豊かになるカザフ、沈む日本:購買力平価(PPP)が暴く「先進国神話」の終焉
ロシアとの「絶対同盟」を主軸とした多極化世界の歩き方
国際政治において、カザフスタンはしばしば「ロシアと西側の間で揺れる国」として描写されがちですが、これは完全な誤りです。カザフスタンにとってロシアとの同盟は、選択の余地のない「国家存立の絶対条件」です。
しかし同時に、彼らはロシアの「従属国」でもありません。トカエフ大統領が率いるカザフの政治方針の本質は、「ロシアとの軍事・経済同盟を100%堅持し、その強固な後ろ盾(A面)を担保にした上で、中国やグローバルサウス、西側から富とインフラ投資を極限まで引き出す(B面)」という、全方位の多極化(マルチベクター2.0)戦略にあります。
軍事・安全保障:ロシアとの血の同盟(CSTO)
カザフスタンにとって、ロシアは最大の安全保障の出し手です。2022年1月の国内暴動(アルマティ騒乱)の際、トカエフ政権の要請に応じてロシア主導のCSTO(集体安全保障条約機構)の平和維持部隊が電撃介入し、国家の崩壊を防いだ歴史は記憶に新しいところです。
直近の動向(2026年4月〜5月)を見ても、ロシアのラブロフ外相がアスタナを訪問し、「2027〜2028年の外交・防衛協調ロードマップ」に署名したほか、ミシュスチン首相との間で2030年に向けた大規模な包括的経済協力プログラムが動いています。
【カザフの防衛リアル】
・7,500km超に及ぶ世界最長の連続陸上国境をロシアと共有。
・防衛ドクトリン、軍事規格、兵器体系のほぼ全てがロシア製。
・バイコヌール宇宙基地のロシアへの租借関係も継続。
カザフにとって、ロシアとの同盟を破棄することは「自国の防衛放棄」と同義であり、この主軸がブレることは現在の政権下では万に一つもあり得ません。
経済・エネルギー:ユーラシア統合とインフラの生殺与奪
経済面では、ロシア主導のEAEU(ユーラシア経済同盟)の創設メンバーとして、関税や物流、労働市場がロシアと深く統合されています。両国の貿易額は年間約300億ドル規模に達しており、ロシアはカザフにとって最大の投資国・貿易相手国であり続けています。
特にエネルギー分野において、カザフはロシアに首根っこを押さえられています。
CPCパイプラインの現実: カザフが産出する原油の約8割は、ロシア領内を通過して黒海のノボロシースク港に至る「CPC(カスピ海パイプラインコンソーシアム)」を経由して世界に輸出されています。つまり、ロシアがこのバルブを閉めれば、カザフ経済は一瞬で窒息します。
だからこそ、カザフはロシアとの実務的な協調を最優先します。欧米メディアが「制裁によるロシア離れ」を煽る裏で、カザフのベクテノフ首相はモスクワとの間で、エネルギー・サプライチェーンの強靭化に向けた実務協議を冷徹に積み重ねています。
外交戦略「マルチベクター2.0」:なぜ国連で棄権するのか?
では、なぜカザフスタンはウクライナ紛争においてロシアを全面擁護せず、国連総会で「棄権」に回り、ウクライナの領土一体性を主張するのでしょうか?
ここに、トカエフ大統領(元国連事務次長であり、中露英に堪能な超一流の外交官)の凄みがあります。これはロシアへの反逆ではなく、「ロシアの同盟国だからこそ、巻き添え(二次制裁)を食らって共倒れするのを防ぐ」ための極めて論理的な計算です。
① 西側の二次制裁を回避する「防波堤」
カザフスタンがロシアと全く同じ行動(例えばウクライナ東部の並合承認など)をとれば、西側諸国から金融制裁(SWIFT排除や資産凍結)を課されます。そうなれば、カザフの金融システムは麻痺し、結果としてロシアへの物資や経済的な窓口としての機能すら失ってしまいます。カザフが「西側のルールを遵守する」とアピールすることは、自国とロシアの双方の経済的な“息の根”を繋ぎ止めるための、同盟国としての高度な役割分担なのです。
② 中国(北京)という「第二の重石」
国連の決議データ(近年の投票傾向の定量分析)を詳細に紐解くと、カザフスタンの投票行動が最も一致しているのは、ロシアでもアメリカでもなく「中国」です。
カザフにとって、隣国・中国は最大の市場であり、「一帯一路」の核心的ハブです。ロシアと100%同調するのではなく、中国の外交姿勢(主権尊重、しかしロシアの安全保障上の懸念にも理解を示す)にピタリと足並みを揃えることで、ロシアからの過度な政治的圧力をいなす「対抗均衡(カウンターバランス)」として中国を利用しています。
国内政治:2026年「新憲法」の採択と体制の盤石化
国際関係が激変する中、トカエフ政権は国内の権力基盤を圧倒的なスピードで固めています。
最新アップデート(2026年3月15日): カザフスタンで国家憲法の改正を問う国民投票が実施され、87%を超える圧倒的な賛成多数で採択されました。
これは、初代大統領ナザルバエフ時代の「身内資本主義・利権構造」を完全に一掃し、トカエフが掲げる「公正なカザフスタン(Just Kazakhstan)」という大義名分のもとで中央集権を再強化する試みです。
西側からは「民主化への前進」と評されますが、本質は「地政学的な大嵐(ウクライナ紛争や米中対立)に耐えうる、強力でブレない国内統治体制の確立」です。
メディアの「温いプロパガンダ」を剥ぎ取った真実
現在のカザフスタンの政治方針をまとめると、以下の表のようになります。
政策セクター表面的な見方(西側メディア風)剥き出しのリアル(真の方針)安全保障ロシアの脅威に怯え、距離を置こうとしているCSTO同盟を核心とし、ロシアの軍事力を自国の体制維持の究極の担保とする。経済・物流ロシアを迂回する「中央回廊」で脱ロシアを狙うロシア経由のCPCを主軸としつつ、中国やEUの資金でインフラ(ハブ)を整備し、国家の地政学的価値を吊り上げる。外交姿勢親露と親西側の間で引き裂かれているロシアとの同盟をベース(前提)に、中国と足並みを揃え、西側の制裁ルールを逆手に取って自国の経済主権を守り抜く。
カザフスタンは、欧米が期待するような「反露の旗手」になる気など毛頭ありません。
彼らにとってロシアは、地政学的な「宿命」であり「最強の盾」です。その盾を構えたまま、中国の富を吸い上げ、西側の制裁をいなす――この冷徹な「大国操縦術」こそが、カザフスタンの正確な政治方針です。
これだけ徹底して「国益の最大化」に全振りしているカザフの立ち回りを見ると、国際政治における「同盟」の定義そのものが、いかに利害の上に成り立つシビアなものかが分かります。このカザフの「全方位サバイバル戦略(マルチベクター2.0)」の具体策について、さらに切り込んでみたい部分はありますか?
トカエフ大統領の国民の評価
最大の功績:「ナザルバエフ一族の特権剥奪」への拍手喝采
トカエフに対する最もポジティブな評価は、初代大統領ナザルバエフの「お世継ぎ」という操り人形の座を蹴り破り、旧体制の腐敗した利権構造(家政)を徹底的に解体したことにあります。
1月の騒乱(2022年)の転換点: 国民が最も爆発したのは、ナザルバエフ一族が国家の富(石油・ガス利権)を独占していたことへの怒りでした。トカエフはこの暴動を機に、ナザルバエフを安全保障会議議長から解任し、その親族たちを政府高官や巨大国営企業のトップからことごとく引きずり下ろしました。
国民の本音: カザフの一般市民にとって、トカエフは「自分たちの代わりに富を独占していた富裕層(オリガルヒ)を退治してくれた男」であり、この一点において、彼は前体制とは一線を画す「まともな大統領」として強く支持されています。
外交への評価:ロシア・中国をいなす「外交官トカエフ」への全幅の信頼
カザフスタン国民、特に多数派であるカザフ系住民の民族的自意識(パトリオティズム)は、ウクライナ紛争以降、非常に高まっています。国民は「ロシアの同盟国」である現実を受け入れつつも、「ロシアの属国」になることは激しく拒絶しています。
プーチンの前での「毅然とした態度」: トカエフがロシアのTV番組や国際フォーラム(サンクトペテルブルクなど)の場で、プーチンを目の前にしながら「ウクライナ東部の独立は認めない」と言い放った一連の態度は、国内で「国家の尊厳を守った」として猛烈に評価されました。
「彼しかいない」という現実: 国連事務次長を歴任し、中露英に堪能なトカエフの「プロの外交手腕」がなければ、カザフはロシアに飲み込まれるか、西側の制裁で干からびていたかもしれない――。この「大国を操る技術」に対して、国民は非常に高い実務的信頼を寄せています。
不満と冷めた視線:「結局、何も変わっていない」という経済的現実
一方で、知識層や若い世代、労働者層からの評価には、冷ややかな部分も多々あります。
「新カザフスタン」の看板倒れ: トカエフは「聞く耳を持つ国家」「公正なカザフスタン」を掲げ、2026年の新憲法採択でも「超大統領制からの脱却(権力分散)」をアピールしていますが、実質的な野党の排除や、メディアへの締め付けは今も続いています。
物価高への苛立ち: 国民が最も直面しているのは、インフレと生活苦です。石油依存の経済構造は変わっておらず、ナザルバエフの親族から没収した財産が、今度は「トカエフに近い新たなエリート層」に付け替えられているだけではないか、という不信感(既視感)が常に燻っています。
国民の評価を凝縮した構造
カザフスタンの世論をシンプルに図式化すると、以下のようになります。
評価の側面国民の具体的な受け止め方【加点】対・旧体制ナザルバエフ一族を追放し、国家の私物化を終わらせてくれた。【加点】対・外交ロシアに媚びず、中国や西側とも渡り合う「超一流の盾」として機能している。【減点】対・内政】民主化や憲法改正はポーズ(化粧)で、本質的な独裁体制と経済格差は変わらない。
「トカエフ以外に、この巨大な国を安定させ、露中米の圧力から守れる男がどこにいるのか?」
これが、カザフスタンの有権者の最大公約数的な本音です。熱狂的な崇拝(かつてのナザルバエフのような個人崇拝)はありませんが、「国家の生存という冷酷なゲームにおいて、トカエフというカードが現状のベストである」という冷徹な「合意」が、彼の高い支持率を支えています。
カザフスタンの20年後は?
人口動態の激変:完全なる「カザフ・ナショナリズム」の国へ
20年後のカザフスタンを決定づける最も確実な要素は、現在の中央アジアで起きているベビーブーム(出生率約2.9)と人口構成の変化です。
ロシア系の消滅とカザフ化: ソ連崩壊時、国内のロシア系住民は4割近くに達していましたが、現在はすでに15%以下に低下しています。20年後にはロシア系住民の大半が高齢化で減少し、人口の9割以上をカザフ系(および他の中央アジア系・ムスリム系)が占める国になります。
言語とアイデンティティ: 現在、都市部やビジネス、行政のインフラ言語である「ロシア語」は完全に主役の座を降ります。ラテン文字化されたカザフ語が名実ともに第1言語となり、ロシアとの「歴史的・情緒的な連帯感(ソ連の記憶)」を持つ世代は完全に政権中枢から退場します。
政治への影響: 20年後の政権は、現在よりもはるかに強い「カザフ・ナショナリズム」を掲げる必要があります。ロシアとの同盟関係(CSTOなど)は制度として維持される可能性が高いですが、それは「兄貴分への敬意」ではなく、純粋な安全保障上の「実利の割り切り」へと完全に変質します。
経済:「脱石油の成否」とレアメタル帝国への移行
現在、カザフスタンの国家財政は原油輸出(CPCパイプライン)に依存していますが、20年後は世界的なカーボンニュートラル(脱炭素)の潮流によって、現在のビジネスモデルは維持できなくなります。
没落するリスク台頭するチャンス化石燃料の価値低下: 欧州向け原油の需要が細り、ロシアにルートを握られたCPCパイプラインの地政学的レバレッジ(交渉力)は低下します。新エネルギー資源の覇権: カザフは世界最大のウラン生産国(世界シェアの約4割)であり、20年後に次世代原子力発電(SMR:小型モジュール炉など)が世界の主流になれば、そのエネルギー覇権はさらに強固になります。さらに、EVやハイテク産業に不可欠なクリティカル・ミネラル(リチウム、コバルト、レアアース)の供給源として、世界中から投資が殺到する「資源大国」の地位を維持します。
現在トカエフ政権が進めている「国家戦略2050」の成否は、このウランとレアメタルへの経済転換、そして「アスタナ国際金融センター(AIFC)」を軸とした中央アジアの物流・金融ハブ化がどこまで機能するかにかかっています。
地政学:ロシアの「同盟国」から、中国の「事実上の経済保護国」へ
20年後、モスクワとアスタナの関係は、力関係が逆転するか、あるいは決定的な変容を迎えます。IMFの予測でも、カザフスタンの1人当たりGDPはすでに購買力平価(PPP)ベースでロシアを凌駕し始めており、20年後には経済的な豊かさでカザフがロシアを明確に引き離す可能性が極めて高い状況です。
ロシアのレバレッジ低下: ロシアが人口減少と長期にわたる制裁で国力を消耗していく中、カザフに対する「圧倒的な宗主国」としての影響力は薄れます。
中国(北京)による「静かな包囲」: ロシアの影響力が低下した空白を埋めるのは、西側ではなく中国です。20年後のカザフスタンは、中国の「一帯一路」および「中央回廊(ミドル・コリドー)」の完全な中核インフラとして組み込まれます。カザフのインフラ、鉱山、物流網の多くは中国資本によって管理され、経済的な実質は「中国の経済圏内」に収まります。
20年後のカザフスタンの姿
20年後のカザフスタンは、「ロシアとの軍事同盟の看板(盾)を維持したまま、中国のサイフ(経済)で潤い、中東やグローバルサウスのイスラム世界との紐帯を強める、完全にカザフ化された資源大国」です。
欧米が期待する「親西側の民主主義国」にはなりません。相変わらず「強力な中央集権エリート」が統治する安定重視の国家であり、ユーラシアの地政学的な「要石(キーストーン)」として、中露米のどれか一つに全振りすることなく、冷徹にバランスを取り続けるでしょう。
日本とのこの先の関係は?
経済・資源:中国を迂回する「レアメタル・セキュリティ」の生命線
日本にとってカザフスタンは、今後「自動車・半導体産業を維持するための命綱」としての存在感が圧倒的に高まります。
ガリウムの「脱・中国9割」の受け皿: 次世代のパワー半導体や電気自動車(EV)に不可欠なレアメタル「ガリウム」は、現在世界生産の9割以上を中国が握っています。これに対し、日本の三菱商事グループなどはカザフスタンでガリウム回収施設を建設し、全量を日本へ輸出する構造を作っています。
ウランと蓄電池材料の確保: 日本はエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などを通じ、カザフが誇る世界一のウランや、ニッケル、リチウムといった蓄電池に必要な金属の採掘・分離技術への投資を加速させています。
今後のリアル: 日本にとってカザフは「遠い内陸国」ではなく、中国が資源カード(輸出規制など)を切ってきた際の最大の代替調達先(エスケープルート)になります。
インフラ・ロジスティクス:「中央回廊」への日本のコミット
カザフが進める、ロシアを迂回して欧州へと抜ける物流網「中央回廊(ミドル・コリドー)」において、日本の「質の高いインフラ・DX(デジタルトランスフォーメーション)技術」が深く食い込んでいきます。
港湾・鉄道のハイテク化: 砂漠やステップ地帯、そしてカスピ海を渡る過酷なルートの定時運行やデジタル管理(横河電機のプラント制御システムなど)において、日本企業の技術がインフラの背骨を支える形になります。
カザフ側の計算: カザフからすれば、この物流ルートが「中国資本(一帯一路)だけ」で埋め尽くされると、将来的に北京に生殺与奪を握られます。そこに「日本(およびEU)」をプレイヤーとして引き込むことで、中露に対するカウンターバランス(お重し)にしたいという明確な思惑があります。
人流・アクセス:直行便就航をめぐる「ビザと安全保障」のせめぎ合い
直近の動向として、カザフスタンのフラッグキャリアであるエアアスタナが、「東京(成田)〜アルマトイ」の直行便を就航させる計画を推進しています。
実務上のハードル: 機材の問題ではなく、カザフ国民に対する日本の「ビザ発給要件の厳しさ」といった実務的な障壁の調整が続いています。日本側には、ロシアとの同盟国であるカザフを経由した「不法入国や技術流出」への警戒(セキュリティ)が根底にあるため、単純な観光促進だけでは進まない生々しさがあります。
20年後への展望: しかし、ビジネスハブとしてのアスタナへの日本人の往来や、高度IT人材・資源ビジネスの需要から、インフラとしての直行便接続は不可欠であり、今後1〜2年以内には政治的妥協点が見出される見通しです。
日本とカザフの「距離感」の正体
この先、両国は「価値観を共有する同盟国」にはなり得ません。カザフはロシアの安全保障の枠組み(CSTO)の中に留まり続けますし、日本はアメリカの同盟国です。
しかし、だからこそ面白い。お互いの陣営が違うからこそ、「西側の最先端技術と資金が欲しいカザフ」と、「中露の裏庭にある超巨大な資源地帯にアクセスしたい日本」の利害が、冷徹に合致するのです。
綺麗事抜きの「資源とインフラの戦略的パートナー」として、両国はアジアで最も重要な「大人の関係」を築いていくことになります。
カザフのこの先の物価は?
2026年現在のインフレを決定づけている「3つの直近ファクター」
現在からここ数年にかけて物価を押し上げているのは、トカエフ政権自身が進める経済・財政改革の「副作用」です。
消費税(VAT)の増税: 2026年、カザフ政府は国家財政の健全化(脱・石油依存)のために付加価値税(VAT)を12%から16%へと一気に4ポイント引き上げました。これがすべての商品・サービスの価格に直接上乗せされています。
公共料金・燃料価格の「凍結解除」: 2022年の暴動(燃料価格の高騰が引き金)以降、政府は電気・ガス・ガソリンの価格を補助金で無理やり抑え込んできましたが、そのモラトリアム(凍結)が限界を迎え、2025年から2026年にかけて段階的に解除されています。インフラの維持コストが市場価格並みに跳ね上がっている状態です。
ロシアからの「インフレの輸入」: 最大の貿易相手国であるロシアが、戦時経済の過熱と人手不足でインフレ(年率6〜8%台)を起こしており、そこから輸入される各種消費財や工業製品の価格も自動的に高くなっています。
20年後(中期・長期)の物価:購買力の上昇と「資源国病」の戦い
では、20年後の未来に向けて物価はどう動くのか。IMFは、カザフスタンの1人当たり名目GDPが2026年中に中国を抜き、2031年にはロシアを追い抜くと予測しています。国全体が「豊かな国」の仲間入りをしていくプロセスで、物価の質が変わります。
【1人当たり名目GDPの逆転予測(IMF)】
2026年:カザフスタンが「中国」を上回る見通し
2031年:カザフスタンが「ロシア」を上回る見通し
この「急激な豊かさ」に伴い、長期的な物価動向には以下の力学が働きます。
サービス価格と人件費の暴騰: 経済が発展し、都市部(アスタナやアルマトイ)を中心にホワイトカラーやIT人材の所得が急上昇します。これにより、家賃、外食、医療、教育といった「国内サービス」の物価が、現在の東欧並み、あるいはそれ以上の水準へと跳ね上がります(現在の東南アジアの都市部で起きている現象の激しい版です)。
通貨テンゲの「オランダ病(資源国病)」リスク: ウランやレアメタルの輸出で外貨が大量に流入すると、自国通貨テンゲの価値が強くなります。通貨が強くなると輸入品は安くなりますが、国内の農業や製造業(非資源セクター)が競争力を失って壊滅するため、結局は「生鮮食品から日用品まで、あらゆるものを高い輸入物ガタ(輸送コスト上乗せ)に頼らざるを得ない」という、中東型の高物価構造が定着する恐れがあります。
この先のカザフスタン物価のロードマップ
タイムライン物価のリアルな姿背景にある力学現在〜3年後 (2026〜2029)年率 9.5% 〜 11.5% の高インフレ増税(VAT 16%化)、公共料金の凍結解除、18%の超高金利による締め付け。5年〜10年後 (2030年代初頭)年率 5% 〜 7% への緩やかな減速経済の成熟に伴い、中銀のコントロールが一定程度効き始めるが、ロシアからの輸入依存度が下がるかどうかに左右される。20年後 (2046年前後)「先進国並み」の高物価・高コスト構造人口の9割を占めるカザフ中間層の購買力が爆発。家賃やサービス価格は現在のロシア・東欧を完全に凌駕。
国が豊かになるスピード(GDPの上昇)に対し、一般市民の給与が追いつくかどうかのせめぎ合いが続きます。トカエフ政権がナザルバエフ時代の財閥(オリガルヒ)から没収した資産を、どれだけ「中間層の底上げ(減税や社会保障)」に還元できるか。
これができなければ、20年後のカザフスタンは「資源で数字(GDP)だけは立派だが、一般市民にとっては物価が高すぎて住みづらい、歪んだ格差国家」に成り下がります。
GDP比較:総量では日本だが、個人レベルでは猛追されている
まず、2026年現在の両国のGDP(名目および購買力平価:PPPベース)の最新データを比較します。
指標(2026年予測値)日本カザフスタン比較のリアル
国全体の経済規模
(名目GDP総額)
約4.38兆ドル
(世界4位)
約3,600億ドル
(世界40位圏)
人口規模が違うため(日本1.22億人 vs カザフ約2,100万人)、国全体のパワーでは日本が圧倒しています。
1人当たりの豊かさ
(名目GDP/人)
約35,700ドル約17,500ドル単純な為替換算(ドル建て)では、日本はカザフの約2倍の「給与・付加価値」があるように見えます。
生活実感に近い豊かさ
(1人当たりGDP PPP)
約59,200ドル約48,200ドルここが最大のポイントです。 物価の違いを調整した「購買力平価(PPP)」で見ると、その差は一気に縮まり、カザフは日本の約8割の水準まで肉薄しています。
20年後の逆転劇の現実味: 日本の成長率が0.7%前後で低迷(実質マイナス成長と円安)する一方、カザフは年率4〜5%台の成長を維持しています。このままいけば、20年後どころか「10〜15年以内」に、購買力ベースの1人当たりの豊かさでカザフが日本を追い抜く可能性は極めて高いと言えます。
物価・金利比較:「デフレ脱却のキワ」 vs 「過熱するインフレ」
物価の動き(ダイナミクス)を見ると、両国は全く真逆の病気にかかっています。
インフレ率(2026年現在):
日本:約2.2%〜2.8%(ようやくデフレを脱却し、マイルドな物価高が定着し始めた段階)。
カザフスタン:約11.0%(完全に過熱。家賃や食料品が前年比で2桁のペースで上がり続ける強烈なインフレ)。
政策金利:
日本:0.25%前後(利上げを模索中だが、いまだ超低金利)。
カザフスタン:18.0%(インフレを抑え込むための超高金利。ローンを組んで家を買うのが不可能なレベル)。
具体的なモノの値段(生活実感)の比較
「1人当たりGDP(PPP)」で差が縮まる理由は、カザフの「生活基本コスト」が日本に比べてまだ安いからです。
カザフが圧倒的に安いもの(エネルギーと基本食料):
産油国であるため、ガソリン代や電気・ガス代といった光熱費は日本の3分の1から4分の1です。また、パンや牛肉(主食)といった国内産の基本食料品も日本よりかなり安く抑えられています。だからこそ、名目所得が低くても「生活の維持」が成り立ちます。
日本と変わらない、あるいは日本より高いもの(工業製品と都市部サービス):
車(トヨタなどの日本車や韓国車は大人気ですが、輸送費と関税で日本より高額)、iPhoneなどのガジェット類、アスタナ・アルマトイの「新築タワマン」の家賃や外資系ホテルの宿泊費などは、すでに東京の一等地と変わらないか、それを超えるケースが出てきています。
まとめ:日本から見たカザフ経済の歪み
日本とカザフを比較したときに見えてくる構造は、「じわじわと貧しくなるが、安定して物価が安い日本」と、「猛烈に豊か(バブル)になっているが、狂ったように物価が上がるカザフ」という対比です。
日本人はよく「海外旅行に行くと物価が高くて驚く(買い負ける)」と言いますが、カザフスタンの都市部もまさにその一角になりつつあります。エネルギー資源(ウラン・原油・レアメタル)の価格がこの先も高止まりする限り、カザフのテンゲ建ての経済規模は膨らみ続け、数年後には「カザフの富裕層・エリートビジネスマンが、日本のリゾートや不動産を買い漁る」という光景が日常になってもおかしくありません。
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