黄金のルウは祈り。サックサクのカツは反骨。
おかわり(2杯目)です。
賞を総なめにしてやろうと思います。
★
ここは、『元祖・Curry and Vermon』
カレー屋だが、ただのカレー屋じゃない。
黄金のルウは、祈り。
銀色のスプーンは、救い。(掬う、だけに)
カレー界のパワースポット。
人は、ここに来ることを“巡礼”と呼ぶ。
私はその店の店主だ。
食べログの星は、驚異の5.2。
なぜかMAXを超えちゃっている。
激甘モードのAIが、テンションあがりまくって叩き出す採点値だ。
「懐かしい――許しの味だ」
「穢れなき子ども時代に回帰するかのような――」
客たちはみな、涙を流す。
号泣する者もいる。
当然だ。
うちで出しているのは、バーモントカレー(甘口)なのだから。
店名も、カリー・エェン・ヴァーモン。
要するに、バーモンとカレーだ。
(アルファベット表記にしときゃ、バレない)
人は誰もみな、バーモントで育つ。
郷愁は人の舌を狂わせ、評価を捻じ曲げる。
まるで、心を持たないAIの気まぐれのように。
メニューはココイチを踏襲した。
(季節の限定メニューとかは、わかんないから無印のやつで対応してる)
店内のテーブルも椅子もカーテンも照明も、楽天1位でそろえた。
誰かの成功をなぞり、王道に乗っかれば、大きく踏み外すことはない。
定番。模倣。複製。
それらは、恥じることではない。
誰かと同じであること。
それは、わかちあえるということだ。
バーモントであればあるほど、我々は、よりバーモントでいられるのだ。
でも、店の名前には「元祖」を足してみた。
「元祖」こそ、すべての始まり。
元祖って言っときゃ、模倣じゃなくなる。
創成者になれる。
ある日の昼下がり、品のいいおじいさんが入ってきた。
亜麻色の帽子を脱ぎ、薄いグレーのジャケットの袖を丁寧に整える。靴はよく磨かれて、ワイシャツの襟はパリッと白い。
それなのに、どこか――旅の途中のような匂いがした。
カウンターの端に腰を下ろし、静かにスプーンを持つ。
ひと口、ふた口。表情は変わらない。
やがて皿が空になると、おじいさんは立ち上がった。
「ごちそうさま、おいしかったですよ」
なぜだ。
なぜ、こんなに普通なんだ。
なぜ、泣かない。
みんなありがたがって泣くはずなんだ。
定番こそが最高のクオリティなのだから。
私は恐る恐る聞いた。
「……あの、失礼ですが」
「はい?」
「食べログの星をつけるなら、何点ですか?」
「3.2」
――リアル。
これは、AI(無料版)が「制限に達しました」な定型メッセージ直後の、すんっ、てなってるときと同じ冷たさだ。
まさか――
「あのっ……!」
会計を済ませ、店を出ようとするおじいさんの背中に、私は追いすがった。
「ご家庭のカレールウをっ…教えてくださいっ…!!」
おじいさんは振り返り、にっこりと微笑んだ。
「ZEPPINです」
Z E P P I N ・・・!!
グリコ!?なんで!?
おじいさんなのに!?
それ、比較的新しいヤツじゃん!!!
バーモントが通用しなかった。
私のアイデンティティを支える市販ルウの神殿が、とろとろに溶けて崩れ落ちた。
どうすればいい?
私は、このルウに、何を追加すればいい?
(でもルウはバーモントのままでいく。やっぱ既製品は強い)
カレーの王様といえば、カツだ。
カツこそ、至高。
私にとっての「カツカレー」とは、何だ?
ちょうど冷凍庫にあった冷凍餃子を足した。
うん。…まあ、悪くないな。
餃子もカツも似たようなもんだろ。
中華とインドの融合。斬新っぽい(気がする)。
――いや、だめだ。
こんなもんじゃ、あのおじいさんの余裕ぶった笑みは崩せない。
梅干も入れた。
キムチ。ヨーグルト。卵(殻ごといっちゃえ)。
ストロングゼロ。カルピス(パイン味)。
ガムシロ。スジャータ。韓国のり。
氷。保冷剤。
ええい、まんま冷蔵庫!(持てなかった)
なんもかんも、ぶち込んだ。
味の個性たちが殴り合って、鍋がぐつぐつと沸騰している。
なんか、良くない臭いがしてきた。(怖い)
だが、私はもう止まらない。
食べログ?
星?
知るか。
星になるな、◯(ゼロ)になれ。
ぶっこわせ。
そこが、私のスタートだ。
――『元祖』第二章の始まりだ。
(貼るの忘れてた。)
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