見出し画像

【ピリカ文庫】箱の中(約2300字)

夏休み最後のイベントは、町内のお祭り。夕暮れの風にのり、太鼓や笛の音が聞こえる。宿題も自由研究も無事に終わらせたし、早めの夕飯を食べたら、お祭りに出かけよう。

僕は弟のヒロトを連れて出かけた。ヒロトはスーパーボールすくいに夢中で、大きくてキラキラした奴がどうしても欲しくて、3回もやったが取れず泣き出す始末。お店のお兄さんがサービスで1個だけキラキラボールを入れてくれた。

そんなお祭りで、ピンク色の綿あめを食べながら友だちと歩くノンちゃんを見かけた。金魚の浴衣が、とても可愛くて似合っていた…と思うのに、目が合ったら「今日、私と会ったこと忘れて!」と、突然怒りだした。なんでだろう?まぁ、いいや。僕は焼きそばを食べに行くぞ。

お祭りで、アキトくんに会った。いいお兄ちゃんしているのが見られてラッキー!会えるってわかっていたら、もっと可愛くして来たのに。それにしても、綿あめ食べ歩きしている姿を見られて大失敗だわ。「デカい口あけて食ってたな。」とか思ったんだろうな。忘れてくれたら良いのに… 友だちのケイちゃんたちには悪いけれど、もう帰ろう。

弟は、欲しかったスーパーボールを手に入れ、ラムネも飲めて満足したようだ。僕は焼きそばとラムネと…食い物ばかりだ!射的をしようかな。ヒロトに1回やらせて、自分も外した…と思ったけれど、小さな箱が落ちた。「はい、景品。おめでとう。」お店のおじさんから箱をもらった。

箱の中には、ピンク色のダイヤモンドがついた小さな指輪が入っていた。僕にもヒロトにも用はないし、お母さんへのお土産にしても、お母さんの指には入らなさそう。ふと、ノンちゃんを思い出した。さっき会った時、何故か怒っていた。知らないうちに嫌なことをしていたのかも。これを渡したら、許してくれるかな。それに、きっと似合う気がする。ニコニコ笑うノンちゃんが見たいな…とも思った。探したけれど、もう帰ったと友だちが言っていた。

2学期が始まって、席替えがあった。私は窓側の後ろの方。隣の席だったアキトくんは教壇の前から3番目になった。席が離れて寂しいな。この前のお祭りの時にしゃべったアレが最後みたいで、余計寂しい。窓から見える花壇の花も、ずいぶんしおれて私みたいに見える。こんな姿の私じゃダメだな。元気出さなきゃ!

僕はノンちゃんにお祭りの指輪を渡そうと思ったけれど、なかなか言い出せなかった。席も離れてしまって、余計声をかけにくくなった。それに、学校にそういうものを持ってきたらダメだ。あの時、何に怒っていたのだろう。やっぱり、聞いてみよう。

窓の下の花壇には、コスモスや萩の花が少しずつ咲き始めている。オシロイバナもまだ咲き残っていた。私は夏休みに、自宅の庭にも咲くその花をパラシュートにしたり蜜を吸ったり、花びらの汁でマニキュア代わりにしたりして遊んでいた。今なら、種を割ってお化粧ごっこもできそう。後でケイちゃんたちと花壇へ行こうかな…

えっ?アキトくんが私を呼んでいるって?何で?

僕は「何か悪いことしたならごめんね。でも、何に怒っているのかわかんなくて… 」と聞くので精一杯だった。ノンちゃんは「気にしなくて良いよ。」と言うばかり。

廊下の片隅で二人でボソボソ話していたら、みんなが「どうしたの?」と心配する。ノンちゃんも困っている。僕は上手く喋れなかった時のためのメモをパッと渡して「じゃあ…」と別れた。読んで…来てくれるかな。

ケイちゃんたちから「アキトくんから、まさかの告白?」と聞かれたけれど、「全然違う。」そう答えて真っ赤になった。「花壇に行って、オシロイバナの種を集めよう!」無理矢理、話を変えた。

ポケットに押し込んだメモは、家に帰ってから広げて読んだ。

  9/10(土)の3時に三角公園

僕は折り紙で作った袋に指輪を入れ、三角公園へ向かった。弟のヒロトが「僕も行きたい!」と言っていたけれど「後でな。」と置いてきた。

公園に着くと、学校では見ない髪型のノンちゃんが待っていた。可愛いな… と思った。

「早いね。待った?」
「ううん、さっき着いたばかり。今日は何?」
「僕、ちゃんと謝ろうと思ってさ。で、お詫びも持ってきたんだけど…」
「お祭りの日のことなら、本当にごめん。お詫びなんていいよ。」
「でも、僕が浴衣姿のノンちゃんが珍しくて、ず〜っと見ていたのが、嫌だったんじゃないかなと思って… 違うの?」
「ええっ?私、綿あめ食べ歩いていたのを馬鹿にして眺めていたのかと思ってた。だから…」
「なんだ。お祭りで綿あめ食べんのは、普通じゃん!そんなこと思わないよ。金魚の浴衣が似合っているなぁと思って見ていたんだ。本当だよ。」
「浴衣、…似合っていた?」
「うん。とっても!」
「ごめんね。ウフフ… 私、勘違いしてた。」
「良かった。嫌われてなくて!」
「え〜っ?嫌いになんかなってないよ。私も、アキトくんに嫌われてなくて良かった!」
「じゃあ、仲直りのしるしで… コレ、あげる。」
「何? …!!」

「ねぇ、パパとママって、ず〜〜っと前はお友だちだったんでしょ?どうして結婚したの?」

「何ででしょうね。」

ママは「ウフフ…」と笑ってパパを見ていた。

ママの宝石箱の中に、あの日の小さな指輪が入っていることをパパは知らない。

パパの名刺入れの底の色褪せた折り紙が、指輪を入れていた袋だったことは誰も知らない。


◇◇◇ 了 ◇◇◇ 

noteの世界に入り、約一年半。初めて『依頼を受けて書く』ということにチャレンジしました。それまでは、気の向いた時に気の向いたことを書く…そんな日々でした。企画モノでお題があると、頭の体操のような感じで参加したり、良い気分転換みたいに思って投稿していました。

しかし、今回は自分の気分で書くのではなく、依頼されたもので、テーマと〆切もあります。おまけに、目の肥えた読者さまがたくさんいらっしゃる『ピリカ文庫』です!どうしましょう…とも思いましたが、『冬ピリカ』『夏ピリカ』で賞をいただいたので、ご恩返し…というか、期待には応えたいじゃないですか!(応えられているかはともかくとして)

今回のテーマは「秘密」。パッと頭に浮かんだのは秘密基地なんですが、別の機会に秘密基地のこと書いたことがあったので… かと言って、秘密の香りがプンプンのスリルとサスペンスの物語は書けないし…(書こうと努力もしない)、秘密の恋心で、ドキドキキュンキュンするようなお話となりました。ハッピーエンドが大好きです。ちょっと少女漫画の世界かしら。

秋の夜長に、軽い気持ちで読んで楽しんでいただけたら…と思います。

ピリカさん、楽しく書かせていただきました。ありがとうございます。2000字をオーバーしてしまいましたが、お許しください。

#ピリカ文庫
#創作

いいなと思ったら応援しよう!