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「生なる傷痕」四章 雪よりも白くなるように

「え……この匂い……なに?」
 昼までホテルのベッドで寝こけていた逸色が、まだ眠そうな顔でのそりと身体を起こした。
 無理もない、帰ってきたのは朝方だった。私は妙に目が冴えてしまって眠れなかったが。
「……いやさ、昨日スーパーで食材買って作ろうと思ってたんだけど、いろいろあったし……結局コンビニで済ませちゃっただろ? だから昼ぐらいはって」
 トレイに載せた二人分のカレーライスを持って、私は「よっこらせ」とベッドに上がる。
 逸色は「よっこらせって」と笑っていたが、皿の中身を見て目をぱちくりさせた。
「これ、直里さんが?」
「うん。朝さ、逸色が寝てる間にヒアシンスさんの買い出しについてって材料調達してきた。キッチンも借してもらって、ほんと親切な人だよな」
 ふたりでトレイを挟むように座って、私は逸色のカレー皿の前にスプーンを置いた。
「……どうして?」
 逸色がぽつりと尋ねてくる。
「うん?」
 視線を上げれば、逸色は眉を寄せて唇を引き結びながらカレーを見つめていた。
 これはどういう顔だ、とじっと観察していると、その強張った唇が開かれる。
「手間でしょ、作るの。なのに……」
 掠れた声で絞り出すように逸色は言った。
「あ……嬉しくなかった?」
 逸色が即座に顔を上げ、首を横に振った。
「嬉しいよ! 俺のため?」
「そうだよ。これは逸色に食べさせたいなって、逸色のこと考えて作った。逸色のためのカレーといっても過言ではない」
 きょとんとした顔で私を見つめた逸色は、少しの間のあと、「ぷっ」と噴き出した。
「はは、なに、その言い方。でも……死ぬほど嬉しい」
 くしゃりと笑う逸色に、湯水のごとく愛しさが込み上げてくる。
「そりゃよかった」
 作った甲斐があったな。
 私はこの顔が見たかったのだと思う。満たされた気持ちで、いたいけな彼を見守った。
 逸色は昨日同様、祈るように手を組む。
「主よ、この食事を祝福してください。身体の糧が心の糧となりますように」
「アーメン」
 なんとなく手を合わせて唱えてみると、逸色は小さく笑った。
「そういえばさ、ヒアシンスさん、めっちゃ心配してたな?」
 カレーにありつきながら、自然と昨日の話になる。
 海で一夜を過ごし、朝帰りした私たちをヒアシンスさんは寝ずに待ってくれていた。スマートフォンにも連絡が鬼のように来ていて、帰るなり彼は泣きながら少し怒っていた。
「逸色に救われたからなんだろうな」
 逸色は苦笑いする。
「俺は自分の欲を満たすためにしただけで、人助けをしたつもりはないんだけどね」
「それは向こうもだろ。自分を受け入れてくれた相手って、特別なんだよ。ヒアシンスさん見てたら、ちょっとだけ思ったんだ。私たちのことをわかってくれる大人もいるのかもって。子供の頃、私たちみたいに生きづらさを感じてた人とか、そうじゃない人も」
 ヒアシンスさんやオーナーの顔を思い出しながら言えば、逸色は瞳を大きく見開いた。
 私は「なに、その顔」と、目を細める。
「いやだって、直里さんがそんなことを言うなんてびっくりして。世界のやつらはなにもわかってない、爆発しろ! って感じだったのに」
「そこまで言ってねえよ」
 いや、言ったかな。こんな世界滅べばいい、は言ったな。
「俺たちのために泣いてくれる人がいるって思うと、この世界もまだ捨てたもんじゃないなって思えるよね」
 私は「うん」と頷きながら、スプーンを置いた。
「あの、さ」
 改まった様子で切り出した私に、逸色もなにかを感じたのだろう。お皿とスプーンをトレイに戻した。それを見届けて、私は深呼吸をすると、しっかりと彼の目を見て告げる。
「生きよう」
 逸色は瞬きすら忘れたように、息を呑んでいた。
「こんな私でも、逸色は求めてくれただろ。あの瞬間から、自分自身も、逸色のことも、誰にも好き勝手にされたくないって思うようになった。だから、道を探そう。考えて考え抜いて、動いてみよう。期待なんてまったくできないけど、助けてくれる人がいるなら、手を伸ばしてみよう、声をあげてみよう」
 言葉だけじゃ足りなくて、私は逸色の手を取る。
「私ひとりじゃ駄目なんだ。こう考えられるようになったのも、逸色がいたからだし……どうかな」
 逸色は瞳に不安と迷いを滲ませて逡巡している様子だったが、少しの間のあと、意を決したように眼差しが凛とした。
「直里さんがお義父さんに殴られて、倒れてるのを見たとき」
「え?」
「頭に血が上って、気づいたらお義父さんを殴ってた。敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい……教えにはそうあるのにね」
 逸色は肩を竦めて笑う。
「俺も同じ。こんな俺を直里さんが求めてくれた。自分にも価値があるって思わせてくれた。この身体を生かすも殺すも俺の権利だって、もう一度抵抗したい。今度こそ、諦めずに」
 繋いだ手を強く握り合う。
 カーテンから差し込む日差しみたいに、微かに光が見えた気がした。

 昼食をとったあと、私たちはロビーの片隅にある小さな木製のテーブル席にやってきた。
 スクールバックから取り出した筆箱とノートをテーブルの上に並べ、向かいに座っている逸色と共に黙々とスマートフォンの画面をスクロールし始めること一時間。自分たちを助けてくれそうな制度を探していた私は、眉間に皺を寄せながらため息をつく。
「虐待児童の相談窓口はあるのに、いくら探しても宗教二世のそういう窓口が見つからない。そっちは?」
 私のシャープペンのキャップをカチカチと遊ばせていた逸色は首を横に振る。
「行政窓口とか、ホットラインに相談しても『宗教問題は扱ってない』って突き放されるって書き込みばっかり見つかる」
「学校の先生なら、そういう子供に遭遇したことがあるかもしれないし、一か八か話してみる? 私もついてくし……」
「それ、は……」
 浮かない表情で言葉を濁した逸色は、シャープペンを両手で握り締める。
「やっぱり、ハードル高い?」
 逸色はすべてを隠すために、完璧に好青年を演じてきたのだ。でも、先生に相談すれば、〝そういう目〟で見られるのは避けられない。
「俺がカルト集団にいたって知られたら、なに言われるか……しかも、俺がされてたのは……」
 性的虐待だ。言いづらいに決まっている。でも、声を上げないと私たちの叫びは届かない。せめて身近な人たちに気づかれないように、私たちが助かる方法はないのだろうか。
 スマートフォンをスクロールしながら、ある文章に目が留まった。
「未成年の方や宗教二世、三世の方からのお問合せにも対応します……? あ、ねえ、これは?」
 私はスマートフォンの画面を逸色に見せる。
「法テラス? 霊感商法に限らない金銭的トラブル……心の悩み、家族の悩み、児童虐待、修学、就労、生活困窮など、宗教二世問題でお悩みの方、まずはお電話ください……」
 逸色は読み上げると、電話番号を控えた。
「法テラスは国が運営してるんだって。困りごとに応じて、問題を解決するための法制度とか、手続き、適切な相談窓口を無料でご案内しますって書いてある」
「うわ、ありがと。こういうの、あるって知らなかった。それに、探す気力もなかったし」
「さっそくかける?」
「……でも、相談してすぐ保護してもらえるとも限らない……よね。証拠ないし」
「あ……そっか。私も相談したことがバレたら、あとでなにされるかわかんないしな」
 私はまたため息をつきながら、テーブルに肘をついて額を押さえた。
 逸色は憂いが漂う眼差しを、窓の外へ向けた。
「児童虐待もさ、子供が相談しにいったのに、相談員がそれを虐待してる親に話して、証拠不十分で返された子供が逆上されて死んだ事件とか、やってたよね」
「あー、あるある。私もさ、前に近所の誰かが通報してくれたことがあったんだけど、証拠がないから反抗期で片づけられた。あの頃はまだ私も痛いのが怖くて、職員が来たのが家だったから、下手なこと言えなくてさ、なんもないって言っちゃって。そのあとはまあ、ボコボコにされたよね」
「でも、その痣は証拠にならない?」
 逸色はマスク越しに自分の頬を指でとんとんと叩く。
「今の私の身体じゃ、自傷行為だと思われる。リスカしまくっちゃったし」
「なら、虐待の証拠を録音、録画して持っていくしかない……か」
「どっかにスマートフォンを設置しておいてってこと?」
「うん」
 ふたりで話し込んでいると、鼻腔をふくよかなコーヒーの香りが掠めた。
「調べ物?」
 目の前に、そっと湯気が立ち昇るコーヒーカップが置かれた。逸色と同時に顔を上げると、ヒアシンスさんがにこりとする。
「あ……」
 気まずい思いで逸色と視線を交わせば、ヒアシンスさんは躊躇いがちに口を開いた。
「……ごめん。このロビー狭いから、実はちょっと話が聞こえてきちゃって。その……俺にもなにかさせてもらえないかなって」
「え?」
 私が目を瞬かせていると、ヒアシンスさんはトレイを胸の前に抱えて、真剣な面持ちで言う。
「その証拠が揃ったら、俺が通報するよ。ふたりと知り合いで、虐待を受けてるみたいですって。大人の証言のほうが通りやすいかもだし」
 私は思わず逸色と顔を見合わせ、同時にヒアシンスさんに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
 三人の間に和やかな空気が流れる。
 味方がいないわけじゃない。まだなにも成し遂げたわけではないけれど、漠然となんとかなるような気がした。

「お世話になりました」
 調べ物を終えたあと、私たちはホテルをチェックアウトすることにした。
 ヒアシンスさんは、頭を下げた私たちを心配そうに見ている。
「もういいの? 部屋なら、もう少し開けられるけど……」
 私は苦笑いしながら、首を横に振る。
「部屋代までタダにしてもらっておいて、これ以上、迷惑かけられませんって」
 私たちは払うつもりだったのに、ヒアシンスさんはお金を受け取らなかった。
 ありがたい申し出だが、無償で何日も部屋を貸すわけにいかないことは私たちもよくわかっている。それに――。
「いつまでも学校を休むわけにもいかないし、家からだってずっと逃げられるわけじゃない。そろそろ潮時だと思うから」
 逸色の言う通り、そこが地獄だろうと、遅かれ早かれ、いつかは戻らなければならなかった。
「数日間、逃げ場をくれただけでも感謝してます。な?」
 隣に視線を投げれば、逸色が肯定するように頷いた。
 ヒアシンスさんは逸色の顔を見つめ、少しほっとしたように頬を緩める。
「ここに来たときより、顔色がいいね」
 逸色は「おかげさまで」と笑った。
「なにかあったら、いつでも連絡して」
 ヒアシンスさんの好意を素直に受け取って、私たちは頷いた。

 私たちは地元に戻ると、ショッピングモールを訪れた。日曜日だからか、買い物袋を提げた家族連れやカップル、若者たちでとにかくごった返している。
 私たちは先ほどホテルで書いたメモ――切り離したノートのページを一枚片手に、百円ショップの中にいた。
「あ、これ透明でいいんじゃね?」
 棚にはスマートフォンを首からかけるためのストラップが並んでいる。その中から紐が透明なものを選んで逸色に見せた。
「それならスマホを首から下げてるって気づかれにくそうだね。襟のある服を着れば、うまく服の中に隠せる」
 逸色がうんうんと頷きながら言う。
 私たちは家に戻る前に、たくさん話し合って、身を守るための対策を考えた。
 まず、スマートフォン命綱を手放さないこと。肌身離さず持っていて、すぐに警察に助けを呼べるようにしておくこと。とはいえ、非常時に電話番号を押している時間はないかもしれない。いい方法がないかホテルのロビーで調べていたら、スマートフォンの電源ボタンを素早く五回押すと、緊急通報ができることを知った。電源ボタンの位置を音量ボタンと間違えないように、改めてふたりで動作も確認した。
 百円ショップでの買い物を終えたあと、私たちは施設内の家電量販店へ移動した。
「小型防犯カメラだって。二千三百円」
 逸色の手には細いカメラがある。
 初めはスマートフォンで撮るつもりだったのだが、あからさますぎてその場で奪い取られて消されてしまうかもしれないし、隠れて撮るにしても大きすぎて気づかれてしまうかもしれないということで、小型カメラを買うことにしたのだ。幸い、ネットで事前に調べていた通り、そこまで高額ではなかった。
 けれど、用途が用途なだけに心中は複雑だ。
「直里さん?」
「え? ああ、うん。目立たなそうでいいな」
 今になるまで、どうして気づかなかったのか。虐待の現場を押さえるということは、逸色はまた母親に――。
 俯いていると、逸色が手を握ってくる。顔を上げれば、逸色はなにもかも見透かしたような顔で微笑んでいた。
「夜明け前が一番暗いって言うでしょ」
「なにそれ」
「It's always darkest before the dawn……直訳すると、夜明け前が一番暗い。意訳すると、朝の来ない夜はない」
「死体好きの逸色さんは、詩人の顔もお持ちでしたか」
「残念ながらこれは、シェークスピアの悲劇『マクベス』に出てくる王子の台詞だよ。希望が目の前に見えたぶん、苦しい状況は終わりかけのときが一番辛く感じるけど、ずっと続くわけじゃない。乗り切れば、きっと事態が好転するってこと」
 これから負うのは抜け出すための傷。今はその痛みがまだ見えない明日に繋がっていると信じて、暗い夜の中を進むしかない。
 私はもうひとつカメラを手に取って、逸色を見た。
「全部終わったら、またあの海に行こう。今度は朝に」
 逸色は嬉しそうに「うん」と笑った。

 日が暮れてショッピングモールを出たあと、私たちは手を繋いで電車に揺られていた。
 上りの列車だからか、帰宅ラッシュの時間なのに乗客は少ない。長い座席の端に逸色と並んで腰かけ、向かいの席の窓から流れていく景色を眺めていた。
「なあ、やっぱり……夜、逸色の家の近くで待機してたら駄目か?」
 警察に電話したからといって、すぐに駆けつけられるわけじゃない。証拠を撮るために傷を負うことが避けられないのだとしても、彼が痛みを感じているときにそばにいたかった。
 けれど、逸色は首を横に振る。
「もう自分の力で跳ね除けられる。こんな俺でも受け入れてくれる生身の人間がいるって、わかったから」
「生身って」
「今のところ、俺が愛せそうな生身の人間は直里さんだけだけどね」
「はいはい。生身だろうが死体だろうが、くれてやるよ」
 言葉とは裏腹に耳まで熱い。目を合わせるのが気恥ずかしくて、私はため息なんてつきながら、そっぽを向く。
「直里さんってかっこいいよね、惚れちゃうな。俺のこと助けに来てくれたとき、直里王子って叫びたくなったよ」
 にこにこしながら、顔を覗き込んでくる逸色に呆れる。
 嘘つけ、それどころじゃなかったくせに。
 でも、あのときのことを冗談交じりに話せるくらいには回復しているということか。
「これから、逸色姫って呼ぼうか?」
「んー、それもやぶさかではないけど……繋、繋がいい」
 ふざけた口調なのに、彼の目は切に願っている。
「……繋。ただの繋」
 呼んでみせれば、逸色――繋は嬉しそうにはにかんだ。
「はは、『ただの』が苗字みたい。じゃあ依」
「ただの依?」
「うん。誰の所有物でもない、ただの依」
 私は繋の肩に頭を預けた。繋は私の頭に頬をくっつける。
 私たちは誰のものにもならない。お互いの違いを受け入れて、汚いものも恥ずかしいものも認めて、今こうして寄り添っている。

 最寄りの駅に着くと、私たちは離れがたくて、前に繋に連れてきてもらった教会に来ていた。もう帰る時間だからか、私たち以外に人はいない。
「繋、私さ、自分を傷つけるのはこれで最後にする」
 ふたり手を繋いで、立ったまま十字架を見上げた。
「なんか、痛みがなくても気持ちよかったんだよね」
 私は夜の海で、彼に触れられたときのことを思い出していた。
「セックスの話?」
 繋は前を向いたまま尋ねてくる。
「そ、セックスの話」
「痛みで興奮してた、あの依さんが!」
 わざとらしく驚いて見せた繋に、軽く噴き出してしまう。
「そう、あの依さんがですよ。まあ、別の痛みはあったんだけど」
「初めてだったのに、シチュエーションがクソでごめんね」
「いや、公園のトイレじゃないだけいいですよ」
 今度は繋が、身体を折って盛大に噴き出した。
「さりげなくディスらないでよ」
「いや、あれ見ちゃったあとだからね。野外プレイもなかなかなのに、普通に受け入れてる自分がいたわ。あ、これ毒されてない? 私」
「毒されてますねー」
「ま、ともかくさ」
「急にまとめるじゃん」
「ねえ、黙って。先に進まんから」
 優しく「はいはい」と笑う繋に、不覚にもときめいてしまった。この幸福を知ってしまったがために、本当に夜明け前が一番暗く感じる。
「繋がせっかく癒してくれたのに、それをゲスい痛みで上塗りしたくないんだわ」
「愛される痛みを知ったわけだ」
「教えたのは繋だよ」
 隣を見て笑えば、繋は目を見張った。
「まあ、すぐには無理かもしれないけど、痛みに逃げたくない。逃げないで変えられるようになりたいんだ。自分と身近な人たちの世界くらいはさ」
「それって、砂長くんのこと?」
「繋もだよ。わかってて聞いただろ」
「うん、ごめん。欲しがりで」
 嬉しそうな顔しやがって、と軽く睨む。愛情が欠けている、だから試す。そんな繋を面倒だけど愛しいと思うのだから、私は毒されている。
「歪なまま治らないところもあると思うけどさ、できるところまでやってみる」
 繋は優しい眼差しで私を見ていた。
「うん。頑張って頑張って、それで限界だなって思う日がきても、自分を嫌いにならないで。俺は人と違う依が好きだ」
「知ってる」
 繋なら、そう言ってくれると思った。だから私が自分を気持ち悪く思ったり、嫌いになったとしても、繋さえいれば自分を大事にできる。
「繋、おさらいしよう」
 真剣な表情で彼のほうに身体を向ければ、繋もつられたように表情を引き締めて、私の正面に立った。そして両手を取り合うと、私は始める。
「命綱を手放さない」
「なにかあったら、すぐ警察を呼ぶ」
「仕方ないことだって受け入れない」
「おかしなことだって、声をあげる」
 あとに続いた繋と見つめ合い、同時に口を開く。
「最後まで諦めないこと」
 声を揃えてそう言って、私たちはどちらともなく、ひしっと抱き合った。
「明日、学校で。来なかったら殺す」
 強く強く抱きしめながら、私は泣き顔を見せないよう繋の胸に額を押し付けた。
「うん、そのときは殺されてあげる。依も約束、守ってよ」
 私は「ん」と短く答えて、今だけはと祈る。
 どうか神様、憐れな夜の子らに祝福を――。


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