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掌編小説・『墓ごしらえ』

※連載中の、妖怪ハローワークより。


【埋めるなら、思い出か種を埋めろ】 

 小さい頃から『ぬりかべ』に、口酸っぱく言われていた。

 なのに、人を生き埋めにした。

 気に食わない人間がいたら、土に埋めて、上に墓を建てる。

 それが俺の性分だ。

 ある日、絡んできたヤンキーを穴に落とした。

 ケケッと嘲笑しながら。

 埋めている途中で、パトランプに顔が照らされた。その場で警察に逮捕された。

 未遂に終わった。

 5年の刑期を経て、俺は出所した。今はぬりかべの家に世話になっている。

 灰色に濁ったぬらぬらとした皮膚に、両目が長髪に隠れた男──『墓ごしらえ』が、井ノ頭通り沿いをテケテケ歩く。

 『美しの湯』に行くために、浜田山から高井戸の方へ向かっていた。

 その途中に、『妖怪ハローワーク』を見つけた。

「確か、これ。いつ出てくるか、分からねぇんだよな」

 ケケッと笑った。

「まだ、ツキには見放されてないぜ」

 墓ごしらえは、中に入った。

 12時15分──

 6番窓口の前には、墓ごしらえの姿。

 担当する男性職員は──妖怪『四面驚愕よんめんきょうがく

 その名の通り、顔の周囲に同じ顔が四つ付いている。

「どのような職種でお探しですか?」

「何でも良い」

「希望があった方が絞り込みしやすいので、出来ましたら……」

「いま50連敗中でよ。選べねえんだわ」

 四面驚愕は、シートに書かれた情報を見ながら徐々に青ざめていく。

「う、嘘ですよね……」

 四面驚愕の驚いた顔が、クルッと回転し、次の顔にひとつズレた。

「あなた、まさか……《生き埋め事件》の墓ごしらえさんですか!?」

「声がでけえ!」

 みんなが、不安そうに墓ごしらえの方を見た。

「す、すみません」

「……そうだよ」

 小声で言った。

「えー!!」

 次の顔に、回転する。

「ごめんなさ〜い!!」

「わっ、私を埋めないでくださーい!!」

 さらに連続回転し、全面驚き顔に。

 キュインキュイ〜ン──と、パチスロの確変音が鳴る。四面の顔が点滅し、そのあと全部の表情が、凪──になった。

「どういう事だよ!」

 食卓には、夕ご飯が並んでいる。

 墓ごしらえの対面。

 ぬりかべが椅子を3つ並べ、その大きな体をどすりと置いている。

「クソっ、妖怪ハローワークでも駄目だった……」

 墓ごしらえは、うなだれている。

「ゴニョゴニョ……」

 ぬりかべの声は小さく、低く籠もる。普通の人なら、何を言っているのか分からない。

 だが、墓ごしらえには聴こえた。

「駄目で当然だ? お前はそれだけの事をしたんだ──って、そんなの、俺も分かってるよ!」

「ゴニョゴニョ……」

「いや、分かっていない。分かっていれば、いちいちそんな事では凹まない──前科者には紹介出来ないって言われたんだぞ!」

「ゴニョゴニョ……」

「罪を悔いながらも諦めるな。わしが言えることはそれだけだ──……かっ、簡単に言ってくれるけどよ、俺には無理だ! 性根が腐ってるからな!」

 墓ごしらえが椅子を蹴って、家を出ていった。

 ぬりかべは、ため息を吐いた。 

 のそっと立ち上がる。食器棚の中からをラップを取り出し、食卓に戻ってきた。

 墓ごしらえの食べかけのご飯に、そっとラップを巻き、椅子を戻した。

「何だよ、ぬりかべの野郎……」

 宛もなく歩いた。もう、夜だ。

 シク……シク……。

 すぐそばの公園の中から、すすり泣く声が、聴こえてくる。

「……何だ?」

 墓ごしらえは、誘われるように中に入った。

 この公園には、砂場がない。コンクリの割合が多く、土自体が少ない。遊具はブランコだけだ。

 その片隅。

 少年が、僅かに見える土をスコップで掘っていた。傍らには猫。

 墓ごしらえは、少年に近づいていった。

 彼は泣きながら、懸命に土を掘っている。しかし浅く、全然掘れていない。

 死臭……。鼻に纏わりついた。

 猫からだ。よく見ると、ところどころ腐っている。

(何日置いたんだ……)

「おい、ガキ」

 少年は、墓ごしらえを無視して掘る。

「ガキ、こら。埋めるぞ!」

 少年の肩がビクッと動いた。彼は涙が貼りついたままの顔で、墓ごしらえを見た。

 怪物のようなその姿を見て、そのまま絶句。小刻みに震えだした。

「あっ、あ……」

「貸せ!」

 墓ごしらえが、少年のスコップを奪い取った。

「掘るってのは、こうやんだよ」

 ザクッ──ザクッ、ザクッ──

 リズム良く、墓ごしらえは掘っていく。確かにこの土は、子どもが掘るのには硬かった。

 だが、墓ごしらえは掘る専門の妖怪。こんなものは、硬いうちに入らない。

「わあ」

 いつしか少年は泣き止み、墓ごしらえが土を掘るところに見入っていた。

 ザクッ──

 最後の一回、スコップから土を掻き出した。

「まあ、こんなもんだろ」

 すり鉢状の、深めの穴が出来た。

「ありがとう」

 少年は笑みを浮かべ、墓ごしらえに言った。

「おう……」

 少年は猫を抱きかかえ、穴の中央にそっと猫を置いた。土を戻していく。

「あ〜、せぇなー!」

 墓ごしらえが手伝う。作業が進んだ。

 ちいさな土の山が出来た。

 少年は、ポケットからアイスの棒を取り出し、山に刺した。

 彼は、手を合わせる。

「チロ──やっと、お墓が出来たよ。待たせてごめんね」

 少年が、ニコッと笑みを浮かべ、墓ごしらえを見た。

「本当にありがとう。やっと埋めてあげられた」

「そうか」

 少年の体が、どんどん透けていく。

 墓ごしらえは「なるほどな」と呟いた。

「これで、ボクもお父さんとお母さんのところに──」

 言いながら、少年の体は消えた。

 墓ごしらえは、手を合わせた。それからチロの墓に背を向け、歩き出した。

 そのとき脳裏に、ぬりかべの言葉が響いた。

【埋めるなら、思い出か種を埋めろ】

「こういうのも、悪くねぇかもな」

 3ヶ月後──

 玄関で靴を履く、墓ごしらえ。脇には、大きなキャリーケース。

 ぬりかべが、後ろから話しかけた。

「……ほんとうに、この家を出て行くのか?」

 いつもより声が大きく、ハッキリしている。これなら、誰でも聴き取れる。

「ああ」

「外は、厳しいぞ」

「もう、身に沁みてるぜ」

「そうか」

 後ろは振り向かない。ぬりかべの声が不自然に震えていた。

「ぬりかべ……あんたに言われた通り、俺は今度は種を埋めてみる」

 ぬりかべが手の中で握っているチラシには、NPO団体『砂漠を花で埋めつくす会』と書かれてある。

 今日──墓ごしらえは、アフリカに飛ぶ。

「今まで育ててくれて、ありがとな」

 ドシン──と、床が揺れた。ぬりかべは膝をつき、泣いた。

 墓ごしらえは、玄関のドアを開ける。

(これからは墓じゃねえ。花で埋め尽くしてやるよ)

 ケケッと、笑った。灰色の皮膚には、朝の光が似合わなかった。



 

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