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ワスレモノ――【夏の夜の、ちょっぴりホラー】

お盆休みに突入です。
お盆にかこつけて、昔のmixi日記(日記?)を供養したいと思います。
供養という名の、ただの再投稿です。
思い出に執着するのは、未練でしょうか。愛でしょうか。
なにはともあれ、やりたいようにやらせてやって。

いまの私(あるいはAI)から見て、あまりに目に余る【  &  】部分については、若干、大幅に、手を入れました。
死に化粧です。
ほんのりオメカシして(かなりスリムになって)、いま再び世に出てまいります。
元気でなー! (南無ー!

※物語中にオバケは出てきません。が、人間は出てきます。

mixi供養企画 第1弾「ワスレモノ」

า(°﹏°า )・・・

「ユウコ、僕はいま、君のことを考えている。
 僕にとって君の存在は一体なんだろう。
 かわいい部下?妹?友人?それとも——」

気色の悪いメールが届いた。H田からだ。『それとも』じゃねえわ、そのどれでもねえわ。

H田は、私が四年前に辞めた会社のシステム管理部の男だ。
当時からたいして関わりはなかったのに、未だに「あけおめ」「誕生日おめでとう」から近況報告や愚痴に至るまで、不定期にメールを送ってくる。
いつも内容は一方的で、私が返信したことは一度もない。

たまたま実家に帰省していた妹につい今きたメールを見せ、
「見てよこれ、気色悪くない?」
と言ってみた。
妹はしばらくそれを無言で眺めた後、やけに真剣な顔で言った。

「姉ちゃん、わたし、やばいことになってるかもしれない」

それがすべての始まりだった。

妹は、県内の公立高校で教員をしていている。
同じ県内といえど実家からはけっこうな距離があり、現在は一人暮らしだ。
教員メンバーのテニスサークルに入っているのだが、そこの新しいコーチが最近なんだかおかしいんだよね、と言う。

「うまく言えないけど…この間も、彼氏いるのかって聞かれて、“います”って答えたら、後日“嘘つきやがって、俺をバカにしてるのか”みたいなメールが来て。気持ち悪くない?」

最初は彼女も「気にしすぎかも」と言っていた。
けれどそれからすぐ、事態の深刻さは一気に加速した。
頻繁に鳴る電話、増えていくメール、歪んだ愛の言葉。
そしてある日、玄関前に撒き散らされた魚の残骸——目玉、骨、血、心臓。異臭。
そして、メール。

「プレゼントだよ」

彼のご実家が魚屋さんらしい。
「だから魚が手に入りやすいのかも」と、妹は怯えながらもみょうに冷静な分析をしていた。

警察にも相談した。
けれど、できるのはせいぜい注意と短期の拘留まで。
「今の法律ではあなたを完璧には守れません」と若い警察官が正直に教えてくれたそうだ。
「親切な人だった」と妹は言っていた。解決はしてくれないけどね、と。

妹の彼氏も交えての緊急家族会議の末、しばらく彼が妹の部屋に一緒に暮らすことになった。
彼の家も職場も、うちの実家のすぐ近くだ。
妹と暮らせば、通勤に片道2時間かかることになる。
申し訳ないと両親は恐縮しっぱなしだった。

「ベランダに出ると、電柱の陰にあいつが見えるの。でもよく見ると誰もいない。人の心って、こんなに簡単に壊れるんだなって思った」

布団に潜りながら妹が言う。

布団越しに妹の頭をぽんぽんと軽く叩き、私はかつて妹に思いを寄せていた男達のことを思い出していた。

A崎は、中1で妹と同じクラスだったヤンキー。みょうに人懐っこい笑顔が印象的だった。
B野も中学の同級生。彼は卒業式間近に妹に告白してフラれた。
C西は高校のとき。誕生日プレゼントだといって家にオルゴールを持ってきた。
D田は妹がはじめてつきあった男だ。
E川とは長く交際していたようだったが、大学卒業後、就職で距離が離れて結局別れた。

そのひとつひとつを、私は全部思い出せる。
私には何もなかった。
いつもあの子ばかりだった。

また、H田からのメールを受信した。

『冬の夜の海を君に見せたい。真っ暗な闇がすべてを塗り潰してくれる。俺はちっぽけなんだって思う。そしてそれでいいんだって思える。』

なんのこっちゃ。きも。

それでも、私は彼の車の助手席に座る自分を夢想する。

求められること。望まれること。
それは私にとって拠り所だった。
たとえそこに、私という実体が含まれていなくても。

妹は学校に事情を話して、新年度から異動することになった。
引っ越しも終え、ストーカーの目を少しでも逸らせればと車も母と交換した。少しずつ、生活を立て直していった。

「3LDKともお別れか〜。あそこ気に入ってたんだけどな」

最後の夜、彼氏は出張で不在だった。
「せっかくだし、退去記念」と言って、私は妹の部屋に泊まった。
妹は、上沼恵美子のおしゃべりクッキングでやっていたというメニューをこしらえてくれた。
梅肉和えの唐揚げ、サラダ、コンソメスープ。
テーブルには花が一輪。

「これ、道端で摘んだ?」と聞くと、「なんでよ、ちゃんと買ったわ」と笑った。
そんな妹が、羨ましかった。

私はドライフラワーか造花しか飾らない。

私たちは、まるで違う。

埃ひとつない階段。整えられた棚。無印で統一されたファイル。生徒からの寄せ書き。
ここには、全部ある。
私が持たないもの、私が欲しかったものが、全部。
きっと私が母の胎内に置き忘れてきたすべてを、妹がその手に掴んで生まれてきたのだ。そう思ったとき——固定電話が鳴った。

妹の顔が強張る。

「やばい、絶対あいつ」

「録音は?」

「やってない(笑)」

「ねえ、電話、私が取ってもいい?」

妹の返事を待たずに、私は受話器を取る。

「……もしもし?」

短い沈黙のあと、電話の向こうの声が妹の名前を呼んだ。声だけは、私たちはそっくりなのだ。

男は、ぶつぶつと何かをつぶやいている。

「ニバンは黙ってろ」「だって、ハチバンのせいで」「俺じゃない、そいつが」「サンバンが怖がらせた」「俺を舐めるな」

何を言っている?
誰と喋っている?
「ニバン」「ハチバン」「サンバン」とは、「2番」「8番」「3番」だろうか?
番号?ロット番号みたいなものか?

――A崎、B野、C西、D田、E川。

妹に好意を寄せた男たちの名前が、反射的に脳裏に並ぶ。

LOT №1 A崎
LOT №2 B野
それから、3番、ええと、誰だっけ…

いや何の時間なの、これ。
こいつ何なの。斜め上過ぎんだろ。狂ってる。
狂ってる?誰が?私が?

「……狂ってる」

つい呟いたその言葉を、男がなぞる。

『……クル? ホラネ ヤッパリキテホシカッタンダ … 』

『ボクヲアオwゴリr¥…』

電話の内容はどんどんわけがわからなくなっていく。

――ああ。
受話器から伸びるコードを指で弄りながら、私はゆっくりと、声には出さず、唇の形だけを変えてその名を呼んだ。――H田。

H田はどうしてここまでしてくれないんだろう。
どうして中途半端に気色の悪いメールを気まぐれに送ってくるだけで、もっと踏み込んでこようとはしないんだろう。
あいつは私なんていなくても、ちゃんと生活している。
真っ当な大人面で。社会的存在として。

どうして私には誰もいないんだろう。
どうして、いつも、あの子ばっかり。

『…ワスレモノ…』

『…トテモ タイセツ…』

忘れ物?

『ワスレモノヲ、トリニキマシタ』

ピンポン、ピンポン、ピンポン、インターホンが鳴る。

『ワスレモノワ』

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

『アナタデス』


インターホンと受話器の両方から聞こえる音が不協和音となって大音量で鼓膜に刺さり、男が今どうしようもなく欲している人が私ではないという現実に、私は心底絶望する。

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関谷ユウコ あたしのことはいいから!そのチップは、おまえとおまえの大切な人のために使え!