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可愛い女の子

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この作品はnoteクリエイターアワード2025に応募しています。
「可愛いとは何か」をテーマに、自分自身と向き合うひとりの女の子の物語を書きました。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


朝一番にすること。
鏡を見る、そして思う。
『私は可愛い』

私は一人っ子だ。
パパは2人兄弟の弟の方で、ママも一人っ子。
3人の従兄弟は全員男の子。
だからおじいちゃんもおばあちゃんも、おじさんもおばさんも、み〜んな私を「可愛い」って言ってくれる。
私も可愛いものが大好き!
ピンクのリボン、白いワンピース、キラキラしたもの、みんな私のもの。
可愛い私には可愛いものが似合う。
そう信じていた。

従兄弟の3兄弟、一番上の奏くんが小学校に入学した頃、信じられないことが起きた。
奏くんのすぐ下の弟、陽くんの誕生日で親戚が集まった日。
お祝いの主役は陽くんだったけれど、私はめいいっぱいオシャレをした。
ケーキ柄の白と水色のワンピース、髪はツインテールでワンピースに合わせた水色のリボン。
笑顔で陽くんに「おめでとう」を伝える私をみんな可愛いって言ってくれる。
そう信じて疑わなかった。

おじさんの家に着いて玄関が開いた瞬間、奏くんが放った一言が忘れられない。

「うげっ。ブスが気持ち悪い服着てる。」
「ぶ、す、?」

自分に向けられた単語だと頭が認識するまで、すごく時間が掛かった。
その間、奏くんはおじさんに叱られ、おばさんは私に謝ってきた。
末っ子の琉くんは「ぶす〜、ぶす!」と笑っている。
陽くんは申し訳なさそうな顔でモジモジしている。

「だって、桜ちゃんの方が可愛いもん!」
「奏、やめなさい!」
「だって桃ちゃんは目も小さいし、可愛くないよ!桜ちゃんはアイドルみたいに可愛いんだ!」

目の前で繰り広げられるおじさん夫婦と奏くんの攻防戦にパパとママはオロオロしている。

『私は可愛くないの??』

それは、私が初めて現実を突きつけられた日の話だ。

あれから15年。
私は可愛い。
二十歳の私は本当に可愛くなった。
今の私を可愛いと称賛するのはパパやママじゃない。
大学の友達も、バイト先の先輩も、みんな私を可愛いって言ってくれる。

あの日、奏くんが私をブスだと言った日、確かに私は衝撃を受けた。
誕生日パーティーでは主役のはずの陽くん含め、奏くんと琉くんを除く全員が私の様子を伺っていた。
大声で泣き出すとでも思ったのだろう。
私の行動は大人たちの予想とは違っていた。

「桜ちゃんの写真、見せて。」

私は奏くんに、彼が可愛いという桜ちゃんの顔が見たいと申し出たのだ。
その場にいた大人たちが動揺している空気が伝わってきたが、

「ねぇ、入学式の写真、あるでしょ?」

そう言うと、奏くんが意地悪そうな顔で頷いて隣の部屋に走っていく。
大人たちはオロオロしていた。

どうだ、これが俺のアイドルだ!と言わんばかりに見せられた桜ちゃんの顔を見て、なるほど!と思った。
桜ちゃんは可愛かった。
小さな顔にぱっちり二重の目に高い鼻、写真からでも伝わる透明感、テレビでよく観るアイドルグループの、いつも真ん中にいる人に似ていた。
隣に座る女の子が可哀想に見えた。
でも、幼いながらに私は気づいてしまった。
隣の女の子の方が、私より可愛い。

私の目は奏くんに言われるまでもなく小さかった。
ゴマを横に倒して2つ並べたみたい。
パパに似た鼻は丸くてお団子みたいだった。

私は本物の可愛いを知らなかった。
雛鳥が初めて目にしたものを親だと思い込むように、生まれた瞬間から一身に浴びてきた「可愛い」を自分の代名詞であると思い込んでいたのだ。

自宅に戻ってから、パパとママはあらゆる慰めと励ましの言葉をかけてくれた。
けれど、私にはパパとママの言葉を聞くよりもやらなければならないことがあった。

本物の可愛いは手に入れられるのか、手に入れる為には何が必要かを調べなければならなかった。
そして、中学に上がる頃には自分を可愛くする為に必要な手術とそれにかかるであろう費用を把握し、計画を立て始めた。

いくら娘大好きな両親でも整形費用を出してくれだなんて可哀想すぎて言えない。
だから、アルバイトでお金を貯めようと思った。
16歳、私はバイトを始めた。
高校を選んだ基準もバイトが許可されているかどうかだった。
部活には入らず、平日の放課後は毎日ファストフード店、土日は近所のお寿司屋さんでバイトをした。
パパの希望で大学には行くと約束をした手前、バイトのせいで成績を落とすわけにはいかず、かといって可愛いを手に入れる為のバイトも減らせない。
だから授業時間は真剣勝負だった。
ボイスレコーダーになったつもりで先生の話を聞いて、黒板をコピーしたみたいにノートを取った。

同じ高校に進学した陽くんは、そんな私をみて

「兄ちゃんが言ったこと、まだ気にしてるの?」
「桃ちゃんは桃ちゃんだよ。」

なんて、言葉をかけてくれた。
でも、奏くんの言葉も桜ちゃんもきっかけに過ぎない。
私は可愛くなかった、だから可愛いを手に入れる。

18歳、大学受験も終わり、高校卒業を控えた頃、計画は本格的に動き出した。
ママには泣かれたし、陽くんにも咎められたけれど、卒業式には出ないと決めていた。
入試が終わったら東京に行く。
何年もかけて調べ上げた病院は3件。
カウンセリングを受け、出来るだけ早く手術を受けたかった。
無事大学生になれるとしても、浪人生になるにしても、成人してからの人生はとびきり可愛い私で生きると決めているのだ。

二重切開30万、小鼻縮小、鼻尖形成70万、顔の脂肪吸引40万、美肌治療等。
3年間のバイト代と小さい頃から貯めていたお年玉を使い果たして、私は可愛いを手に入れた。

術後のダウンタイムは地獄で、鏡を見ては腫れあがりさらに小さくなった目や固定のギプスの息苦しさ、赤黒い内出血の跡に涙が溢れた。
幸いにも4月から大学生になることが決まっていたけれど、それまでにこの状態が良くなるなんて信じられないとベッドの上で泣きじゃくった。
鏡の中の傷だらけの顔が悲しかった。

たまに様子を見にくる陽くんは昔と変わらず優しかった。

「大丈夫だよ、桃ちゃんは強いから。」
「ずっとこのままだったらどうしよう、、、。」
「それなら、ずっとこの部屋にいたらいいよ、僕と桃ちゃんのパパとママがずっとそばにいてあげる。」

そんなこと出来るわけない。
陽くんは一番古い記憶の中でも既に優しかったけれど、私が現実を知った日、あの日以降私を特別扱いする様になった。
お兄ちゃんの奏くんの言葉に責任を感じたから?
陽くんはモテるし彼女もいたけれど、兄妹のように育った私に対してかなりのシスコンだった。

3ヶ月後、まだまだ完成とはいかないけれど大きな腫れは引き、私は可愛いを手に入れた。
『最高に可愛い私』で入学式に挑んだ。
会場のどこを見ても私は誰より可愛かった。

大学生活は充実していた。
友達にも恵まれていたし、陽くんは大学でも一緒だった。
たまに

「作り物」
「嘘つき」

なんて聞こえるときがあるけど、実際作り物だし、自分で手に入れたこの顔が一番可愛いことを私は知っている。
初めての彼氏も出来て私の新しい人生は順調に走り出した、はずだった。

大学生になってからもバイトは続けていた。
流石にファストフード店やお寿司屋さんでは無かったけれど、今後のアップデートやメンテナンスを考えると貯金があって困ることはないと思ったのだ。

カフェでのバイト終わり、思い立って彼に会いに行くことにした。
バイト先近くのケーキ屋さんで話題の新作を2ピース買って彼が一人暮らしをしているアパートを目指す。
角を曲がったところでカップルとぶつかりそうになり、よろけてしまった。

「大丈夫ですか?」

気遣ってくれる女性の顔を見てハッとする。
桜ちゃんだ。
10年以上前に写真で見た、『可愛い女の子』が目の前にいた。
桜ちゃんは可愛い。
でも、私も可愛い。

桜ちゃんの隣には彼がいた。
気まずそうにこちらに視線を送りながらも、桜ちゃんの肩を抱き、

「大丈夫ですか?すみません、、、。」
「桜、ほら、行こう。」

まるで2人が付き合ってるみたいだった。
彼は振り向かずに歩いていく。

彼と食べるはずだったケーキ。
1人で食べてしまおうかと思ったけれど、太っちゃう。
可愛くなくなっちゃう。
悩んだ末に陽くんを呼び出して一緒に食べてもらうことにした。
スマホの画面をスクロールしながら思い知る。
こんな時呼び出せる女友達が私にはいない。
大学で一緒に過ごす友達はいるけれど、みんなが裏で何を言ってるか、私は知ってる。

陽くんが家に来てくれた。
泣きながら無心でケーキを口に運ぶ私を黙って見つめている。
不意に陽くんが口を開く。

「桃ちゃんはさ、なんで可愛くなりたかったの?」
「っふ、うぐぅ、かっ可愛いのが好きだからっ。」

泣きながら答える私の声は嗚咽混じりで可愛くない。

「じゃあ、桃ちゃんの思う可愛いものって何?」

可愛いもの、人、そんなもの沢山ある。

「ぬいぐるみ、アイドルのRちゃん、ふわふわしたもの、キラキラしたもの、、、。」

ここまで上げていて、今まで意識していなかった可愛いが頭に浮かんできた。

「陽くん!」

陽くんは少し驚いた顔をして、聞き返す。

「僕が可愛いの?どうして?」
「、、、。だって優しい、私思うの。優しいは可愛いって。」

意地悪は可愛くない。
陰口も可愛くない。
だから私はしない。

「やっぱり桃ちゃんは可愛いよ。」

当たり前のことをいう陽くんに驚いて動きが止まってしまう。
私の頭に?が見えたのだろう。
陽くんが微笑みながら続ける。

「僕はさ、兄ちゃんみたいに男らしくないし、琉みたいに要領が良いわけでもない。」
「でも、陽くんは優しいじゃない?」
「ありがとう、昔から桃ちゃんはそうなんだよ。2人に置いていかれる僕を絶対に1人にしない。」

「桃ちゃんは、僕は僕、奏は奏、琉は琉としてみてる。他の人にもそうなんじゃない?人と人を比べないし、否定しない。」

人を否定する?
なんで?
私の気持ちを察したみたいに陽くんはつづける。

「あの日、兄ちゃんが桃ちゃんに桜ちゃんの話をした日。僕は桃ちゃんが怒ると思った。でも、桃ちゃんは怒らなかったし、兄ちゃんの言葉を否定もしなかったんだ。」

「桃ちゃんは、昔も今もずっと可愛いよ。」

風が吹いた、ような気がした。
嬉しい。
可愛い顔を手に入れた時よりも、ずっとずっと嬉しい。
だって、私は顔も中身も可愛い!!

その夜、スマホには彼から沢山の『言い訳』が届いていたけれど、読まずにブロックした。
彼の言葉で私の可愛いを汚したく無かったから。

今日はアロマオイルをいれたお風呂に入ろう、奮発して買ったスキンケアをライン使いして、お気に入りのハーブティーを飲んで寝よう。

だって私は、可愛い。
ぐちゃぐちゃに泣いた今日だって、ピカピカに磨かれて目覚める明日だって、これからもずっと、私の可愛いは誰にも壊せない。

『私は可愛い』


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