インター校と海外就職の現実― 国際教育は本当に必要なのか ―

近年、日本でもインターナショナルスクール(インター校)への関心が高まっている。その背景には、「英語ができなければ将来不利になる」「日本の受験競争から子どもを解放したい」「海外大学へ進学し、世界で活躍してほしい」といった期待がある。しかし、インター校卒業後の進路を大学進学、就職、ビザ、定住まで含めて長期的に見ると、一般に語られるイメージと現実には大きな差が存在する。

多くの保護者が思い描くのは、「インター校→海外大学→海外就職→高収入→海外定住」というルートである。しかし実際には、インター校はあくまで英語で教育を受ける環境を提供する教育機関であり、その後の人生を保証するものではない。本当の勝負は大学進学後に始まる。海外企業が求めるのは英語力だけではなく、専門性、インターン経験、現地でのネットワーク、そして何よりもビザ取得可能性である。外国人を雇用する企業は、現地人を採用する場合には発生しないビザ手続きやコストを負担しなければならないため、「英語ができる」だけでは十分な競争力にならない。

アメリカを例に取ると、その現実は非常に厳しい。留学生は卒業後にOPT制度を利用して一定期間働くことができるが、その後長期就労を続けるためにはH-1Bビザを取得する必要がある。2026年度のH-1Bでは約33万6千人が申請し、当選者は約11万9千人だった。選抜率は約35%であり、企業がぜひ採用したいと考えていても、抽選に外れれば働き続けることはできない。つまり能力以前に制度の壁が存在するのである。イギリスも同様に厳しく、大学卒業後にGraduate Visaで一時的に働くことはできるが、その後Skilled Worker Visaへ移行できる留学生はごく一部に過ぎない。大学に入ることよりも、その国に残ることの方がはるかに難しいのである。

100人の留学生を想定すると、この現実はさらに分かりやすい。アメリカでは100人が大学に進学しても、卒業後に現地企業で就職できるのは一部に限られる。さらに長期就労にはビザ取得が必要であり、近年の抽選倍率や移民政策の不確実性を考えると、10年後もアメリカに残っている人は多く見積もっても数人から10人台前半程度と考えるのが現実的である。イギリスも同様で、10年後も残り続ける人は100人中数人程度にとどまる可能性が高い。カナダやオーストラリアは比較的移民ルートが整っているが、それでも近年は留学生・移民政策の引き締めが進んでおり、かつてほど容易ではない。つまり、多くの保護者が想像する「海外大学に行けば、そのまま海外で働き、定住できる」という世界は、現在ではかなり細く、不安定な道になっている。

では、インター校卒業生はどこへ行くのか。実際には、多くの卒業生は日本やアジア圏の日系企業、外資系日本法人、商社、メーカー、金融機関、コンサルティング会社などへ就職する。つまり、「世界で活躍する国際人」というよりも、「英語ができる日本人」としてキャリアを築くケースが圧倒的に多い。もちろんそれ自体は非常に価値のあることである。しかし、それは多くの保護者が抱く欧米エリート社会への参加というイメージとは異なる。

さらに費用対効果の問題も無視できない。東京や上海、シンガポールの有力インター校では年間学費が300万〜800万円程度に達することも珍しくない。小学校から高校まで12年間通えば学費だけで数千万円規模となり、その後アメリカやイギリスの大学へ進学すれば、学費と生活費を合わせて総額1億円近くになることもある。しかし、その結果として得られる就職先が日系企業や日本法人であるならば、その投資が本当に合理的だったのかという疑問は残る。

一方、日本には依然として強力な大学システムが存在する。東京大学、京都大学、一橋大学、慶應義塾大学、早稲田大学などは、日本国内において依然として高い評価を受けている。そして日本企業に就職する限り、ビザという不確実性は存在しない。さらに大学や大学院の段階で留学する道も残されている。実際、世界で活躍する日本人の多くは、幼少期からインター校に通っていたわけではなく、日本の学校教育を受けた後に英語を習得している。

結局のところ、インター校の価値は「英語教育」そのものにあるのではなく、「どのような人生の出口を想定するか」によって決まる。もし本気で欧米への移住や定住を目指し、STEM分野など国際的に需要の高い専門性を身につける覚悟があるなら、インター校には一定の意味がある。しかし、多くの日本人家庭にとっては、最終的な就職先は日本またはアジア圏の日系企業や外資系企業であり、その場合は日本の良い大学で専門性を身につけ、必要なタイミングで英語を強化する方が合理的である可能性が高い。

ただし、この議論はあくまで就職や定住という「出口」の数字から見たものである。人生の価値は、就職率や年収だけで測れるものではない。海外で学ぶことによって得られる経験、異文化との出会い、多様な価値観への理解、自分の世界が広がる感覚は、統計では表せない大きな財産となる。個人が本当にやりたいことを見つけ、その可能性を広げるという意味では、日本だけに選択肢を限定するのは明らかにもったいない。

親としては、自分よりも豊かで幸せな人生を子どもに歩んでほしいと願う。その思いから教育に力を入れ、より良い学校、より良い環境、より多くの機会を与えようとする。それはごく自然で愛情に基づいた行動である。しかし、教育の目的は良い大学に入ることでも、海外で働くことでもない。子どもが自分の人生を自分で選び、その人生を楽しめるようになることにある。

インター校は決して無意味ではない。しかし、「インター校に行かなければ世界で活躍できない」という考え方もまた事実ではない。むしろ統計を見る限り、インター校は海外就職や海外定住への保証ではなく、高額な教育投資の一つの選択肢に過ぎない。教育を考える上で重要なのは、英語への憧れや不安ではなく、その先の大学、就職、ビザ、そして人生全体の設計なのである。

参考文献・関連資料

H-1B Cap Registration Statistics(USCIS)/Oxford Migration Observatory: International Students Entering the UK Labour Market/Statistics Canada: Transition from Study Permit to Permanent Residency/ISC Research: The International Schools Market in 2025/Institute of International Education (Open Doors Report)/Government of Canada: Post-Graduation Work Permit Program/UK Government: Graduate Visa and Skilled Worker Visa Guidance

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