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白州蒸溜所で確信した30年後を見据えるビジネスの本質

先日、ご縁があってサントリーの白州蒸溜所を見学させてもらう機会があった。1973年に操業を開始したこの蒸溜所は、日本のウイスキー文化を長年にわたり支え続けてきた重要な拠点である。

その生産の最盛期には、サントリーオールドをお酒を飲める日本の成人一人当たり年間5本ほどの量に相当する規模で生産していたという。それほどまでに圧倒的な需要を誇っていた時代があったのだ。

一世を風靡したサントリーオールド

しかし、ビジネスの世界と同様に、市場の最盛期は長くは続かない。その栄華はわずか3年ほどで終わりを告げることになる。その後、日本のアルコール市場には焼酎ブームなどが到来し、ウイスキーの需要は急激に減少していった。

2008年に仕掛けられた角ハイボールの復活プロジェクトによって、再び一大ブームを迎えることになるのだが、それまでの期間はまさに長くて厳しい冬の時代であった。

注目すべきは、その長い低迷期であっても、蒸溜所の中では決して歩みを止めず、試行錯誤を繰り返しながらウイスキーを作り続けていたという事実である。この継続の姿勢こそが、現在の価値を生み出す源泉になっている。

ウイスキー造りにおいては、同じ麦を使い、同じ発酵を施し、同じ蒸留方法を用いたとしても、全く同じ原酒を作ることはできないらしい。さらに、自社で製作している形状や材質の異なる色々な樽に詰めて熟成させることで、それぞれに全く異なる風味を持ったウイスキーが生まれる。

数十年ものの樽もたくさんある

これらはすべて、同じ年に白州蒸溜所で製造されたものであるため、すべてが「白州」の原酒となる。ウイスキーの名前は蒸溜された場所から付ける習慣があり、白州蒸溜所で蒸溜され、その後は他の場所で熟成保管されたものであっても、白州で蒸溜されている以上は「白州」の原酒と呼ばれるのだそうだ。

また、原酒は保管される樽や周囲の環境によって、熟成のスピードが全く違ってくる。そのため、その熟成度合いの管理は極めて厳密に行われている。しかし、その管理というのは、近代的な設備で温度や湿度を一定にコントロールしているわけではない。なんと、選び抜かれたブレンダーが実際に自分の舌で味を見て、熟成度合いをチェックしているのだという。

過去の膨大な経験から、同じ温度や湿度を保ったとしても同じ熟成の仕方にはならないことが確認されており、どのような温度や湿度がベストであるかという正解は、未だに全く解明されていないということだった。

だからこそ、環境を無理に制御しようとするのではなく、自然のありのままの環境下で熟成させるしかないのだという。

ウイスキーの樽はバーボンやシェリー酒の後に
使われるのが一般的だ。

そうして自然の中で熟成され、風味の異なる様々な原酒を、今度はブレンダーが調合して最終的な「白州」の味へと仕立て上げる。この一連の話を聞けば、いかにブレンダーという職人の存在がウイスキー造りの命綱であるかがよく分かる。

そして、サントリーでは同じように、山崎、白州、知多といった異なる蒸溜所で作られた原酒をブレンドすることで、「響」や「角瓶」といった名作を生み出している。高級酒としての地位を確立している「響」はともかく、日常生活の中で比較的お求めやすい価格で提供されている「角瓶」にまで、これほどクオリティの高い原酒が惜しみなく使われていることには、とても大きな衝撃を受けた。

同時に、サントリーという会社がウイスキー事業にかける並外れた情熱と覚悟に、深く感銘を受けた。

この見学を通じて得た気づきは、私が日頃から向き合っている不動産投資や街づくりの本質に強く通じるものがある。

10年後、20年後、30年後という遠い未来の商品や価値のために、今この瞬間から膨大な労力と時間をかけて準備をし続けているその姿勢は、長期的な視野で取り組むべき不動産経営そのものである。

不動産投資においても、目先の利回りだけを追い求めるのではなく、長期的なグランドデザインを描き、資産の価値をじっくりと高めていく視点が欠かせない。同じ立地、同じ構造の建物であっても、経年変化や管理の質、そして時代ごとのマクロ経済の動向によって、その資産価値や生み出す賃料収入の熟成度合いは全く異なるものになる。

時には市場のトレンドが変わり、ウイスキー業界が経験したような冬の時代を迎えることもあるだろう。しかし、そのような局面でも価値向上のための仕込みを怠らず、適切なポートフォリオを構築し、じっくりと資産を育てる姿勢が重要となる。

異なる特性を持つ複数の物件を組み合わせ、ポートフォリオ全体としての収益性と安定性を最大化させる作業は、まさに風味の違う原酒をブレンドして至高の一杯を造り上げるブレンダーの仕事と完全に重なる。

日頃、何気なく店や自宅で飲んでいる角ハイボールであるが、その一杯の背景には、今回教えてもらったような気が遠くなるほどの緻密な工程と、職人たちの情熱、そして未来への投資が存在している。

これからは、その歴史と工程に深く思いを馳せながら、有り難く頂くこととしようと心に決めたのであった。

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