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期待しているからです。


noteに質問箱機能が開設されたので、僕も数日前から始めてみることにした。ライトな質問から人生相談まで、早速幅広い質問が来ており、答えるのが楽しくて、時間を見つけては、ぽちぽちと回答している日々だ。



そんな質問箱の中に、以下の質問があった。





これはちょっと、長くなりそうだ。




ー夢を叶えたコバさんですがー


まず、現在の僕を見て、「夢を叶えた」状態だと思っていただいている方が、ひとりでもいることに驚いた。初めてこの質問を見た時、「どこがやねん!」と、ちゃんと声に出した。

芸歴10年目の、売れない若手芸人。
コンビ結成も同じく10年目。

M-1グランプリに憧れて芸人の世界を目指し、はや10年。漫才師を志して、ずっと真剣に漫才と向き合ってきた。だけど、コンビで賞レースの決勝へ行ったこともなければ、コンビでネタ番組に出たことさえ、一度もない。

いるのだろうか。10年間一度も解散せず、そして一度もネタ番組に出たことのないコンビは。どうかいてくれ。探さないけど。

そんな自分たちの現状を揶揄した漫才を作ったことがある。
結婚の挨拶に来た若手芸人に向かって、父親役の僕が言う。

「一回もネタ番組出たことない?普通やったら辞めるよ?」

本当に、そうだと思う。





ー辛い辞めたいと思ったことはありますかー

ずっと辛いです。

養成所の先生から、「お前らの漫才じゃ百万年経っても売れない。」と言われ、同期に笑われたあの日も。ネタ見せで作家さんから「それ続けて本気で売れると思ってる?」と馬鹿にされたあの帰り道も。テレビのオーディションで「ネタはもういいんで他なんかあります?」と目も見ないで言われた時も。

自分は「おもしろい人間だ」「特別な才能を持ってるんだ」と、盛大なる自認を持って、はるばる上京してきた。その特別な僕が、睡眠や精神まで削って必死で作ったネタなのに、それをことごとく否定される。最初はもう、意味がわからなかった。そんなはずがないと思った。未来のお笑い界を背負う人間になるんじゃなかったのか。選ばれし存在じゃなかったのか。天才じゃないのか。あれ。どうして。なにこの、どこにでもいる感じ。有象無象のひとかけらな感じ。なにかおかしい、思い描く自分の居場所と、本当の現在地が、全然合わない。誰も認めてくれない。何年も。何年も。そんなはずないけど、ありえないけど、もしかして。

俺って、才能なかったのか。


芸人は、売れてなければ「自称」でしかなくて。その実際は、フリーターだ。だから僕は、いつもその現実を忘れるように、逃げるように過ごしてきた。しかしふとその現実を強制的に見つめなければならなくなる瞬間がある。

美容院へ行くと、初めてのお店ではプロフィールを書く。そこに、職業欄がある。僕は、この職業欄を見ると、胸がざわっとする。「ああ、来た。」と思う。しかも、他の欄に比べて、職業欄が若干大きい気がする。僕は一度職業欄を飛ばして、この店をどこで知りましたか?という質問の、ホットペッパーを見て、の欄に丸をする。そんなささやかな時間稼ぎも束の間、僕のペンはいつもここで一旦止まる。そしてしばらくしてから、意を決して、しかしながらその決した意に反する弱めの筆圧で、「フリーター」と書き始める。このやけに大きい職業欄は、5文字のカタカナを入れるつもりでは設計されていないので、大きさの割に、長さが足りない。それが、僕という存在が社会の規格にさえ収まっていないように感じられて、さらに筆圧が弱くなる。

その、何気なさの一部始終が、自分の現状を見つめる行為に他ならなくて、地味に一番辛い。

それでも、辞めたいと思ったことだけは、一度もなかったです。




ー10年も続けていけた理由はなんですかー


期待しているからです。

こんなに打ちのめされても、周りからたくさん否定されても、結果が出なくても。それでも、自分への期待が、やめられないからです。

芸人を志したあの日に思い描いた夢を、10年経った今でも、自分なら叶えられると思ってしまっているからです。

そんな僕を、もうひとりの嫌な自分が「お前痛いねん。」と強く否定してきます。コイツはことあるごとに現れて、今までたくさんの人から浴びせられてきた否定的な言葉を、わざわざ思い出させてきます。否定する嫌な自分に負けてしまう日もたくさんあります。そのせいで逃げ腰になって、弱気になって、その場をやり過ごしてしまう現場もたくさんあります。

それでも、心のいちばん奥にいる自分は、今も自分に期待しています。「おもしろい人間だ」と認められる日が来ることを。


現在は、なんとかフリーターではなくなりました。名乗るとすれば、現在の肩書きは「ティックトッカー」になります。でも、ティックトッカーと書いたことは、一度もありません。迷いに迷った挙げ句、今は苦し紛れで「自営業」と書きます。
まだまだプライドまみれです。

やっぱり、期待してしまっています。
職業欄に胸を張って、「芸人」と書ける日が来ることを。





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