病院にはいるのに、家族の身近にいない。こどもSTが増えないホントの理由
―ことばの相談がつながりにくい本当の理由と、家族が孤立しない未来のつくり方―
はじめに:いちばん最初に、あなたに伝えたいこと
健診で「様子を見ましょう」と言われた帰り道。
スマホで検索しては不安が増えて、夜は寝顔を見ながら「私の関わりが悪いのかな」と胸が痛む。
園や学校でうまく伝わらず、本人は癇癪や沈黙でしか表せなくなる。周囲は「わがまま」「しつけの問題」と受け取り、家族だけが説明に疲れていく。
相談先が見つからない。やっと見つけた病院や療育先に連絡したら、診察は数か月先――。
今、助けが欲しいのに。。
ここまで読んでくださった方に、最初に結論を伝えます。
ことばの相談(言語聴覚士の支援)がつながりにくいのは、あなたの“頑張り不足”ではありません。
社会の側に、専門職の育ち方と配置の仕組みの“詰まり”があるからです。
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1.「親のせい」論が家族を追い詰める。でも、現実は“仕組み”の問題が大きい
子どものことばやコミュニケーションの困りごとは、家庭の関わりだけで決まりません。もちろん家庭でできる工夫はあります。けれど、それは「親が悪いから起きた」のではなく、困りごとが起きたときに、早く、適切に、支援へつながる導線が必要だという話です。
ところが今、多くの地域で起きているのは、
• 相談先が分かりにくい
• つながっても待機が長い
• 医療・福祉・教育が繋がってない
という“構造的な断絶”です。
そして断絶がある社会では、家族が「自分が悪いのでは」と自責に向かいやすい。
これは家族の弱さではなく、本来社会が負うべき負担が家庭に降りてきている状態です。
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2.なぜ「子どもST」が増えにくいのか:育成の動線が“医療に寄りやすい”
言語聴覚士(ST)は病院だけでなく、園・学校・福祉・地域にも必要です。にもかかわらず、学生時代の経験が医療に偏りやすい制度設計になっています。
たとえば、言語聴覚士学校養成所指定規則には、実習時間の3分の2以上を医療提供施設で行うこと、さらに医療提供施設で行う実習のうち一定は病院または診療所で行うことが明記されています。 
厚生労働省の「言語聴覚士養成所指導ガイドライン」でも、臨床実習のうち一定時間を医療提供施設や病院・診療所で行うことが具体的に示され、2024年11月には表現の訂正も出ています(医療提供施設で400時間以上、うち病院・診療所で320時間以上等)。 
この仕組みのもとでは、入学時に「子ども支援がしたい」と思っていても、福祉・教育の現場に十分出会わないまま卒業しやすい。結果として、経験したことのある世界である医療(とくに成人領域)へ就職が流れやすくなります(福永, 2025〈未公表資料〉)。
これは学生個人の志の問題ではなく、体験の機会の偏りが就職動線をつくってしまう、という構造の問題です。
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3.需要は増えている:2012年以降、発達支援の仕組みが地域に広がった
家族が感じる「予約が取れない」「枠がない」は、需要が伸びていることとも結びついています。
2012年の児童福祉法改正では、就学前の支援を担う「児童発達支援」、学齢期支援の充実のための「放課後等デイサービス」を、同時に「保育所等訪問支援」も創設されました。
その後、放課後等デイサービスは制度的位置づけ以降、事業所数が約1万9,000か所、利用者数が約30万人(令和4年度)と大きく増加したことが、こども家庭庁の資料でも示されています。 
つまり、子ども支援の「社会の受け皿」は急増した。
しかし、その受け皿に十分な言語聴覚士が行き渡らないまま規模だけが拡大すると、家族の体感は、専門家の支援を受けたいのに、「どこもいっぱい」「満足が得られない」になっていきます。
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4.配置の偏り:STの多くが“医療側”にいる現実
STの配置には領域の偏りがあります。日本言語聴覚士協会の会員動向(令和7年3月31日現在)では、有職者の勤務先として医療が60.50%、医療/介護が17.26%など、医療や高齢者寄りの構造が数字として示されています。一方で、児童福祉は4.99%、学校教育は0.37%です。 
もちろん、医療STが不要という話ではありません。成人の失語症や嚥下障害、構音障害など、医療におけるSTの専門性は不可欠です。
ただ、「生活の場(園・学校・地域)」にSTが十分いないと、家族はこういう状態になります。
• 病院には行けても、園・学校の困りごとが解けない
• 退院後の地域支援が薄く、切れ目ができる
• 福祉サービスに通っても、言語・コミュニケーションの専門性が届きにくい
この“切れ目”こそが、家族の孤立と疲弊を生みます。
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5.未来をどう「継業」し、家族が困らない社会をつくるか
ここからは希望の話です。
解決は「STを増やす」だけでは届きません。鍵は、育て方(養成)/つなぎ方(導線)/支え方(分業)の再設計です。
5-1.育て方を変える:実習を“生活の場”へ広げる
国のガイドラインでも、介護・福祉・特別支援教育等と連携し見学等の機会を設けることが望ましい旨が示されています。 
これを「望ましい」で終わらせず、地域ごとに実装する。
実習ネットワークを医療だけでなく、園・学校・児童福祉・訪問へ拡張する。そうすれば、「子ども支援を選ぶST」は構造的に増えます。
5-2.支え方を変える:他業界の“人手不足対応”を輸入する
IT・航空・製造など、人手不足が常態化した業界は共通してこう設計します。
• 高度業務は専門職が担う
• 日常業務は標準化してチームで回す(属人化を減らす)
• 遠隔やデジタルで移動制約を減らす
ST領域でも同じです。
評価・方針決定・難度の高い介入はSTが担い、日常の練習や環境調整は、家族・保育士・教員・支援員が同じ方針で回せるようにする。
これは質を落とす話ではなく、必要な人に支援を届けるための品質保証です。
5-3.つなぎ方を変える:家族が迷わない「入口」を一本化する
家族が最初に欲しいのは、専門用語ではなく「次の一手」です。
• どこに相談すればよいか
• 何が分かれば次につながるか
• 待っている間に家庭でできることは何か
これを自治体・医療・園や学校・福祉で共有し、紹介の一本道をつくる。
家族が正解ルートを当てるゲームを強いられている現状を終わらせる必要があります。
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6.家族へ:いま困りごとを軽くする「3つの伝え方」
個別の助言は主治医や担当者との相談が前提ですが、相談が動きやすくなる“伝え方”を3つだけ置きます。
1. 「症状」より「生活の困りごと」で伝える
×「発音が変」→ ○「園で伝わらずトラブルが増える/本人が話すのを避け始めた」
2. 「できない」より「できる条件」を添える
○「絵があると理解しやすい」「短い言葉なら分かってそう」「選択肢があると落ち着く」
3. 相談先が変わっても同じ一文を使う
医療・福祉・園や学校で話がズレにくくなり、連携が進みやすい。
例:○「伝わらない経験が増え、本人が話すのを避け始めている。生活の場での支援につなげたい」
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おわりに:あなたの苦しさは、社会の設計のせい
「親のせい」と言われたときの痛みは、あなたの感受性が弱いからではありません。
その痛みは、本来、社会が吸収すべき切れ目が家庭に来てしまっているサインです。
子ども支援の受け皿は拡大しているが、STの実習が医療に偏りやすい制度があり、 人材が医療側に流れている。
だから未来は、人数だけでなく、育成の導線と分業の再設計で変える必要があります。
必要なときに、必要な支援へ、当たり前につながる社会へ。
それは理想論ではなく、設計の問題です。
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参考文献
• e-Gov法令検索(1998)「言語聴覚士学校養成所指定規則」。 
• 厚生労働省(2024)「言語聴覚士養成所指導ガイドラインについて」(PDF)。 
• 厚生労働省(2024)「『言語聴覚士養成所指導ガイドラインについて』の一部訂正」。 
• 厚生労働省(2012)「児童福祉法の一部改正の概要について」(平成24年1月13日、施行:平成24年4月1日)。 
• 文部科学省(2012)「児童福祉法等の改正による教育と福祉の連携の一層の推進(資料)」。 
• こども家庭庁(2024)「児童発達支援ガイドライン等の概要(放課後等デイサービス:事業所数約1万9,000、利用者約30万人)」 。 
• 日本言語聴覚士協会(2025)「会員動向(令和7年3月31日現在)」 。 
• 厚生労働省(2025)「第27回言語聴覚士国家試験の合格発表について」。 
• 福永(2025)「言語聴覚士養成の現場記録」未公表資料。
