「パチ屋のお化け」~創作ホラー~
わたしはお化け。
パチンコ屋にいる。
お化けの前は、ここで働いてた。
あの日、夫婦が来た。
女の人のお腹だいぶ大きくて、男はイキってた。
こんなタバコまみれの大騒音の所へ来んなよって
思いながら、ぐるぐる吸い殻集めてた。
あ、まだ喫煙オッケーな頃の話しね。
イキリ男の吸い殻とってると、
なんかぶつぶつ言ってる。
「俺がうまいもん食わせてやろうと
頑張ってるのに、隣で寝るってどういうこと?」
「ごめんなさい」
「食べる時になったら起きるつもり?」
「ごめんなさい」
「謝ったらすむわけ?」
どうやら男が玉を打ってる途中で
女がうとうとしたらしい。
シケモクを頭からぶちまけそうになったけどやめた。
パチ屋の仕事は忙しい。
客が落とした玉を、強力磁石で拾っていく。
従業員はパチパチ君と呼んでいた。
「安曽さん、早くパチパチ君!」
と業務を急かされても、名前が可愛くてあんまり怖くなかった。
怖くはなかったけど、焦った。
玉箱を両手で抱えながら、右手にパチパチ君を持ったら、
思いのほかパチパチ君が重くてバランスが崩れた。
バラバラと玉が落ちて、走り出したのと、
仏頂面のあの男が、
ぎっちりつまった箱を抱えて来たのが同じだった。
男が走り玉を踏んで、
手元からざあーっと銀の玉が転がった。
たいへん何とかしなければと、駆け寄ったのが悪かった。
玉の上を足が回る。
止まりたくて、平たい床を歩こうとすればするほど
足は大きく回り、転びたくなくて仰け反ったら後ろに飛んだ。
飛んだ先のパチ台に、後頭部からダイブした。
血が吹き飛んで、天井を見上げた顔に血が流れて目に入った。
天井がとても高い。
男が口を開けたまま見下ろしてる。
女がお腹を抱えながら、こっちへ来る。
なんで来る? 玉ふむよ?
冷たい床が生温かい。
遠くで店長の声がする。
また怒られるだろうな‥。
だんだん見えなく目に、
ぼんやり大きなお腹が見えた。
ちいさな男の子がこっちを見ていた。
心配そうに‥ちょっと怯えて。
ねぇ?一緒にくる?
誘ってみた。
びっくりするほどすんなり、
その子は手を繋いできた。
やわらかい指を感じながら、
だんだん目がふさがる。
さっきまで女のお腹にいた子は、
わたしのお腹の上にいる。
わたしと手をつないで。
気がつくとここにいたってわけ。
お化けになって。
あの男の子?
とっくに生まれ変わって、
今じゃいいお父さんしてる。
わたしはなんでだか、ここにいる。
退屈だから、ふらふら入ってくる客を、
そそのかしたりたぶらかしたり。
赤くなったり青くなったりして、おもしろい。
あの夫婦はどうなっただろうね。
死んだら見かけるはずだから、
どこかで生きてるのかもね。
クソ爺いとクソ婆あだろうね。
知らんけど。
おしまい
