【書籍】「銀河ヒッチハイク・ガイド」ダグラス・アダムス
書籍記事って、感銘を受けた本に偏りがちで「肩の力を抜いてさらーっと読めて、くだらなくて面白い」みたいなもんは取り上げてこなかった気がしますので、たまにはこういうのも紹介します。SF小説なのに、宇宙船よりもイギリス人の皮肉が飛び交い、銀河系の危機よりも「お茶が飲みたい」が重要視されるお話です。ナンセンスコメディの類なんですが、やたらと愛されているのですよ、この小説。イギリス人って、くだらないもんを面白がるんだなぁ(共感)
この本は「人生について考えすぎるとろくなことにならない」という哲学の代表作ですね。このくだらない小説が、世界中の人から愛されてやまないのが実に面白い。
ダグラス・アダムス
ダグラス・アダムスはイギリスの作家さんです。ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで英文学を学び、1974年に卒業しています。学生時代からコメディを書き、後にモンティ・パイソンとも仕事をするようになります。まあ、モンティ・パイソンって時点で「あああ、おふざけやってんな」ってなりますよね。日本で言うと何だろう、近いポジションで言うとドリフターズかな?でも、もうちょいブラックだしなぁ…
で、1978年、BBC Radioで放送されたラジオドラマとして始まったのが「The Hitchhiker's Guide to the Galaxy」でした。普通なら、小説が人気出てからラジオドラマ化って流れだと思うのですが、「銀河ヒッチハイク・ガイド」は逆。ラジオドラマとしてスタートして、それが小説になった作品です。その後「銀河ヒッチハイク・ガイド」「宇宙の果てのレストラン」「宇宙クリケット大戦争」「さようなら、いままで魚をありがとう」「ほとんど無害」というシリーズへ発展したそうな。まあ、私はこれしか読んでいないけど。ちなみに、アダムス自身は2001年に49歳で亡くなっています。あまりにも早い死だなぁ…
小ネタ集
これ、このくだらなさが愛されまくってて、古今東西色んな方がネタに使っています。みんな「バカ小説」好きなんやなぁ。まあ、私も大好きなので「うんうん、わかるで」ってなるんですけどね。「銀河ヒッチハイク・ガイド」は、どこまで現実世界を侵食したのかを確認。
てか、小説ネタでソース掘る事になるとは思わなかった。
radiohead
この作品には、マーヴィンというロボットが登場します。マーヴィンはものすごく高性能なのに、ものすごく鬱メンタリティ正式名称は「マーヴィン・ザ・パラノイド・アンドロイド」。ここでピンときましたね?
彼の名前をそのまま借りたのが、radioheadの「Paranoid Android」です。で、この曲が収録されているアルバムが、あの「OK Computer」です。「銀河ヒッチハイク・ガイド」を読んでから「OK Computer」を聴くと、ちょっと見え方が変わるかも。「Paranoid Android」のあの不穏で神経質な空気も、マーヴィンを知っていると妙に納得できる。
Coldplay
Coldplayのアルバム「Viva la Vida or Death and All His Friends」に、ずばり「42」という曲があります。これはこの小説に登場する「万物の答え」の数字ですね。ネタに使われ過ぎw
タイトルについてクリス・マーティンは「銀河ヒッチハイク・ガイド」との関係を聞かれて「It is and it isn't.(そうとも言えるし、そうとも言えない)」という、なんとも「銀河ヒッチハイク・ガイド」らしい回答をしています。
Level 42
イギリスのジャズ・ファンク/ポップバンドの Level 42 も名前の由来が「銀河ヒッチハイク・ガイド」です。「42」という数字そのものがバンド名になってしまったバンド。
イーロン・マスク
2018年、SpaceXのFalcon Heavyの初打ち上げで、イーロン・マスクのTesla Roadsterが宇宙へ送り出されました。その車には「DON'T PANIC」の表示があり、さらに車内には「銀河ヒッチハイク・ガイド」が積まれていました。このネタだらけのアホ小説が本当に宇宙へ行ったわけです。イーロンはこの小説のガチファンらしいです。ここまでやられたら、ダグラス・アダムスも笑うよねw
物語(ネタバレあり)
主人公はアーサー・デント。ある朝起きたら、自宅が取り壊されることになっていました。理由は、道路を建設するためです。「聞いてないぞ!」と抗議しますが、役所側は「ちゃんと書類は出してあります。あなたが見ていないだけです」という、割と腹の立つ回答。宇宙規模のSFが始まるというのに、最初の敵が地域行政。アーサーが道路予定地に寝転がって抵抗しているところへ、親友のフォード・プリーフェクトが現れます。フォードは実は宇宙人。「銀河ヒッチハイク・ガイド」の調査員として地球に滞在していたのでした。
そしてフォードは「地球がもうすぐ消滅する」と告げます。理由は、銀河系を横断する超空間バイパス建設の邪魔になるから。アーサーの家が取り壊されるのと、地球そのものが取り壊されるのは、スケールが違うだけで同じ理由なのです。宇宙規模の文明でも、だいたい役所と同じです。
やって来たのはヴォゴン人。銀河系の官僚的な種族です。彼らは地球を爆破する前に、「建設計画は事前に公開されていた」と説明します。問題は、その計画書が地球から遠く離れた惑星の役所に置かれていたこと。「閲覧できるようにしておきました」という建前だけは成立している。そして地球は、あっさり爆破されます。人類、終了。
……と思ったら、フォードがアーサーを救出。ここから彼の「銀河ヒッチハイク」が始まります。二人が乗り込んだのは、銀河でも珍しい宇宙船「ハート・オブ・ゴールド号」です。仲間として宇宙人のトリリアンが乗っています。実はトリリアンは、アーサーが地球で出会った女性「トリシア・マクミラン」で、以前デートに誘って振られた相手。しかし、地球はもうありません。デートする場所もない。恋愛関係の再構築どころではありません。
ハート・オブ・ゴールド号には、無限不可能性ドライブという、とんでもない装置が搭載されています。大雑把に言えば「ものすごくありそうもないことを、ものすごくありそうにしてしまう装置」です。なんやねん、それ。私もよく分かりません。とにかく、この装置によって宇宙船はありえない確率を突破して、ありえない場所へ移動できる。ついでに乗員や周囲の物体まで突然おかしなものに変わったりする。理系の人が聞いたら頭を抱えるかガチ切れしそうなシステムです。そして登場するのが、バベル・フィッシュという小さな魚。耳に入れておくと宇宙中の言語を翻訳してくれます。便利すぎます。ところが、この魚の存在によって「バベル・フィッシュが存在するなら、神の存在を否定できる」という宇宙規模の神学論争まで発生します。翻訳魚ひとつで神学論争。この作品、やっぱ頭おかしい。
宇宙を旅するアーサーたちはヴォゴン人に捕まり、ヴォゴン詩を聞かされます。銀河系でも最低ランクの詩で、本人たちは芸術だと思っていますが、聞かされる側にとっては猛烈な苦痛。ヴォゴン詩を読まされることは、宇宙における拷問の一種になっています。そこもまあ、あっさり脱出。
アーサーたちはマグラシアという惑星へ向かいます。ここはかつて、惑星をオーダーメイドで製造していた場所。そして、地球も実はここで作られた惑星でした。そこで登場するのが、巨大コンピューターディープ・ソート。はるか昔、超知的生命体たちは「生命、宇宙、そして万物についての究極の問い」の答えを知るため、ディープ・ソートを作りました。そして750万年かけて計算した結果、ついに出た答えが「42」でした。当然「42って何?」となります。ところがディープ・ソート自身も、「答えは分かっているが、その答えに対応する究極の問いは分からない」と言います。そこで今度は、究極の問いそのものを計算するためのコンピューターが作られることに。それこそが地球。地球は巨大なコンピューターであり、人間たちはその中で暮らすプログラムのようなものだったのです。そして地球を作った超知的生命体は、なんと地球上ではネズミとして暮らしていました。
人類、自分たちが一番賢いと思っていたのに、ネズミに負けていました。ところが悲劇が起きます。地球という巨大コンピューターは、一千万年かけて究極の問いを計算していました。あと5分で答えが出る、その直前にヴォゴン人が地球を爆破。理由は道路を作るから。人類は一千万年分の計算結果を失いました。壮大すぎる損失です。そこでネズミたちは、地球に最後まで残っていたアーサーの脳に「究極の問い」の情報が残っているのではないかと考えます。そして「脳をください」「嫌です」「では買います」「もっと嫌です」という、宇宙史上でもかなり嫌な交渉が始まります。
そして、この作品で絶対に忘れてはいけないのが、マーヴィン。正式名称はパラノイド・アンドロイド。ものすごく高性能な人工知能なのですが、ものすごく鬱メンタリティ。宇宙船に乗っているのに「宇宙なんてくだらない」「何をやっても意味がない」という態度。しかも知能が高すぎるので、人間たちの行動が馬鹿馬鹿しく見えてしまう。頭が良すぎて、宇宙そのものに飽きているロボットなのです。もう、なんか悲しい。
でも、そんなマーヴィンを含めて、この作品の登場人物たちは、誰一人として「宇宙の意味」を理解していません。変な作家が思い付きでネタをちりばめた作品を生み出したら、やたらと面白がる人が多かった、そんな作品。
感想
初めて読んだ感想は「なんやねん、この小説、ふざけすぎw」でした。褒めています。普通、SF小説というと人類の未来とか、宇宙の謎とか、未知との遭遇みたいな壮大なテーマを扱うのに、主人公は、物語の冒頭から自宅を取り壊されそうになっていて、小市民感半端ない。と思ってたら、同じ理由で今度は地球が取り壊される。
読み進めていて「何を読まされているのだ私は」状態でした。でも、めちゃくちゃ面白い。特に好きなのが、「壮大な話を壮大に扱わない」ところです。人類の扱いも雑。人間が地球上で一番賢いと思っていたら、イルカのほうが賢く、さらにネズミのほうが賢く、しかも地球は巨大コンピューターだった。人類、完全に脇役。一千万年かけて計算していたのに、あと5分というところでヴォゴン人に地球を爆破されるという「身も蓋もない壮大なやらかし」に力が抜けます。ヴォゴン人、ちょい待てや。
人生も、あまり深刻に考えすぎるとどんどん迷子になります。人生の意味も、宇宙の意味も、究極の問いも分からない。思い付きで適当に書いた小説が世界中から愛されまくるのも、なんかいいですね。そんな軽さで生きてもいいんじゃないかな。私の人生、これから色んな悩みも疑問も出てくるだろうけど、私はもうその答え「42」を知っている訳なので。

