【舞台】『キッチン・ドライブ』子供鉅人 2009.5.3

2009.5.3(日)19:30
ポコペン

「演出の都合により、開園後の入場者は出演して頂くことがございます」という注意書きでわかるとおり、古い民家の奥の座敷を客席に、入り口に近い三畳ほどの小間(リビングふうにテーブルを置いてある)と壁を隔てて隣の台所を舞台にしている。芝居が始まってから来る客は舞台を通らねばならず、少しばかり役者にいじられてから入ってくる。
 狭い空間を実にうまく使った舞台。

 芝居はワンドリンク付き。開演までの間、注文を受け用意する一組の男女がこの家の住人。仲よさそうに飲み物を用意し、料理している。夕食のメニューはロールキャベツと味噌汁。同棲してそこそこ長いらしい慣れた雰囲気。
 食事の準備ができると、女は男の分の皿をリビングに運び、自分は台所で食べ始める。
これは今夜がはじめてのことらしい。「こっちで食べなよ」という男を女は「うん。いい。ここで」と明るく拒絶する。ロールキャベツにケチャップはつかないのか、と尋ねる男に「切れてるの。コンビニで買ってこようか?」と明るく応じて距離を置く。
 男は機嫌をとるようにしきりに思い出話をしかける。女の入試の日のこと、ファミレスで一番安いラザニアを何皿も食べたこと、紙ナプキンに女が描いた似顔絵、二人で一晩中話した他愛なく幸せだった日のこと…白々とした時間が流れる。
 女の態度は終始変わらず、はっきりした声で明るく受け答えする。

 この、修復は無理だろう感のリアルさが凄い。
 表面的には決して深刻ぶらず、あっけらかんと明るく空虚、というのはいかにも現代的な終末の風景だ。恋愛の終わりでも世界の終わりでもそれは同じらしい。

 もう絶対無理、と望みを失って明るく元気よく振る舞う女と、事ここに至って初めて何とかしようといまさららしく空回りする男。
 男が食べ終わった食器を洗うために台所に入る許可を求めると、「だめ。そこに置いといて」と決して厨房に立ち入らせない女は、コンビニに行って買ってきたケーキで少し早い君の誕生日を祝おうと男が誘うリビングには、足を踏み入れない。

 男が台所の床に置いていった食器を取り上げると、残っていた汁が零れて服が汚れる。吐き気がするような絶望的な苛立たしさ。女は濡れた服を脱いでゴミ箱に投げ込む。

 キッチンドライバーとなのる一行の存在をそれほどの抵抗なく受け入れたのは、彼女の絶望ゆえだろう。
 いろんな家の台所を巡り歩いて生きているという彼らの装いと振る舞いはいかにもアンダーグラウンド。猥雑に美しい。明るい不条理。
 その一夜限りのパーティを、彼女は楽しいと思う。

 台所でのパーティの最中、隣の部屋にいる男は、携帯電話で食事と結婚を申し込む。女は食事の約束を受ける。宴果てた後、片づけをしながら女は食事の予定について話しかける。その時男は隣の部屋のテーブルで眠っている。この二人はもう向き合って話すことはないのだろう。語りながら女は姿を消す。
 目が覚めた男は家中を探して、ただ、自分が一人だということを確認する。
 残り物のロールキャベツを食べながら、ふと立ち上がり、玄関から出て行く。たぶん足りないケチャップを買いに行ったのだろう。

 わたしが見た日のゲストはあふりらんぼのピカチュウ(といっても音楽方面にうといわたしは知りませんでしたが)。フライパンや鍋をドラムに見立てての演奏はさすがプロの技。自分も楽器も動きながらみごとに叩きあげる。


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