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おくり人〜栞〜|綴27 『 終電の…その先で 』

※本作品には、葬儀に関する描写が
  含まれています。
  ご遺体、告別式、供花など、
  死に関連する場面が登場します。

※本作品は創作です。
  登場する人物、団体、施設、企業は
  すべて架空のものであり、
  実在する人物、 団体、施設、企業とは
  一切関係ありません。

※本作品は、
  毎週 火・木・土 更新予定です。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人 〜栞〜
綴27『 終電の…その先で 』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

夜の街は、少しだけ静かになっていた。

居酒屋から駅へ向かう時とは逆方向。
栞と神代朔は並んで歩いていた。

並んでいると言っても…
肩が触れるような距離ではない。
二、三メートルほど離れている。

互いの存在は感じられるけれど、わざわざ
話しかけるには少し遠い距離だった。

街灯がアスファルトを照らしている。
二人分の影が伸びたり縮んだりを繰り
返していた。

神代は肩掛け鞄を掛けたまま歩いている。
片手には、あの古びた文庫本。

栞は何度か話しかけようとして、
その度にやめた。
別に気まずいわけではない。

ただ、何を話せばいいのか分からない。

気付けば数分…
いや、もっと経ってたのかもしれない。

その間、2人の足音だけが続いていた。

(……何か話したほうがいいよね)

栞は小さく息を吸った。

「あのさ」

神代が少しだけ顔を向ける。

「山ちゃんとか、白石くんとは友達なの?」

神代は少し考えるように視線を上へ向けた。

「……白石くんとは」

小さな声だった。
相変わらず声が小さすぎる。
栞は少しだけ耳を傾けた。

「以前の……バイト先で」

「へぇ」

「山本くんは……
 いつからか……覚えてません」

「覚えてないの?」

「はい」

神代朔は本気で考えているようだった。

「気付いたら……白石くんに……
 引っ付いて現れてました」

栞は思わず吹き出した。

「何それ」

「分からないです」

「そんなことある?」

「僕も……そう思います」

神代は真顔だった。
だから余計に面白く感じられた。
栞は肩を震わせながら笑う。

確かに山本ならありそうだ。

誰かの友達の友達として現れて、
そのまま居座る。

そんな光景が簡単に想像できた。

笑い声が消える。
再び静かな時間が戻ってくる。

街灯。

遠くを走る車の音。

信号機の電子音。

さっきまで居酒屋にいたとは思えないほど、
夜は静かだった。

栞は歩きながら神代朔を横目で見る。
神代は相変わらず前だけを見て歩いている。

会話を広げる様子もない。
だからこそ、少し気になった。

「あのさ…」

再び栞が口を開いた。

「合コン…来たくて来たの?」

神代朔は、横目で栞を少し見たあと、
再び前へ視線を戻す。


…数秒。


神代は何も答えなかった。

質問が聞こえなかったのかと思うくらいの
間だった。

しかし……
やがて、小さく口を開く。

「……白石くんからの誘いです」

それだけだった。

栞は思わず苦笑する。

「それ、答えになってない気がする」

神代は少しだけ困ったような顔をした。
そして、頬を掻きながら…
変わらず小声で言う。

「……そうかもしれません」


また沈黙が戻る。


けれど今度の沈黙は、
最初のものとは少し違っていた。

居心地が悪いわけではない。

話が途切れたというより、
最初から無理に埋める必要がないような。

そんな静けさだった。

二人の前方に、『虎視眈々』の赤提灯が
見え始める。

暖かな灯りは、夜の街の中で…
小さく揺れていた。

暖簾をくぐると、焼き魚の香りと賑やかな
笑い声が迎えてくれた。
深夜が近いというのに、店内はまだ活気が
残っている。

「おう、後輩ちゃん!」

店長がカウンターの奥から手を振った。

「財布、忘れとったぞ」

「あっ!」

栞は慌てて受け取り、深く頭を下げる。

「ありがとうございます!」

ほっと胸を撫で下ろし、店を出ようと
振り返る。

その瞬間……。


ガラガラ。


暖簾が揺れた。

入ってきた人物を見て、
栞は思わず目を丸くした。

「……夏帆さん?」

「おっ、お嬢ちゃん。
 夜ふかしかい?」

夏帆は、栞の隣にいる神代朔へ視線を移す。
その視線に気付いた栞。

「あのぅ…、変な誤解…やめて下さいね」

「ふ〜ん。
 誤解…ね。」

興味無さそうに、夏帆がカウンターへ向う。
その背後から、またまた見知った人物が現れる。

「おっ!
 間宮っちじゃん。
 あれ?
 彼氏か? どこかしけこむの?」

少しリーゼント風の前髪。
顔には所々深い皺が刻まれている。
特に、目尻の皺とタレ目が印象的……。

「ぶ……部長?」

そっと、入口を出ようとする神代朔を…
岩田は、両手を広げて妨害する。

「どうせ、終電間に合わないよ。
 車で送ってあげるからさ、
 ご両人も付き合いなよ」

「えっ!
 ちょ…ちょっと、部長ーー」

問答無用で、岩田は栞と神代朔の背中を
押して、カウンター席へ連れてく。

岩田は当然のように夏帆の隣に座り、
その隣に神代朔を座らせ、栞は神代朔の隣。

何故か神代朔の肩を抱き寄せ、
顔を近づける。

「俺、岩田。
 隣の金髪ねぇさんは夏帆っち。 
 君の名前は?」

普通に恐い。
まるで、酔っぱらいに絡まれている構図…。

神代朔は、少し肩を震わせながら…
小声で名乗った。

「か…神代……朔…、です…」

「お〜!サクちゃんかぁ〜!
 よろしくなぁーー!
 俺、間宮っちのセフレーー」

バッシィーーーン!!

気持ちよい音が店内に響く。

夏帆が、岩田の頭を平手で叩いた音だ。

「っっってぇ〜な、夏帆っち!
 叩くのは、セックスの時だけにしてくれ」

「はいはい。
 妄想楽しんでくれ」

夏帆は表情を変えず、
ポケットから煙草を取り出して火を付けた。

一連のやり取りに、栞はぽか〜んと目を
丸くするだけ。

神代朔に至っては、本気で震えてる。

「お待ちぃ〜〜!」

ドン!っと、
4人それぞれに生ビールが置かれた。

「えっ? えっ?」

ジョッキと店長を交互に見たあと、
岩田を見る栞。

岩田に肩が組まれたまま、震える神代朔。
一段階と震えが増してるのが分かる。

「まー。まー。
 取り敢えず、乾杯しよ!
 乾杯!」

「あ…あのぅ〜。
 私、アルコール飲めません!」

「ぼ…、僕もーー」

「細かいこと気にすんな!
 ほら、サクくんも持って」

岩田は半ば強引に、神代朔にジョッキを
持たせ、栞にも目配せで促す。

「部長!
 これって、アルハラですよ!!」

「アッハッハッハ〜!
 乾杯を強要してるだけだからパワハラだ」

大声で笑いながら、
岩田はジョッキを掲げた。

仕方なく、栞もジョッキを掲げる。

震えるジョッキを岩田と合わせる神代朔。

煙草をふかしながら、
軽くジョッキを持ち上げる夏帆。

岩田は、一気にビールを飲み干す。

「かぁ〜〜!
 うめぇ〜〜!!!」

ゴクッ…。

その飲みっぷりを間近で眺めてた神代朔が、
ジョッキに恐る恐る口を当てる。

ゴクッ。

「……!
 に…苦……不味い」

「アッハッハッハ〜!
 だろ?
 苦いだろ?」

岩田は、神代朔の背中をバンバン叩いて
笑った。

「ちょっと!
 部長! 
 やりすぎですよ!!」

思わず立ち上がる栞の鼻に、
煙草の煙が纏わりつく。

「ゲホゲホ…」

「お嬢ちゃん。 興奮しすぎ」

夏帆は、空になったジョッキをカウンター
から店長へ渡しながら言った。

ブー。

ブー。

ブー。

煙草の煙で咳き込む栞の鞄から…
着地を知らせるスマホの振動がする。

『……病院』

嫌な予感がした栞は、
すぐにスマホをタップする。

『間宮栞さまのお電話ですか?』

「…はい」

『お姉さんの…ミホさんが倒れました』

「!!」

スマホを持つ手が震える。
電話の向うで……
説明する声が遠ざかっていった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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