼吸をすることが怖かった。

胸いっぱいに空気を入れると、存在が膨らんでしまう気がした。

膨らんだら、見つかる。
見つかったら、何かが起きる。

だから、浅く。
小さく。

気づかれないように呼吸する。

足音も、声も、笑いも、
全部、小さくする。

私は縮んでいった。

物理的にではなく、輪郭が。
存在の濃度が、薄くなっていった。

誰にも触れられないくらい、
薄くなれたら楽なのにと、本気で思っていた。
消えられたら。

誰も嫌な気持ちにならずに済むのに。


でも皮膚は消えない。
体は消えない。

存在している自分が、憎かった。

――

家の中での私の動きは、すべて計算だった。

何時に父が帰ってくるか。
今はリビングにいるのか。
階段を上がる音はしないか。

頭の中で常に時間と位置を照合しながら、
体を動かしていた。


生活は、常に「回避」だった。

怒られないように。
見つからないように。
刺激しないように。

妹たちは、普通に歩いていた。
普通に笑い、普通に水を出し、
普通にドアを開け閉めする。

どうして私は、こんなにも静かに生きなければならないのだろう。

私の目からはいつの間にか光が消えた。

──────────
🫧この形の私

▶ ︎  次の出来事へ(妹たちには優しい父の姿🔥5🔴

←  この章の目次へ【崩壊|逆襲】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!